オーストラリア:金融政策(23年9月)

~市場予想通り据え置きの継続を決定、中国経済の不確実性が加わり、追加利上げ観測が後退~

阿原 健一郎

要旨
  • 9月5日、RBAは政策金利の据え置き(4.10%)を決定。据え置きは市場予想通り。据え置きは3会合連続。
  • 据え置きの背景は、今回の決定によりこれまでの金利上昇の影響と経済見通しを評価するためのさらなる時間が得られる、と金融引き締めの効果を見極めるとした。先行きは、RBAの想定する経済見通しから大きく乖離しない限り、据え置きを継続するとみられる。
  • 据え置きを受けて、豪ドルは対米ドル、対円いずれも一時減価した。

9月5日、オーストラリア準備銀行(RBA)は政策金利(オフィシャルキャッシュレート)の据え置き(4.10%)を決定した。据え置きは市場予想通り(+25bps:2/36人、据え置き:34/36人、ロイター調査)。据え置きは3会合連続。中国経済の減速懸念に加え、8月30日公表のオーストラリア7月消費者物価が、総合CPIで前年比+4.9%と市場予想(同+5.2%)を下回ったこともあり、市場では大半が据え置きと予想していた(図表1)。

【図表1】月次インフレ率の推移
【図表1】月次インフレ率の推移

据え置きの背景について、RBAは引き続き、「政策金利の上昇により、経済における需要と供給の持続的なバランスが確立されている」、「今回の決定により、これまでの金利上昇の影響と経済見通しを評価するためのさらなる時間が得られる」としている。

インフレ率の評価については、サービス価格は依然として高止まりしているとしつつも、インフレ率が引き続き低下し、25年後半にインフレターゲットのレンジに収束するというメインシナリオに変更はなかった。

今のところ、インフレ率はRBAの想定通りの推移となっているものの、その見通しは引き続き不確実性が高いとしている。不確実性の要因として、サービス価格の高止まりや、金融政策の波及効果のラグ、労働市場が逼迫しているもとでの景気減速に対する企業の価格設定や賃金の反応に加え、今回の声明文では、不動産市場を中心とした中国経済の見通しが新たに加えられた。サービス価格の高止まりはインフレ率の上振れリスク、金融政策の波及効果のラグや中国経済の減速は、国内経済を想定以上に下押しするインフレ率の下振れリスクであり、インフレ率の変動リスクは上下双方向にあるといえる。

先行きについては、「適切な期間内にインフレ率が目標に戻ることを確実にするためには、金融政策の更なる引き締めが必要になるかもしれないが、それはデータとリスク評価がどう推移するかに依る」と、前回会合から変化はない。RBAの想定している経済見通しから大きく乖離する兆しが見えない限りは、据え置きを継続すると予想される。サービス価格の高止まり等により、インフレ率が想定のパスから上振れて乖離する兆候が見られれば、23年中に再び追加利上げを実施する可能性がある。一方、中国経済の減速等により、国内経済が想定以上に減速し、インフレ率が想定のパスから下振れるような場合は、利下げに転じるタイミングを早める可能性もある。

なお、今回の政策決定を受けて、豪ドルは一時、米ドルに対して約▲0.7%、日本円に対して約▲0.5%減価した(図表2、3)。中国経済の減速懸念もあり、追加利上げの可能性後退が意識され、豪ドルが売られたとみられる。

【図表2】為替レート(対米ドル、9/5日)
【図表2】為替レート(対米ドル、9/5日)

【図表3】為替レート(対日本円、9/5日)
【図表3】為替レート(対日本円、9/5日)

【図表2】為替レート(対米ドル、9/5日)、【図表3】為替レート(対日本円、9/5日)
【図表2】為替レート(対米ドル、9/5日)、【図表3】為替レート(対日本円、9/5日)

阿原 健一郎


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阿原 健一郎

あはら けんいちろう

経済調査部 主任エコノミスト
担当: アジアパシフィック経済、世界経済

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