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- 内外経済ウォッチ『日本~「非正規雇用」がなくなるとき~』(2024年5月号)
賃上げで薄まる正規/非正規の賃金格差
連合によれば、2024年度の春闘賃上げ率は5%を超えた(第2回回答集計時点)。企業業績の回復と人手不足の中、人材獲得競争の活発化を背景に大幅な賃上げを行う企業が増えている。
賃金上昇とともに生じているのが、正規/非正規の賃金格差の縮小である。資料1では正規/非正規、フルタイム/パートタイム別に1時間当たりの所定内賃金の値をまとめている。2023年/2022年の伸び率についてみると、最も上昇率が高いのが「パートタイム・非正規社員」、低いのが「フルタイム・正社員」である。この傾向はより長期で見ても同様であり、10年前の2013年からみると「パートタイム・非正規社員」の時給は+22.0%上昇したのに対し、「フルタイム・正社員」は+5.2%にとどまる。非正規社員の賃金が正社員にキャッチアップする動きが続いており、その賃金格差は縮小している。
日本では当たり前のように使われている「正規・非正規」という括りだが、多くの国ではこうした区分はない。あるのは労働時間(フル/パート)、契約期間(有期/無期)による区分だ。かくいう日本でも、実は正社員/非正規社員の定義ははっきりしたものではない。国勢調査における正規の職員・従業員の定義は「雇用者のうち、勤め先で一般職員又は正社員と呼ばれているもの」とされる。会社が正社員と言えば正社員であり、非正規社員だといえば非正規社員だ。
実際には役割や責任などについて、正社員をより大きい形としているケースが殆どだろう。しかし、仕事が同じであれば、離職率が高く、会社側のジョブセキュリティも弱い非正規雇用は本来正規雇用よりも高待遇であってもおかしくはない。まるで労働市場原理がその矛盾を突くかのように、非正規雇用者の賃金がより大きく上がってきているのだ。

「非正規雇用」の意味合いも変質していく
政府も非正規雇用を正規雇用に転換する趣旨での政策を打ってきた。一方で、人手不足の労働市場がじわじわと引き起こしているのは、非正規雇用と正規雇用の同質化である。
非正規雇用者数は増加傾向にある一方、待遇格差の縮小の中で、労働時間の自由度などの観点から非正規を選択する人も増えている。正規雇用職がないために非正規雇用に就く「不本意非正規」は減少傾向を続けている(資料2)。「恵まれた正規雇用、不遇の非正規雇用」という従来の二分法のイメージで考えると実態を見誤るケースも増えそうだ。そのイメージが根付いた「非正規雇用」という言葉も、待遇格差の縮小が進む中でその役割を変えていくのかもしれない。

星野 卓也
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 星野 卓也
ほしの たくや
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測
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