インドネシア中銀、ルピア安一服に加え、インフレ鈍化を想定して利上げ局面の終了を決定

~中国のゼロコロナ終了を好感する一方、米FRBの高金利維持がルピア相場を揺さぶることを警戒~

西濵 徹

要旨
  • 昨年のインドネシア経済は、成長率が+5.31%と9年ぶりの高成長となるなどコロナ禍の影響を克服している。他方、足下の景気は物価高と金利高の共存にも拘らず家計消費は底堅い動きが続く一方、外需は底入れの動きが一巡しているほか、企業の設備投資も鈍化するなど、幅広く内・外需が頭打ちしている。商品高によるインフレに加え、米ドル高に伴う通貨ルピア安は輸入インフレを招くなか、中銀は昨年8月以降断続的、且つ大幅利上げを迫られる展開が続いた。しかし、昨年末以降の米ドル高一服によりルピア相場は底打ちしており、利上げ幅を縮小させてきた。さらに、足下のインフレ率は頭打ちの動きを強めており、中銀は16日の定例会合で7会合ぶりに政策金利を据え置き、同行のペリー総裁は利上げ局面の終了を示唆している。中国のゼロコロナ終了を好感する姿勢をみせる一方、米FRBの高金利維持がルピア相場を揺さぶる懸念をみせており、当面は金利据え置きが続く一方、外部環境如何では再利上げに追い込まれる可能性は残る。

インドネシアを巡っては、昨年の経済成長率が+5.31%と9年ぶりの高成長となるなど完全にコロナ禍の影響を克服しているとみられる。しかし、足下の景気動向を巡っては物価高と金利高の共存にも拘らず家計消費は底堅い動きをみせる一方、世界経済の減速懸念の高まりを受けた商品高の一服を受けて財輸出に下押し圧力が掛かるとともに、国家用再開により底入れした外国人観光客数も頭打ちするなど総じて外需の勢いに陰りが出ているほか、金利上昇を受けて企業部門による設備投資需要に下押し圧力が掛かるなど、実態としては頭打ちの様相を強めている(注1)。なお、同国経済はコロナ禍による景気減速からの遅れるなか、世界的に商品高によるインフレ懸念が高まるなかでもインフレは低水準で推移する展開が続いたものの、ウクライナ情勢の悪化による昨年来の商品市況の上振れを受けて、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレが顕在化した。さらに、同国は慢性的に経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』を抱えるなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱な上、コロナ禍を経て財政状況は一段と悪化しており、国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)などのタカ派傾斜を受けた米ドル高の動きが強まったことで資金流出が加速して通貨ルピア相場の調整の動きが強まった。ルピア安は輸出面で価格競争力の向上に繋がる一方、輸入物価を通じて一段のインフレ昂進を招くなど、新たなインフレ要因となることが懸念された。よって、中銀は物価抑制を目的として昨年8月に約4年ぶりの利上げを実施したほか、その後も断続的な利上げに加え、物価、及び為替の安定を目的に利上げ幅を拡大させるなど難しい対応を迫られた。ただし、昨年末以降は米FRBがタカ派姿勢を後退させたことを理由に米ドル高の動きに一服感が出ており、こうした状況を反映してルピア相場も底打ちしたことを受けて、昨年12月の定例会合では利上げ幅を縮小させるとともに、先月の定例会合でも6会合連続の利上げ実施に動くも小幅利上げに留めるとともに、同行のペリー総裁は利上げ局面の終了を示唆する考えをみせた(注2)。なお、直近1月のインフレ率は前年同月比+5.28%と中銀の定めるインフレ目標(3±1%)の上限を上回る推移が続いているものの、昨年9月をピークに頭打ちの動きを強めているほか、コアインフレ率は同+3.27%とわずかに伸びは加速するもインフレ目標の域内で推移する展開が続いている。こうしたなか、中銀は16日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である7日物リバースレポ金利を7会合ぶりに据え置いており、昨年来の利上げ局面を休止する決定を行った。会合後に公表した声明文では、世界経済について「中国のゼロコロナ終了に伴いこれまでの見通しに比べて上振れする可能性がある」との認識を示した上で、同国経済を巡って「ルピア安の懸念は後退している上、中国の戦略転換により今年の経済成長率は+4.5~5.3%の上限方向にシフトする」との見方を示している。また、経常収支についても「今年はGDP比▲0.4~+0.4%の範囲に収まる」とし、ルピア相場について「ファンダメンタルズを反映して強含みする展開が期待される」とした上で「新規制(輸出企業に対する輸出代金の約3割を3ヶ月間国内に保有する義務)もルピア相場を下支えする」との見方を示した。物価動向については「コアインフレ率は目標域で推移するとともに、インフレ率も今年後半には目標域に回帰する」との見通しを示す一方、これまでの断続利上げにも拘らず「金融市場の流動性は景気下支えには充分」とするなど、政策運営は物価抑制から景気下支えにシフトしている様子がうかがえる。会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁も、物価見通しについて「想定より早く鈍化する」とした上で「今年の経済成長率は、中国向け輸出の回復と想定より早い家計消費の回復を追い風に+5.1%になる」との見通しを示しつつ、政策金利について「現状は充分な水準であり、追加利上げは必要ない」と利上げ局面の終了を示唆する考えをみせた。その一方、「米FRBが高金利を維持することはルピア相場の安定性に影響を与えることを懸念している」と述べるなど、外部環境に晒される可能性に注意する必要性に言及している。よって、当面は政策金利を据え置く展開が続くと見込まれるものの、米FRBの対応如何では再利上げに追い込まれる可能性に注意する必要があろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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