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BOEも利下げが近づく

~お手本はFRBではなく、ECB~

田中 理

要旨
  • BOEは5月のMPCで政策金利を据え置いたが、利下げを支持する政策委員が2名に増え、中期的な物価見通しが目標対比で下振れするとし、ベイリー総裁が6月の利下げ開始の可能性を排除しなかったなど、ハト派傾斜を確認。景気・物価指標の上振れで利下げ開始が遠退くFRBではなく、6月の利下げ開始を強く示唆するECBに近い立場を採る。6月の利下げ開始は今後のデータ次第だが、そのハードルはそれほど高くない。

英イングランド銀行(BOE)は9日、前日に終わった政策委員会(MPC)の結果を発表し、政策金利を5.25%に据え置くことを賛成7・反対2の賛成多数で決定した。BOEは2%の中期的な物価目標を達成するため、金融政策を十分な期間にわたって、引き締め的な状況に維持する必要があると主張してきた。英国ではインフレ率の鈍化が進み、金融引き締めの効果が実体経済を下押しし、労働需給の逼迫やインフレ圧力の緩和につながっているが、インフレの持続性を示す指標が高止まりしており、ベイリー総裁を含む7名の政策委員は、今回のMPCで政策金利を据え置くことが正当化されると判断した。ベイリー総裁は、「主要な経済データに見られる進展は心強いが、インフレ率が低水準にとどまる証拠がより多く必要で、利下げを開始する状況には至っていない」と説明した。但し、インフレ圧力がどの程度持続するか、利下げを正当化するのに必要な証拠の度合いについては、据え置きを主張した7人の政策委員の間でも見解の相違があり、今後の会合毎に金融引き締めの度合いを点検するとしている。

反対票を投じたディングラ委員とラムスデン委員は、政策変更が波及するまでのタイムラグを考慮し、円滑且つ漸進的な政策姿勢の変更を可能にするためには、今回のMPCにおいて25bpの利下げが必要であると主張した。ディングラ委員が前回に続いて利下げ票を投じたのに対して、ラムスデン委員は前回まで据え置きを支持していた。両委員は、需要見通しが弱く、賃金の伸び率も鈍化していることから、インフレ率は2%の中期的な目標を下振れするリスクがあると指摘した。

議事要旨では、賃金やサービス物価など最近の経済指標の一部は、2月時点の前回の金融政策レポート(旧物価レポート)の想定をやや上回り、MPCに立ち止まって検討する余地を与えるが、指標の上振れは通常の変動の範囲内で、過大に解釈すべきではないと指摘している。そのうえで、インフレ率が2%の目標に向かって持続的に復帰することを確保するため、金融政策を調整する準備があるとの文言を維持した。また、前回MPCと同様に、利下げを開始した場合も、金融政策スタンスは引き締め的な状況にとどまるとした。さらに、ベイリー総裁は、「我々は平時に戻りつつある」、「状況は正しい方向に向かっている」、「6月までにより多くのデータを入手する」、「6月のMPCでの利下げ開始は、今後のデータ次第で既成事実ではないが、同時にその可能性も排除されない」などと述べた。こうした一連の発言や、ラムスデン委員の利下げ支持転向、後述する物価見通しの下方修正からは、BOEのハト派傾斜が確認され、6月の利下げ開始の可能性が高まったものと判断される。なお、ベイリー総裁は「政治について議論しなかった」と発言し、年内に総選挙を控えるなか、利下げを促す政治的な圧力の存在を否定した。

同時に発表された金融政策レポートの物価見通し(市場の金利予想に基づく最頻値)は、2024年10~12月時点で前年比+2.6%、2025年10~12月に同+2.3%、2026年10~12月に同+1.6%、予測最終期の2027年4~6月期に同+1.6%と、2026年半ば以降に2%の物価目標を下振れする(図)。2月の前回見通しでは、予測最終期に向かって2%の物価目標に収斂する姿だった。見通しの前提となる市場の政策金利予想は、年末までに0.4%ポイント(0.25%刻みで1.5回程度)、2025年末までに累計で1.0%ポイント(同4回近く)、2026年末までに1.4%ポイント(同5.5回程度)、予測最終期の2027年7~9月期までに1.5%ポイント(同6回程度)の利下げを想定する。つまり、BOEは2%の物価安定の達成には、市場予想を上回るペースでの利下げが必要になると考えていることを意味する。英国以外の主要先進国中銀では、景気や物価指標の上振れを受け、FRB(米国)の利下げ開始が遠退く一方、ECB(ユーロ圏)は6月の利下げ開始を強く示唆している。ベイリー総裁は「FRBの利下げ見送りにBOEが追随する理由はない」と発言。BOEはECBほど明確に6月の利下げ開始を示唆していないが、その可能性を排除していない。利下げ開始は今後のデータ次第とするが、そのハードルもそれほど高くない。BOEの利下げ開始が近付いている。

(図)BOE金融政策レポートの消費者物価見通し
(図)BOE金融政策レポートの消費者物価見通し

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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