オーストラリア:金融政策(23年12月)

~市場予想通りの据え置き、再び既往の利上げ効果を見極める態勢へ~

阿原 健一郎

要旨
  • 12月5日、RBAは政策金利の据え置き(4.35%)を決定。据え置きは市場予想通り。据え置きは2会合振りで、前回会合は利上げ(+25bps、4.10%→4.35%)をしていた。
  • 据え置きの背景は、「今回会合での政策金利の据え置きは、利上げが、需要、インフレ、労働市場に与える影響を評価する時間を与える」として、政策効果の見極めに徹した。先行きは、データとリスク評価次第とし、引き続き利上げの可能性を残した。
  • 追加利上げ観測が後退し、豪ドルは対米ドル、対円いずれも一時減価した。

12月5日、オーストラリア準備銀行(RBA)は政策金利(オフィシャルキャッシュレート)の据え置き(4.35%)を決定した。据え置きは市場予想通り(+25bps:2/30人、据え置き:28/30人、ロイター調査)。据え置きは2会合振りで、前回11月の会合では利上げ(+25bps、4.10%→4.35%)をしていた。直近の10月消費者物価指数は、総合CPIが前年比+4.9%と市場予想(同+5.2%)を下回り、前月(同+5.6%)から伸びが大きく鈍化していた。オーストラリア統計局が月次インフレの基調判断に有効としている「変動の大きい品目と旅行費を除くCPI」も同+5.1%と前月(同+5.5%)から伸びが鈍化していた(図表1)。

【図表1】政策金利とインフレ率
【図表1】政策金利とインフレ率

据え置きの背景について、RBAは、「今回会合での政策金利の据え置きは、利上げが、需要、インフレ、労働市場に与える影響を評価する時間を与える」として、前回会合での利上げも含め、既往の引き締め効果を見極める姿勢を取った。前回会合から得られた国内経済に関する情報は概ね予想通りとしており、10月消費者物価指数も、サービス価格についてはほとんど政策効果に関する追加的な情報が得られていないとしている。

インフレの見通しについては、RBAは、前回会合後に公表した四半期金融政策報告で、前回公表の8月時点よりも、より長期間、高止まりする内容に見通しを修正している。特に、サービス価格等を中心として、トリム平均値は24年4~6月期まで前年比+4%以上で高止まりするとして、大きく上方修正された(図表2)。ただ、依然として、見通しの不確実性は高いとしている。不確実性の要因として、今回の声明文では海外経済について、引き続き、不動産市場を中心とした中国経済の見通しや海外紛争の影響を挙げている。国内経済については、サービス価格の高止まりや、金融政策の波及効果のラグ、労働市場が逼迫しているもとでの景気減速に対する企業の価格設定や賃金の反応に加え、個人消費の見通しを挙げている。金利上昇のもと、多くの家計は苦しんでいる一方で、一部の家計は、住宅価格の上昇や利子収入の増加等の恩恵を受けており、個人消費の見通しの不透明感は高い。サービス価格の高止まりや、海外紛争は供給制約を通じたインフレ率の上振れリスク、金融政策の波及効果のラグや中国経済の減速は、国内経済を想定以上に下押しするインフレ率の下振れリスクであり、個人消費はいずれの方向にも作用しうるため、引き続き、インフレ率の変動リスクは上下双方向にある状況が続いている。

先行きについては、前回会合同様、「適切な期間内にインフレ率が目標に戻ることを確実にするために、更なる金融政策の引き締めが必要になるかどうかは、データとリスク評価がどう推移するかに依る」と、利上げの可能性を残した。今後も据え置きを継続すると思われるが、インフレ率が、金融政策報告で示したRBAの見通しから上振れて推移し、インフレターゲットへの帰着がさらに遅れるようであれば、利上げを実施する可能性は十分にある。

なお、今回の政策決定を受けて、豪ドルは一時、米ドル、日本円に対していずれも約▲0.5%減価した(図表3、4)。様子見の姿勢が明らかになり、追加利上げ観測が後退したことで、豪ドルが売られたとみられる。

【図表2】RBAのインフレ見通しの変化
【図表2】RBAのインフレ見通しの変化

【図表3】【図表4】
【図表3】【図表4】

【図表2】【図表3】【図表4】
【図表2】【図表3】【図表4】

阿原 健一郎


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阿原 健一郎

あはら けんいちろう

経済調査部 主任エコノミスト
担当: アジアパシフィック経済、世界経済

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