気候変動の影響・リスクと対策の意義

~取り組まなければどうなってしまうのか~

世良 多加紘

要旨
  • 2021年10月末に開催されたCOP26で石炭火力発電の逓減や途上国支援の増額を求める内容が盛り込まれる等、世界中で気候変動対策が進んでいる。そこで本稿では、最新の報告書からの知見等も踏まえながら、気候変動対策に取り組む意義について整理する。将来起こりうる環境問題を取り上げ、気候変動対策の必要性認識に資する情報整理を行うことが本稿の目的である。
  • 気候変動の状況について見ると、過去2,000年に例のないレベルで地球温暖化が進行している。温室効果ガスの増加が地球温暖化の主因であるとみられており、CO2濃度は、1980年代以降、一貫して上昇している。
  • IPCCによる報告書では、気候変動がもたらす影響として、異常気象、作物収量・水資源減少、氷床消失による海面水位の上昇、生物種の絶滅等を挙げている。工業化以降の温度上昇と環境への影響の関係性を見ると、1℃の上昇ではある程度限定的である一方、4℃の上昇ではより深刻な影響を及ぼすことがわかる。
  • 同報告書では、気候変動が人々の生活に生じさせる主要なリスクとして、①沿岸低地・小島嶼の被害、②大都市の被害、③インフラ等の機能停止、④極端な暑熱期間による被害、⑤食料不足、⑥農村の生計・収入被害、⑦沿岸部の生計を支える生態系等の喪失、⑧生計を支える陸域・内水生態系等の喪失が示されている。
  • 影響やリスクは一部が現実化しており、世界でさまざまな異常気象が発生している。世界気象機関(WMO)によれば、暴風雨等の世界の気象災害件数は、過去50年間で約5倍に増加し、経済的損失は3兆6,400億ドル(約400兆円)に達した。
  • 気候変動による影響やリスクは大変深刻であるが、裏を返せば、気候変動対策を行うことの意義と捉えられる。2100年時点でもカーボン・ニュートラルが達成できないケースでは、気温上昇が2050年時点で2℃を超え、2100年には4.5℃を上回る可能性がある。一方で、2050年カーボン・ニュートラルが実現し、その後排出量がマイナスになるケースでは、気温上昇が長期的に1.5℃を下回っている。
  • 対策を進めていく上では、個人や企業が「なぜ取り組まなければならないのか」ということを理解し納得して向き合わなければ、取組みは進まない。今と変わらない豊かさを自身の将来、未来の世代につなぐためにも、一人ひとりが必要性や意義を理解した上で、この大きな課題に取り組んでいくことが望まれる。
目次

1.はじめに

2021年10月末に開催されたCOP26で石炭火力発電の逓減や途上国支援の増額を求める内容が盛り込まれる等、世界中で気候変動対策が進んでいる。日本においても、政府によって「2050年カーボン・ニュートラル宣言」が発表される等、企業・個人問わず取組みが推進されている。そこで本稿では、気候変動対策に取り組む意義について整理する。気候変動対策が求められているのは、対策を行わなければ自然環境や経済にさまざまな不利益がもたらされ、社会全体の持続可能性が損なわれるからに他ならない。本稿では、まず、気候変動の現状について説明したのち、気候変動対策に取り組まなければどういったリスクや影響が生じるのかを示し、対策を行うことの意義についても説明する。将来起こりうる環境問題を取り上げ、気候変動対策の必要性認識に資する情報整理を行うことが本稿の目的である。

2.気候変動の状況

まず、気候変動の状況について整理する。

そもそも気候変動とは、IPCC(注1)の定義によれば、「その特性の平均や変動性の変化によって特定されうる気候の状態の変化」とされ、一時的ではなく、長期の天気・気温・降水量等の変化を指す。IPCCの報告書(後述)では、気候変動は、宇宙線の増減といった太陽活動周期の変調、火山噴火といった自然起源の変化のほか、人為起源の変化にも起因していると指摘されており、この「人為起源の変化」の一つが、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出による地球温暖化である。

1850~1900年を基準とした世界平均気温(注2)の変化(10年平均値)を見てみると、2020年時点で既に1℃以上上昇しており、過去2,000年で例がないほど地球温暖化が進行していることがわかる(資料1)。

資料 1 1850~1900 年を基準とした世界平均気温の変化(10 年平均)
資料 1 1850~1900 年を基準とした世界平均気温の変化(10 年平均)

この気温上昇の要因は、自然起源ではなく人為起源であると考えられている。自然起源のみの要因を考慮した場合と、自然起源・人為起源両方の要因を考慮した場合とで工業化(1850年頃)以降の気温上昇を推定したものをみてみると、自然起源のみの推定値では、工業化以降大きな変化はない一方、人為起源の要因も考慮したものでは、大きく上昇している(資料2)。

