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定額減税よりも巨大な減税

~なぜ、5兆円規模なのか?~

熊野 英生

要旨

岸田首相が指示した所得税減税の中身を考えてみた。通常の定額減税であれば、住民税非課税世帯への給付7万円分を併せて、約3兆円の追加予算で実現できる。しかし、報道ベースでは、対象者を拡大して、5兆円規模に膨らませる公算が高いようだ。

目次

通常の定額減税とは違う

岸田首相が、所得税減税を指示して、定額減税を軸にした減税スキームが検討されている。新聞報道では、5兆円規模の所得税減税とされたが、筆者の計算ではどうしても5兆円にはならず、3兆円程度の規模としか考えられなかった。しかし、追加的な報道では、通常の定額減税では支給を受けられない人にまで対象を増やす方針のようだ。つまり、通常の定額減税よりももっと巨大な減税が想定されているのではないかと感じられる。日本の人口が12,434万人(2023年10月)だから、国民1人平均4万円で、全体4.97兆円(=12,434万人×4万円)を意識していることが窺われる。筆者は、この所得税減税の意図が、定額減税よりも遙かに大きく、国民全員に近づける性格の大規模減税になる可能性が高いとみている。

納税分布からみた所得税

定額減税とは、例えば納税者1人4万円を上限に、所得税は支払っている納税者に納税分をキャッシュバックすることになる。非納税者や、納税額が少ない人には4万円の恩恵は届かない。

全体像を確認するために、国税庁の資料に基づいて、所得階層別の納税額をみてみよう(図表)。ここでは、給与所得者5,967万人に対して、約8割(80.8%、4,820万人)の人が納税者になっている。基礎控除や扶養控除などがあって、300万円以下の所得階層では非納税者が多い。つまり、本来の定額減税であれば、給与所得者のうち約2割は、非納税者ということで、定額減税の恩恵を受けられない。

また、自分の所得税支払いが4万円に満たない場合、4万円未満のキャッシュバックしか受けられない人も少なくない。所得階層100万円以下は1人当たり納税額が年間1.1万円(270万人)、100~200万円は年間2.1万円(552万人)となっている。これらの822万人は4万円未満のキャッシュバックになる。また、300~400万円の所得階層774万人も、推定704万人(=774万人×4÷4.4)が4万円に満たない可能性がある。そうなると、累計1,526万人、つまり納税者の約3割(31.7%)が、1人4万円未満の受け取りになる。4万円の受け取りになるのは、年間納税額が4万円を超える給与所得者である。その人数は、3,294万人程度になると計算できる。

図表1
図表1

さて、これらのデータから、上限4万円の定額減税の総額がそれくらいかを試算してみたい。納税額4万円未満の納税者の年間納税総額は、多く見積もって4,300億円だ。それに4万円以上の納税者3,294万人が4万円を受け取るとして13,200億円。両者を足して、17,500億円になる。

このデータは、2021年の給与所得者なので、それを直近のものにリバイスする必要がある。総務省「労働力調査」の2023年8月データでは、就業者(雇用者+自営業種・家族従業者)は6,773万人。その中の納税者・非納税者の構成が、給与所得者と全く同じと仮定すると、約2兆円(=6,773万人÷5,967万人×17,500億円)となる。

住民税非課税世帯が1,500万世帯あり、そこに1世帯7万円を支給すると、合計10,500億円になる。定額減税+住民税非課税世帯給付=3.0兆円になる計算だ。この数字は、報道されている5兆円規模よりも遙かに少ない。

拡大される対象

新聞報道では、次のことが報じられている。

(1)実施は2024年6月頃。1人4万円のうち所得税3万円、住民税1万円の内訳。住民税非課税世帯への給付は2023年内。

(2)扶養家族が居れば、その人数分の減税(4万円)が受けられる。

(3)住民税非課税世帯からも外れ、所得税減税が4万円に満たない納税者にも、別途、穴埋めの給付を追加する。つまり、すべての給与所得の納税者に4万円の還元を保証する。

(4)低所得の子育て世帯にも追加給付。

これらの案が実行された結果、減税規模は5兆円程度まで膨らむ。こうした説明からわかるのは、今回の所得税減税は、必ずしも通常の定額減税ではなく、それを超えた大規模なものであると理解できる。繰り返すが、通常の定額減税+住民税非課税世帯への給付を行えば、追加予算は約3兆円に収まる。それを敢えて4万円に納税額が満たない人や、扶養家族にも同額を配る。筆者は、これは定額減税という範疇ではないと思う。そもそも現在、この種の所得税減税が必要なのかどうかという点から見直した方がよい。自民党税調には、そうした専門家の議論と期待したい。

最後に、どのくらいの実質GDPを押し上げそうかを計算してみた。限界消費性向が重要だが、その割合は確からしい数字がない。そこで、限界消費性向を30%にすると、2024年度の物価上昇率を控除して、実質+0.26%の押し上げになりそうだ。限界消費性向が35%であれば、+0.31%にまで膨らむ。しかし、直感的に、給与振り込みの可処分所得が1回限りで4万円増えても、それを引き出して消費しようということは起こりにくいのではないか。限界消費性向は30%よりも遙かに低くても違和感はない。政府は、5兆円もの財源を使うのだから、事後的に景気刺激効果が大きかったかどうかを調べる責任があるはずだ。

熊野 英生


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熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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