インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

選挙を前にトルコ中銀は様子見、リラ相場は選挙後に混乱の可能性も

~大統領選は大激戦、選挙後の政権の枠組如何では政策運営の行方に不透明感が高まる懸念~

西濵 徹

要旨
  • トルコでは、来月14日に大統領選と総選挙が予定されるなど政治の季節は佳境を迎えている。20年に亘り政権を担うエルドアン大統領は再選を目指す一方、主要野党は共闘して事実上の一騎打ちとなるなかで激戦となっている。他方、総選挙では与党AKPが優勢を維持しており、選挙後の政権の枠組は不透明である。足下のインフレ率は頭打ちに転じるも依然インフレ収束にほど遠い状況が続くなか、大地震の復興を受けて経常収支や財政収支は急速に悪化しており、足下の経済のファンダメンタルズは脆弱さを増している。
  • ここ数年の中銀はインフレ昂進にも拘らず大統領の圧力を受ける形で利下げを余儀なくされた上、大地震を受けて2月にも追加利下げに動いた。中銀は27日の定例会合で政策金利を据え置いたが、選挙前のタイミングで景気下支えを重視する姿勢を改めて強調した。現在の中銀は独立性を失うなかで通貨リラ相場はじり安の展開が続く。金融市場では選挙後の政策転換を期待する向きがあるも、エルドアン氏勝利やねじれ状態となれば政策運営が行き詰まる可能性もあり、リラ相場が大きく上下に振れることも懸念される。

トルコでは来月14日に大統領選挙(第1回投票)と大国民議会総選挙の実施が予定されている。2003年から首相を、そして、2014年から大統領を務めるなど過去20年に亘って政権を担ってきたエルドアン氏にとっては、同国が今年10に建国100周年となる重要な年を迎えるなか、『建国の父』であるムスタファ・ケマル(アタトゥルク)初代大統領を意識した政権運営を行ってきたこともあり、極めて重要な選挙となる。しかし、ここ数年の同国ではインフレが常態化するなど国民生活に深刻な悪影響が出ているほか、今年2月に同国南東部で発生した大地震の初期対応を巡る不手際も重なり、エルドアン政権や与党AKP(公正発展党)は厳しい状況に直面している。さらに、今回の大統領選では主要野党6党が共闘して最大野党CHP(共和人民党)のクルチダルオール氏を擁立しており、エルドアン氏との事実上の『一騎打ち』となり(立候補者は両者を併せて計4名)、過去の大統領選と比較しても激戦状態となっている(注1)。なお、先月に選挙戦の火ぶたが切られて以降の世論調査においては、エルドアン氏とクルチダルオール氏の支持率がほぼ拮抗する一方で両者とも5割に届かない展開が続いており、両者による決選投票に持ち込まれる可能性が高まっている。他方、同時に実施される大国民議会総選挙を巡っては、与党AKPの支持率は低下傾向が続くも単独政党として常に首位を走る展開が続いている上、足下では最大野党CHPの支持率を引き離す動きがみられ、選挙後も第1党を維持する可能性は高いと見込まれる。ここ数年の同国の経済政策を巡っては、エルドアン大統領が『金利の敵』を自任するなか、インフレ昂進にも拘らず中銀に様々な圧力を掛けることで利下げを後押しするなど中銀の独立性が脅かされるとともに、経済学の定石では考えられない政策運営が展開されてきた経緯がある。金融市場においては、仮に政権交代が実現すれば『正統な』経済政策への転換が図られるとの期待がある一方、エルドアン氏が再選を果たせばそうした期待は一転はく落する可能性がある。他方、大統領と大国民議会の『ねじれ状態』となれば、大地震からの復興をはじめとする喫緊の政策課題が山積するなかで政策運営を巡って両者の対立状態が障害となる可能性も考えられる。昨年末にかけて大きく上振れしたインフレ率は、昨年11月を境に頭打ちに転じて3月には前年比+50.5%、コアインフレ率も同+47.4%に鈍化しているものの、いずれも中銀目標(5%)を大きく上回る推移が続いている。さらに、前月比は大幅上昇が続くなどインフレ収束にはほど遠い状況にあり、今後は大地震の復興需要の顕在化を受けてインフレ圧力が一段と強まる可能性はくすぶる。そして、昨年以降はインフレにも拘らず中銀が金融緩和を通じた景気下支えに動いたことで経常収支は悪化の度合いを強めている上、今後は復興需要による輸入増がさらなる赤字幅の拡大を招いている上、財政赤字も急拡大する動きが確認されている(注2)。その意味では、政治の季節を前に同国経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は極めて厳しい状況に追い込まれつつあると捉えられる。

図 1 インフレ率の推移
図 1 インフレ率の推移

図 2 経常収支の推移
図 2 経常収支の推移

上述のように、ここ数年の中銀はインフレが昂進するなかでも景気下支えの観点から断続的な利下げ実施に追い込まれてきたほか、昨年は商品高や国際金融市場における米ドル高を受けて多くの新興国が利上げ実施に動いたにも拘らず、同国では中銀が計4回の利下げを実施するなど『逆走』状態を続けてきた。さらに、中銀は今年2月にも大地震からの復興を側面支援する観点から追加利下げを決定しており(注3)、インフレが高止まりする一方で政治の季節が近付くなかで難しい対応を迫られる展開に直面してきた。こうしたなか、中銀は27日の定例会合では政策金利である1週間物レポ金利を先月の前回会合に続いて据え置く決定を行っており、金融緩和環境を継続することで景気下支えを側面支援する姿勢を改めて強調する考えをみせている。会合後に公表した声明文では、同国経済について「大地震前までの景気は内需をけん引役に堅調な推移が続いた」とする一方、「大地震により幅広く悪影響が確認されるも短期的なものに留まると評価される」とした上で「想定以上に早く復興が進むことが予想される」との見方を示している。その上で、物価動向について「改善基調にあったものの、大地震に伴う需給バランスの悪化による影響を注視している」としつつ、「生産活動のモメンタムと雇用改善には緩和的な金融環境の維持が重要であり、現在のスタンスは物価と金融市場の安定に加え、大地震からの復興支援に充分と評価される」との見方を示している。上述のように現在の中銀は独立性を完全に失っていると捉えられる上、先月以降の国際金融市場は米国での銀行破たんをきっかけにした不透明感がくすぶるなか、選挙前という重要な時期に政策変更が行われる可能性は極めて低い上、現時点においては大地震からの復興を側面支援する姿勢を改めて強調したものと捉えられる。上述したように、足下の金融市場においては選挙後の政権の枠組を巡って経済政策の運営方針が転換されることを期待する向きもみられる一方、現時点においては選挙結果の見通しが立たない上、その後の枠組や政策志向如何では調整局面が続いているリラ相場が大きく動揺する事態も考えられる。このところのリラ相場については元々投機的な色合いが極めて強くなってきたことを勘案すれば、選挙結果により上下双方に大きく振れる可能性に留意する必要があろう。

図 3 リラ相場(対ドル)の推移
図 3 リラ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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