資料 2 自然起源要因と自然・人為起源要因の気温上昇推定値
資料 2 自然起源要因と自然・人為起源要因の気温上昇推定値

この人為起源要因の主なものとしては、化石燃料使用等のCO2排出が挙げられる。世界のCO2濃度を見てみると、1980年代以降一貫して上昇しており、こうした温室効果ガスの増加が地球温暖化の主因であるとみられている(資料3)。2020年のCO2平均濃度は413ppmであり、工業化以前の平均的な値とされる278ppmと比較すると、5割近く上昇している。

資料 3 地球全体のCO2 濃度の推移
資料 3 地球全体のCO2 濃度の推移

3.気候変動により生じる影響とリスク

つぎに、気候変動により生じる影響やリスクについて紹介する。

2021年、IPCCによって、2013年から8年ぶりとなる報告書である「第6次評価報告書(AR6)」の一部が公表された。2022年3月現在、3つに分かれる作業部会それぞれの報告書が既に公表されており、統合報告書は2022年9月に公表予定となっている。同報告書では毎回、気候変動の自然科学的根拠に関する最新の科学的知見がまとめられ、気候変動が進行することによって、具体的にどういった問題事象が起きるかという気候変動の影響や、それが人々の生活に及ぼすリスクが明確に示されている。本稿では、基本的には2013年に公表された「第5次評価報告書(AR5)」の内容を用い、一部にAR6のうち既に公表されている情報に基づいて、整理を行う。

同報告書では、気候変動の影響として、異常気象、作物収量・水資源減少、氷床消失による海面水位上昇、生物種の絶滅等を挙げている(資料4)。AR5を参考として、工業化以降の温度上昇と気候変動影響の関係性を見てみると、1~2℃の上昇では異常気象やサンゴ礁の破壊といったある程度限定的なものである一方、4℃の上昇では生物種の絶滅や通常の人間活動における危険といった、より深刻な影響を及ぼすことがわかる。

資料 4 工業化以降の気温上昇と気候変動の影響
資料 4 工業化以降の気温上昇と気候変動の影響

また、AR5では、こうした気候変動の影響が継続・蓄積した結果として、人々の生活において生じるリスクがまとめられている。主要な8つのリスクとして、①沿岸低地・小島嶼における被害、②大都市住民の被害(健康・生計)、③インフラ・重要サービスの機能停止、④極端な暑熱期間による被害、⑤食料不足・食料システム崩壊、⑥農村の生計・収入における被害、⑦沿岸部の人々の生計を支える生態系等の喪失、⑧人々の生計を支える陸域・内水生態系等の喪失、が示されている(資料5)。

資料 5 気候変動が人々の生活に生じさせる主要なリスク
資料 5 気候変動が人々の生活に生じさせる主要なリスク

このように、AR5では気候変動によるさまざまな影響やリスクが示されているが、AR6では気候変動関連のリスク評価について、AR5よりさらに厳しい評価となっている。たとえば、AR5では、気候システムにおける人類による影響について、「気候システムの温暖化には疑う余地がない。」「気候システムに対する人間の影響は明瞭である。」という表現であったが、AR6では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。」「広範囲にわたる急速な変化が、大気、海洋、雪氷圏及び生物圏に起きている。」と、より強い表現に改められている。これは、AR5が公表された2013年から気候変動がさらに進行し、その影響等がより深刻に評価されるようになったことを反映している。報道によれば、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は、AR6の第1部会報告書の内容を受けて、「報告書は、人類への赤信号だ」とコメントした。

IPCCの評価報告書では、世界の各地域で収集されたさまざまなデータ等に基づいて気候変動の影響やリスクを示しているが、これらは単なる「将来的なシミュレーション」ではない。前章で示したとおり、工業化以降の気温上昇は既に1℃以上進んでおり、同報告書が示している影響やリスクは一部が現実化している。実際2021年には、カナダでは最高気温の国内観測記録を更新し、中央シベリア南部からモンゴル北部、インドネシア、ヨーロッパ東部・中部の広範囲で5か月以上にわたって異常多雨が頻発する等、世界でさまざまな異常気象が発生している(資料6)。世界気象機関(WMO)によれば、暴風雨や干ばつ等の世界の気象災害の件数は、過去50年間で約5倍に増加している。多雨や少雨、高温や低温といった異常気象の増加は、地球温暖化に伴う地域ごとの気候変動幅拡大によるものであり、気候変動の影響であると多くの専門家が指摘している。

資料 6 2021 年に発生した世界の主な異常気象・気象災害
資料 6 2021 年に発生した世界の主な異常気象・気象災害

さらに、異常気象等の災害は、多くの死傷者を出すことに加え、経済的にも大きな損失をもたらす。WMOの試算によれば、1970年から2019年までの50年間の累計で、洪水や暴風雨といった災害が11,000件以上発生し、それらによる経済的損失は3兆6,400億ドル(2019年年間平均レートで約400兆円)に達した。

