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2022.07.29
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パキスタン、「危機的状況」が一段と近づく厳しい展開に直面
~IMFの支援も状況の劇的な好転は見通しにくく、危機的状況に陥る可能性は日増しに高まる~
西濵 徹
- 要旨
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- パキスタンでは4月、カーン前政権の不信任案が可決されるとともにシャリフ新政権が発足した。2018年の政権交代を経て発足したカーン前政権はIMFからの支援などで景気、財政の立て直しに奔走したが、コロナ禍や昨年来の商品高に加え、金融市場でのルピー安が国民の不満に繋がった。シャリフ新政権もIMFの支援再開に向けて燃料補助金を廃止したが、インフレは一段と上振れするなど難しい対応が続く。中銀は金融引き締めに動くとともに、IMFは追加支援で合意したが、ルピー相場は調整の動きを強めている。支援が行われても状況が劇的に好転する可能性は見込みにくく、危機的状況に陥る可能性は日増しに高まっている。
パキスタンでは今年4月、国民議会(下院)においてカーン前政権に対する内閣不信任案が可決されて即日カーン前首相は失職するとともに、その後に行われた首相選出選挙を経てシャバズ・シャリフ氏が新首相就任した(注1)。ここ数年の同国においては、巨額のインフラ投資などに伴い歳出増や対外債務の膨張が懸念されるなど、いわゆる中国による『債務の罠』に直面しており、その背後でナワズ・シャリフ元首相が汚職容疑で収監されるなど、既存政治に対する国民の反発が高まった。こうした動きは2018年の総選挙(国民議会選挙)において、クリケットの元スター選手であったイムラン・カーン氏が率いるパキスタン正義運動(PTI)が躍進して政権交代が行われる一因になったと考えられる。カーン前政権は、友好国であるサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)、そして中国からの経済支援のほか、IMF(国際通貨基金)による財政支援の受け入れを通じて財政と景気の立て直しに奔走した。しかし、一昨年来のコロナ禍により景気が下振れする一方、IMFからの支援受け入れ条件として緊縮的な財政運営を余儀なくされたほか、昨年来の国際商品市況の上振れはインフレを招くとともに、輸入増を通じて対外収支の悪化や外貨準備の減少を招くなど、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さを増す動きに繋がった。さらに、商品高による世界的なインフレを理由に米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めるなか、国際金融市場においては経済のファンダメンタルズが脆弱な新興国に資金流出の動きが集中することが懸念された。パキスタンにおいては、経済のファンダメンタルズの脆弱さに加え、政治的混乱も重なり資金流出の動きが強まり、通貨ルピー相場は最安値を更新するなど、輸入物価を通じた一段のインフレ昂進が懸念される事態に直面してきた。こうした状況は政権に対する国民の不満が高まったことに加え、政権交代を後押しした国軍との関係悪化も表面化して野党が攻勢を強める事態となり、最終的にカーン前政権は退陣を余儀なくされた。なお、カーン前首相の失職を受けて、カーン氏に近い多数の議員が一斉に辞職して国民議会は4割近くが空席となる異常事態が続いている上、カーン氏が主導する形で支持者がシャリフ新政権に対するデモを活発化させるなど政治的には不安定な状況が続いている。他方、シャリフ新政権はIMFの支援受け入れ再開に向けて燃料補助金の廃止を決定するなど、経済の立て直しに向けた動きを進めているが、この動きを反映して6月のインフレ率は前年比+21.3%と大幅に加速しているほか、コアインフレ率も同+11.5%と中銀の定めるインフレ目標(9%)を上回る水準に加速するなど、同国経済は厳しい状況に直面している。中銀は4月初旬に250bpもの緊急利上げを実施し、物価及び為替の安定に向けた金融引き締めに舵を切る動きをみせたものの、その後もルピー安に歯止めが掛からない事態が続くなか、5月に150bp、今月にも125bpの追加利上げを実施するなど累計で525bpの利上げに動いている。さらに、シャリフ政権は今月にもIMFとの間で追加支援の実施で合意したものの、金融市場においてはその後もルピー相場は一段と調整して最安値を更新するなど底のみえない状況展開が続いている。この背景には、商品高を受けて対外収支の一段の悪化が見込まれる上、直近の外貨準備高は月平均輸入額の1.1ヶ月分に留まるなど対外的なデフォルト(債務不履行)が懸念される状況にある上、仮にIMFによる支援を受け入れた後も劇的に状況が好転することが見通しにくいことも影響している。南アジアにおいてはスリランカが危機的状況に陥っているが、パキスタンを取り巻く状況も日に日に厳しさが増していると捉えることが出来る。



注1 4月21日付レポート「パキスタン、シャリフ新政権発足も不安だらけの船出」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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