インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国・企業マインドは春節の反動で改善も、力強さを欠く推移が続く

~内需は政策頼みの一方、外需は国有企業と民間企業で直面する状況に違いがある可能性~

西濵 徹

要旨
  • 中国経済を巡っては、不動産不況と雇用回復の遅れが個人消費の足かせとなるなか、米トランプ政権の通商政策が外需の重石となる懸念が高まっている。昨年末にかけては政策支援や外需の駆け込みの動きが景気を押し上げ、通年の経済成長率も政府目標をクリアした。ただし、先行きの景気に不透明要因がくすぶるなか、5日に始まる全人代では財政、金融政策を通じた景気下支えに一段と注力することが見込まれる。

  • 今年は前年に比べて春節の時期が大きく前倒しされた影響はあるが、2月の製造業PMIは50.2と2ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復した。しかし、外需に不透明感がくすぶるほか、雇用回復も遅れるなど家計部門を取り巻く環境は厳しい。財新製造業PMIも50.8と上昇しており、民間企業は新興国への進出意欲を強めるなかで外需に底堅い動きがみられる。とはいえ、国有企業も民間企業もともに生産拡大の動きが確認されているにも拘らず、雇用回復の動きは小幅に留まるなど雇用創出能力が低下している可能性がある。

  • 一方、2月の非製造業PMIは50.4と小幅に改善しているが、建設業で改善する一方、サービス業は春節連休の一巡を受けて頭打ちするなど厳しい状況に直面している。内需を巡る厳しさがあらためて確認されるとともに、足下の需要は政策支援に伴い下支えされる一方、先行きはその反動も影響して下振れする懸念もくすぶる。中国経済を巡っては人口減少に伴う労働力不足が潜在成長率の重石となる懸念もくすぶるなか、マクロ的な観点での中国経済の先行きを取り巻く環境は一段と厳しいものとなることは避けられない。

ここ数年の中国経済を巡っては、不動産不況が幅広い経済活動の足かせとなるとともに、若年層を中心とする雇用回復の遅れも重なる形で個人消費は力強さを欠く展開が続いている。さらに、米トランプ政権は先月4日付で中国からのすべての輸入品に10%の追加関税を賦課する大統領令を発令させており、近年の米中摩擦や世界的なサプライチェーン見直しの動きも相俟って外需を取り巻く環境も厳しさを増している。こうしたなか、中国当局は昨年半ば以降に内需喚起を目的に、家計部門を対象とする耐久消費財の買い替え促進に向けた補助金政策(以旧換新)のほか、企業部門を対象とする大規模設備の更新を促すなど、金融緩和と財政出動による総合的な政策方針に舵を切る動きをみせている。さらに、今年の経済政策の運営方針を巡っても、経済成長を支えるべく『より積極的な』財政政策と『適度に緩和的な』金融政策に動くと方針転換を図るなど、外需に不透明感が高まるなかで内需喚起に傾注する動きがみられる。よって、昨年末にかけての同国景気は一連の内需喚起策を受けて、補助金などの対象となっている耐久消費財を中心とする消費が押し上げられるとともに、米トランプ政権の発足を前にした外需の駆け込みの動きも重なる形で底入れが確認されている。結果、昨年通年の経済成長率は+5.0%と昨春の全人代(第14期全国人民代表大会第2回全体会議)で掲げた政府目標(5%前後)をクリアした(注1)。なお、5日から全人代(第14期全国人民代表大会第3回全体会議)の開催が予定されているが、上述のように今年は積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策に動く方針が示されるなかで政策への依存度を強める展開が続く可能性が高まっている。

このように足下の中国景気は政策効果に対する依存を強める動きがみられるなか、2月の製造業PMI(購買担当者景況感)は50.2となり、前月(49.1)から+1.1pt上昇して2ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる50を上回る水準を回復している(図1)。今年は春節(旧正月)連休の時期が前年から大きく前倒しされて1月にその影響が集中したことを考慮する必要があるものの、前年の春節直後に当たる3月は50.8となっていたことを勘案すれば、足下の回復の動きは力強さを欠く推移が続いていると捉えられる。生産動向を示す「生産(52.5)」は前月比+2.7ptと大幅に上昇して50を上回るとともに、10ヶ月ぶりの水準となるなど、足下の生産活動は大きく底入れしている様子がうかがえる。さらに、先行きの生産活動に影響を与える「新規受注(51.1)」も前月比+1.9pt上昇して2ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復する一方、「輸出向け新規受注(48.6)」も同+2.2ptと大幅に上昇するも引き続き50を大きく下回る水準に留まるなど、外需の不透明感が高まるなかで内需喚起策への依存を強めている様子がうかがえる。さらに、生産活動の活発化を反映して「購買量(52.1)」は前月比+2.9pt上昇して11ヶ月ぶりの水準となるなど原材料調達の動きを活発化させる動きがみられる一方、「輸入(49.5)」も同+1.4pt上昇するも依然50を下回る水準に留まるなど、中国国内の生産活動を巡るサプライチェーンも変化している可能性がある。なお、商品市況の動きを反映して「購買価格(50.8)」は前月比+1.3pt上昇して4ヶ月ぶりに50を上回る水準となるなど企業部門は物価上昇に直面しているものの、「出荷価格(48.5)」も同+1.1pt上昇するも依然として50を下回る水準に留まり、家計部門の財布の紐が固いなかで商品価格への転嫁が進みにくい動きもみられる。そして、生産活動は活発化しているにも拘らず「雇用(48.6)」は前月比+0.5ptと小幅な上昇に留まり、当局が推進する設備更新支援の背後で自動化・省人化投資が活発化しており、製造業における雇用創出力が低下していることも影響している可能性がある。