4.気候変動対策の意義

IPCCの報告等によって、気候変動による影響やリスクの大きさが明確になった。気候変動の進行がもたらす結果は大変深刻なものであるが、裏を返せば、気候変動対策を行うことの意義と捉えることもできる。2022年4月に公表されたAR6第3作業部会報告書では、温室効果ガス排出量別の世界気温変化のシミュレーションが示されている。排出削減に関する技術活用方針や削減方針にネガティブな転換が生じ、2100年時点でもカーボン・ニュートラルが達成できないケース(C8)では、工業化以降の気温上昇が2050年時点で2℃を超えており、2100年には4.5℃を上回る可能性がある。一方で、一時的CO2濃度上昇(オーバーシュート)が発生しないか限定的であり、2050年カーボン・ニュートラルを実現し、その後排出量がマイナスになるケース(C1)では、気温の上昇が長期的に1.5℃を下回っている(資料7)。

資料 7 温室効果ガス排出量別の世界気温の変化(1850~1900 年基準)
資料 7 温室効果ガス排出量別の世界気温の変化(1850~1900 年基準)

前者(C8)のケースでは、2100年には多くの生物種が絶滅し、通常の人間活動が危険なレベルまで気候変動が進んでしまっている。しかしながら、カーボン・ニュートラルを実現する後者(C1)のケースでは、現状とさほど変わらない水準まで影響を抑えることができる。このシミュレーションが意味するのは、「気候変動対策に取り組まなければ、2100年には人類が地球上で生活することが困難になるが、きちんと対策すれば地球とともに未来を歩むことができる」ということである。

5.おわりに

気候変動や環境問題の進行について日常生活の中で考える機会はそれほど多くないものの、日本でも今までにないような豪雨等の気象災害が発生する等、私たちにとって遠くないところまで、その影響とリスクが迫っている。今後はより一層、個人や企業における気候変動対策への要請が高まっていく。しかし、対策を進めていく上では、個人や企業が「なぜ取り組まなければならないのか」ということに理解し納得して向き合わなければ、取組みは進まない。本稿では、気候変動対策に取り組まなければ、どういった悪影響が生じるかについて取り上げてきたが、それを前向きに捉えれば、取り組むことの意義にもなりうる。私たちが手にした豊かさを将来の世代につなぐためにも、一人ひとりが必要性や意義を理解した上で、この大きな課題に取り組んでいくことが望まれる。

以 上

【注釈】
1)IPCCとは、気候変動に関する政府間パネルのこと。世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織で、2021年8月現在、195の国と地域が参加している。各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的に設立された。世界中の科学者の協力の下、文献・論文等に基づいて定期的に報告書を作成し、気候変動に関する最新の科学的知見の評価を提供している。 IPCCには、3つの作業部会と1つのタスクフォースが置かれており、第1作業部会は気候システム及び気候変動の自然科学的根拠についての評価、第2作業部会は気候変動に対する社会経済及び自然システムの脆弱性、気候変動がもたらす好影響・悪影響、気候変動への適応のオプションについての評価、第3作業部会は温室効果ガスの排出削減など気候変動の緩和のオプションについての評価、タスクフォースは温室効果ガスの国別排出目録作成手法の策定、普及及び改定を担当している。
2)世界平均気温とは、世界の陸域に数千箇所ある観測地点と、海洋上の大気温度の代用となる海洋表層の海水温度の平均値で求められる。平均気温は観測点の地形や標高にも依存するため、気温そのものではなく年偏差(気温変化)の形で示される。

【関連レポート】

  • 環境省(2014)IPCC「第5次評価報告書 第2作業部会報告書 政策決定者向け要約」p.7, p.8, pp.10-11, pp.14-28
  • 環境省(2021)「IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約」p.6, p.13, p.16, p.26
  • 環境省(2021)「IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)と 従来のIPCC報告書の政策決定者向け要約(SPM)における主な評価」p.1
  • 気象庁(2021)「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」
  • 気象庁(2021)「世界の年ごとの異常気象」
  • 気象庁(2021)「二酸化炭素濃度の経年変化」
  • IPCC(2022)Working Group III Contribution to The IPCC Sixth Assessment Report (AR6) Summary for Policymakers, p.29
  • WMO(2021)Atlas of Mortality and Economic Losses from Weather, Climate and Water Extremes (1970–2019), p.8, pp.18-19, p.23, p.29, p.35, p.41, p.49, p.55

世良 多加紘

世良 多加紘

せら たかひろ

総合調査部 マクロ環境調査G 副主任研究員
専⾨分野: 環境・エネルギー、人口問題

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