マレーシア中銀は景気下支えへ現行スタンスを維持したい意向

~4会合連続で金利据え置くも、先行きも外部環境を睨みながらの展開が続くと予想される~

西濵 徹

要旨
  • マレーシア経済を巡っては、内・外需双方に不透明要因が山積するなか、昨年は商品高や米ドル高の一巡を追い風にインフレは頭打ちの動きを強めた。中銀は昨年1月に半年に及んだ利上げ局面を休止させるなど景気に配慮する姿勢に転じる一方、足下では食料インフレやリンギ安によるインフレ懸念がくすぶる。足下の景気は下振れする動きをみせるなか、中銀は24日の定例会合でも政策金利を4会合連続で3.00%に据え置く様子見姿勢を維持している。中銀は先行きも現行スタンスを維持することによる景気下支えを志向しているとみられるが、外貨準備高は国際金融市場の動揺への耐性に乏しく外部環境に揺さぶられやすい状況は変わらない。よって、政策運営は引き続き外部環境を睨みながらの展開になると予想される。

マレーシア経済を巡っては、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国のなかでも構造面で外需依存度が高い上、財輸出の約2割、外国人観光客の1割強を中国(含、香港・マカオ)が占めるなど中国経済への依存度が高く、中国の景気減速懸念は外需を通じて景気の足かせとなりやすい。他方、一昨年来の商品高に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨リンギ安の動きも重なりインフレは大きく上振れするとともに、中銀は物価と為替の安定を目的とする断続利上げを余儀なくされたため、物価高と金利高の共存は家計消費など内需の足かせとなることが懸念された。しかし、一昨年末以降における商品高と米ドル高の一巡を受けてインフレは頭打ちの動きを強めており、中銀は昨年1月に半年に及んだ利上げ局面の休止に動くなど景気に配慮する姿勢に転じた。なお、中銀は商品高や米ドル高の動きが再燃するなどインフレ圧力に繋がる動きがみられたことを理由に再利上げに動くなど難しい対応を迫られたものの、その後もインフレは頭打ちの動きを強めたことを受けて中銀は昨年11月まで政策金利を据え置くなど様子見姿勢を維持している(注1)。足下のインフレ率は低水準で推移する展開が続いているものの、アジア新興国においてはエルニーニョ現象をはじめとする異常気象の頻発を理由とする食料生産低迷を受けて穀物などの禁輸に動く流れが広がるなかで食料インフレに対する懸念が強まるなか、同国においても食料品など生活必需品を中心にインフレ圧力がくすぶる状況が続いている。さらに、昨年末にかけての国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施が意識される形で米ドル高圧力が後退したため、リンギ相場は底入れに転じる動きが確認されたものの、足下においては再び米ドル高の動きが強まるとともにリンギ安の動きが再燃するなど輸入インフレ圧力が高まる懸念もくすぶる。こうしたなか、先日公表された昨年10-12月の実質GDP成長率は前年同期比ベースで+3.4%と前期(同+3.3%)からわずかに伸びが加速したものの、前期比年率ベースでは▲6.66%と4四半期ぶりのマイナス成長に陥ったと試算されるなど景気に急ブレーキが掛かる動きが確認されている。外需の不透明感の高まりが製造業を中心とする外需関連産業の生産活動を下押ししているほか、建設業やサービス業の生産も軒並み下振れするなど内需の弱さを示唆する様子がうかがえる。よって、中銀は24日に開催した定例会合において4会合連続で政策金利を3.00%に据え置くなど景気に配慮する動きをみせる。会合後に公表した声明文では、世界経済について「貿易の低迷が足かせとなる展開が続いており、先行きも依然として地政学リスクの行方や世界的なインフレ動向、国際金融市場を取り巻く状況による下振れリスクに晒されている」との認識を示している。その一方、同国経済について「足下は想定通りの動きが続いており、先行きは輸出の回復と内需をけん引役に改善が進むと見込まれる」としつつ、「外需の下振れや商品市況の低下による下振れリスクがくすぶる一方、技術革新の進展による波及効果や外国人観光客数の拡大、公共投資などの進捗に拠る上振れも期待される」との見方を示している。物価動向については「需要動向の安定を受けて想定通りに鈍化している」とした上で、先行きは「緩やかな推移が見込まれる」としつつ「補助金や規制価格を巡る政策変更や商品市況の動向の影響を受ける」との見通しを示している。また、足下のリンギ相場の動きについては「外部要因に拠るもので実体経済を反映したものではない」との見方を示しつつ、「外為市場の安定化に向けて十分な流動性を供給する」との考えを示している。そして、先行きの政策運営について「足下の金利水準は引き続き景気を下支えするとともに、物価と景気見通しと整合的である」とした上で、「足下の動向を警戒しつつ物価安定と持続可能な経済成長を目指す」との考えを改めて強調している。上述のように、足下の同国経済を巡っては国内・外双方に不透明要因が山積する一方、物価や通貨リンギ相場を巡るリスクもくすぶる状況を勘案すれば、先行きも中銀は現行のスタンスによる様子見姿勢を維持する可能性が高いと見込まれる。ただし、同国の外貨準備高を巡っては、昨年末にかけての米ドル高一服を追い風とする資金流入の動きを反映して拡大に転じる動きが確認されたものの、依然として国際金融市場の動揺への耐性の有無の基準としてIMF(国際通貨基金)が示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」とされる規模を下回ると試算されるなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は堅牢とは言いがたい状況にある。こうした状況を勘案すれば、先行きの政策対応を巡る困難さが増すことも予想されるなど、外部環境の動向にこれまで以上に注意が必要な展開が続くであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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