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フランス新政権の不安定な船出

~法案毎に他党の協力を要請~

田中 理

要旨
  • 6月の国民議会選挙で過半数の獲得に失敗したマクロン大統領支持会派のボルヌ首相は6日、議会で所信表明演説に臨み、極左や極右を除く全ての政党に対話や協力、必要な妥協を呼び掛けた。野党は早速、内閣不信任案を提出したが、法案毎の政権支持の可能性を表明している共和党議員が棄権すれば、不信任案の成立は回避可能。不安定な政権運営を強いられるが、政権発足直後に退陣を余儀なくされる事態はどうにか回避できそうだ。

6月のフランス国民議会(下院)選挙で過半数の獲得に失敗した大統領支持会派「アンサンブル」のボルヌ首相は、他党・他会派に政権運営での協力や連立参加を模索してきたが、十分な協力での言質を得られないまま、6日に所信表明演説に臨んだ。政策的な立場が近い伝統的な右派政党「共和党」は、物価高騰対策など一部の政策で政権に協力する方針を示唆しているが、連立参加には否定的な立場を維持している。無所属議員の一部が政権に協力する意向を表明しているが、これらの勢力を加えても議会の過半数には届かない。十分な賛成票が得られない見通しから、所信表明演説後に行うのが慣例の内閣信任投票を実施しなかった。

ボルヌ首相は、フランス国民のために議会が団結して取り組む必要性を訴え、極左政党「フランスの不服従」と極右政党「国民連合」を除く全ての政党と会派に対話や協力、必要な妥協を呼びかけた。優先する政策として挙げたのは、物価高騰による家計負担の軽減措置。ガス・電力料金の値上げ抑制、所得増加、増税回避などを約束した。また、経済成長と矛盾しない気候変動対策を重点政策として挙げた。具体的には、化石燃料依存からの脱却、再生可能エネルギーの普及促進、原子力の推進と原子炉の新設などに触れた。この他にも、雇用創出、失業者の支援、若年層の就労支援、ひとり親家庭の支援、マクロン大統領が一期目で積み残した年金改革の実現などを挙げた。

国民議会選挙で大統領支持会派に次ぐ議席を獲得した左派統一会派「新人民環境社会連合(NUPES)」は同日、内閣不信任案を提出した。所信表明演説後の内閣信任投票の実施を回避したボルヌ首相が、野党が提出した内閣不信任投票を乗り切れるかは予断を許さない。だが、前者が投票した議員の過半数の支持が必要なのに対して、後者は議員総数の過半数が不信任に投票した場合に成立する。共和党や政権支持を表明している無所属議員が投票を棄権すれば、不信任を免れる。法案毎に他党や他会派に協力を求める不安定な政権運営を強いられるが、政権発足直後に内閣不信任案が成立して退陣を余儀なくされる事態はどうにか回避できそうだ。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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