図表1
図表1

他方、S&Pグローバルが公表した2月の財新製造業PMIも50.8と前月(50.1)から+0.7pt上昇して引き続き50を上回る水準を維持するとともに、3ヶ月ぶりの水準となるなど底入れの動きが確認されている(図2)。生産動向を示す「生産(51.6)」は前月比+0.4ptと小幅に上昇しているほか、先行きの生産動向を左右する「新規受注(52.3)」も同+0.2ptと小幅に上昇するとともに、「輸出向け新規受注(51.7)」も同+1.8pt上昇していずれも50を上回る水準となるなど、民間企業については外需の底入れを期待する向きがうかがえる。政府統計との間で異なる動きをみせている背景には、民間統計は調査対象企業に占める民間企業の割合が相対的に高い上、足下で生産活動を活発化させているEV(電気自動車)やIT関連分野では民間企業が存在感を高める動きがみられるなか、これらの分野は海外での生産活動を活発化させていることも外需を下支えしているとみられる。また、生産活動が活発化している動きを反映して「購買量(51.4)」は前月比+0.8pt上昇するなど原材料調達が拡大する一方、「原材料在庫(49.8)」は同▲1.2pt低下しており、今後も原材料の調達を活発化させることが期待される。ただし、商品市況を反映して「調達価格(50.9)」は前月比+0.9pt上昇しているものの、「出荷価格(49.3)」は同+1.0pt上昇するも引き続き50を下回る水準に留まるなど商品価格への転嫁が難しい状況にあるとともに、輸出を巡って『デフレの輸出』とも呼べる動きが続く可能性を示唆している。さらに、生産活動が活発化しているにも拘らず「雇用(49.1)」は前月比+2.9ptと大幅に上昇するも依然50を下回る水準に留まるなど雇用調整圧力がくすぶる展開が続いており、製造業において幅広く雇用が増えにくい状況にあると捉えられる。

図表2
図表2

上述したように製造業における雇用回復が遅れていることに加え、一連の内需喚起策により一部の大都市で不動産市況に下げ止まりの兆しがみられるものの、地方都市においては底がみえない展開が続くなどバランスシート調整圧力がくすぶる状況は変わっていない。こうしたなか、2月の非製造業PMIは50.4と前月(50.2)から+0.2pt上昇して50を上回る水準を維持するも(図3)、昨年の春節連休直後の3月は53.0と前月(51.4)から大幅に上昇していたことに鑑みれば、足下の状況は力強さを欠いていると捉えざるを得ない。さらに、分野別では「建設業(52.7)」が前月比+3.4pt上昇して2ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復する一方、「サービス業(50.0)」は前月比▲0.3pt低下して5ヶ月ぶりの水準となるなど頭打ちしており、春節連休期間中に盛り上がりをみせた観光関連や小売関連、飲食関連で軒並みマインドが悪化していることが重石となっている。その一方、運輸関連や通信関連、金融関連などは対照的に堅調な推移をみせている。先行きの経済活動に影響を与える「新規受注(46.1)」は前月比▲0.3pt低下するなど内需を巡る状況は厳しさを増している一方、「輸出向け新規受注(49.5)」は同+4.9pt上昇するも依然として50を下回る水準に留まるなど、内・外需双方に不透明感がくすぶる状況にある。さらに、サービス業のマインド悪化の動きが重石となる形で「雇用(46.5)」も前月比▲0.2pt低下するなど調整圧力が強まる動きがみられるなど、個人消費の回復の足かせとなる展開が続くことが見込まれる。

図表3
図表3

なお、米トランプ政権は明日(4日)付で中国からのすべての輸入品に課している追加関税の税率を10%上乗せして20%とする方針を示しており、仮にこれが発動されれば先行きの景気の足かせとなることは避けられない。他方、米トランプ政権が自国中心主義の姿勢を強めるとともに、世界経済が分断の様相を強めるなかで中国はいわゆる『グローバルサウス』と称される新興国との関係深化に動いており、民間企業の外需を取り巻く環境が比較的堅調な背景にはこうした動きも影響している可能性がある。とはいえ、世界経済が分断の様相を一段と強めれば世界貿易の萎縮が進むことが予想されるとともに、経済構造面で外需依存度が相対的に高い新興国経済にとっては景気の足かせとなることが考えられる。そうなれば中国経済にとって外需をけん引役にした景気下支えのハードルが高まるとともに、雇用回復が遅れるなかで足下の内需は政策を通じて下支えされているが、先行きはその反動による減少も見込まれるなど景気を取り巻く環境は一層厳しさを増す事態も懸念される。昨年は結婚と出産に縁起が良いとされる辰年であったほか、ここ数年の出生制限緩和策も重なり、出生数は954万人と前年(902万人)から増加している。しかし、ここ数年の都市化の進展に加え、若年層を中心とする雇用不安も重なる形で合計特殊出生率は急速に低下している上、死亡者数が出生数を上回る自然減により人口減少が進むなど生産年齢人口の減少に歯止めが掛からないなかで労働力不足が潜在成長率の重石となる動きもみられる。中国経済を取り巻く環境は、マクロ的な観点では極めて厳しい状況が続くであろう。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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