デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

ECBは6月の利下げ開始を視野に

~4月にはもう少し、6月にはかなり多くのことを知るだろう~

田中 理

要旨
  • ECBは3月の理事会で利下げを見送ったが、中期的なコア物価の見通しを2%に下方修正し、利下げ開始の準備が整いつつあることを示唆。予てより賃金動向に注目していることを明言しているが、ラガルド総裁は理事会後の記者会見で「4月にはもう少し、6月にはかなり多くのことを知る」と発言。1~3月期の妥結賃金の公表を待って、6月の利下げ開始を視野に入れている様子が窺える。ただ、個別の労使交渉を集計した賃金トラッカーは1~3月期の妥結賃金が再加速する可能性を示唆。その場合に6月の利下げ開始が見送られるかどうかは難しい判断となる。

ECBは7日に終わった理事会で、政策金利を据え置いた。ラガルド総裁は最近も、「インフレ率が2%の目標に持続的に向かうと確信するには、まだ十分な証拠がない」、「今後の物価動向にとって賃金が決定的に重要」などの発言を繰り返し、早すぎる利下げ転換が物価の高止まりを招くことを警戒してきた。今回の理事会での利下げ見送りは規定路線だが、利下げ開始までの距離がどの程度縮まっているかを見極めるうえで、声明文の文言の変化、最近のインフレ率鈍化や景気指標の底入れに対する評価、賃金動向のアップデート、スタッフ見通しで物価予想がどのように修正されるか、記者会見での総裁の発言トーン、利下げの議論を開始したか、などに注目が集まった。

政策金利に関するフォワードガイダンスの文言に目立った変化はなかったが、新たに発表したスタッフ見通しで物価の予測値が下方修正され(図表1)、予測最終年の2026年には米国型コアが2%の中期的な物価安定に到達すると見込む(図表2)。声明文では「基調的インフレ指標の多くが一段と沈静化したものの、賃金の力強い伸びもあり、国内のインフレ圧力が高止まりしている」と指摘。前回1月と同様に、ラガルド総裁は「今回の理事会で利下げは議論しなかった」と説明したが、同時に「引き締めスタンスの縮小について議論し始めた」と述べた。総裁はまた、インフレ率が持続的に2%の物価目標に向かって縮小するか、より多くの証拠やデータが必要との立場を維持した。ECBが注目する賃金指標については、「想定通りの推移を辿っている」と説明した。ラガルド総裁は「4月にはもう少し、6月にはかなり多くのことを知るだろう」と発言。1~3月期の妥結賃金データが公表される5月中旬を待って、6月に利下げを開始するのがメインシナリオとなろう。4月時点で利下げ開始を判断するには、インフレ率や景気指標がかなり大幅に下振れすることや、最新の賃金トラッカー1で明確な賃金抑制が確認されることが必要とみられ、その可能性は低い。

図表1
図表1

図表2
図表2

過去の賃金交渉では1~3月期に賃金が引き上げられることが多かった(図表3)。ラガルド総裁が1~3月期の妥結賃金の結果に注目しているのはこのためだ。賃金トラッカーは1~3月期の妥結賃金が前期から再加速する可能性を示唆している(図表4)。賃金のピークアウトを確認し、利下げを開始するのが一番美しいが、1~3月期の賃金が高止まりした場合に6月の利下げ開始が見送られるかどうかは難しい判断となろう。

図表3
図表3

図表4
図表4

出所:ECB資料より転載

以上

1賃金トラッカーは、個別の労使交渉を集計することで、妥結賃金の発表よりも早いタイミングで賃金動向を把握することが可能。詳しくは2月29日付レポート「ECBの利下げを占う賃金動向」を参照されたい。

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