デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

再び欧州に押し寄せる移民・難民(その3)

~欧州各国で広がる極右の支持拡大とその影響~

田中 理

要旨
  • 移民の流入増加は、欧州各国で右派ポピュリストや極右政党の躍進につながっており、一部で政権を主導したり、連立に参加するケースもある。歴史的な経緯から極右への警戒姿勢が強いドイツ、スペイン、ポルトガルや、移民に寛容な北欧諸国など、その動きは欧州各国に広がっている。

  • 6月の欧州議会選挙でも、右派ポピュリストや極右政党の躍進が予想される。こうした勢力が議会の多数派となる可能性は低いが、欧州委員の人事や主流派政党の政策右傾化などを通じて、間接的にEUの政策運営に影響を及ぼす恐れがある。

  • EUを離脱した英国でも不法移民の流入が継続。政府は資金援助と引き換えにアフリカのルワンダに不法移民を移送する計画を進めている。移送を恐れた不法移民の一部が北アイルランド経由で隣国アイルランドに流入。移民の受け入れ是非を巡って、欧州諸国間の結束を揺るがしている。

欧州各国で極右政党が躍進

欧州への移民や難民の流入増加は、各国で右派ポピュリストや極右政党の対応をもたらすなど、様々な政治的な波紋を引き起こしている。以下、欧州の主要国における動向を概観する。

北アフリカから欧州への移民流入の玄関口の1つであるイタリアでは、移民規制の強化を訴える右派政党が近年支持を集めており、2022年秋からはムッソリーニ支持者が設立した政党の流れを汲む「イタリアの同胞(FdI)」が連立政権を率いている。当初の心配をよそにメローニ首相は、ウクライナ支援などで欧米との協調路線を採り、財政運営でも欧州連合(EU)との全面衝突を避けるが、移民規制を一段と強化した。

オランダでは移民政策を巡って連立政権が崩壊し、昨年11月に行われた総選挙で反移民や反イスラムを掲げる極右政党「自由党(PVV)」が第一党に躍り出た(2023年11月24日付けレポート「オランダにも極右政権誕生か?」)。自由党を率いるウィルダース党首は自らの首相就任を断念したものの、前政権を率いた中道右派政党「自由民主国民党(VVD)」などとの間で連立協議を続けている。

1970年代まで独裁政権が続いたスペインとポルトガルでは、全体主義体制への警戒から長らく極右政党が不在だったが、スペインでは過去2回の総選挙で極右政党「ボックス(Vox)」が第三党となり、ポルトガルでは今年3月の総選挙で極右政党「シェーガ(CHEGA)」が二大政党に次ぐ第三党に躍進した(3月12日付けレポート「ポルトガル総選挙で極右が躍進」)。

昨年9月に総選挙が行われたスロバキアでは、ウクライナへの軍事支援停止や移民規制の強化を訴える中道左派系ナショナリスト政党「方向・社会民主主義(Smer-SD)」が第一党となったが、単独過半数に届かず、極右政党「スロバキア国民党(SNS)」などと連立政権を発足した。4月に総選挙が行われたクロアチアでは、中道右派の「クロアチア民主同盟(HDZ)」が第一党の座を守ったが、単独過半数に届かず、極右政党「祖国運動(DP)」と連立を組むことで合意した。

今年秋に総選挙が行われるオーストリアでは、各種の世論調査で極右政党「自由党(FPO)」がリードする(図表1)。自由党は2017年の総選挙後に中道右派政党「国民党(OVP)」が率いる連立政権に加わったが、シュトラッヘ党首(当時)の便宜供与疑惑で2019年に連立を離脱。それから5年、汚職疑惑などで国民党が支持を落とすなか、政権復帰の機会を窺っている。

(図表1)オーストラリア総選挙の政党別支持率(%)
(図表1)オーストラリア総選挙の政党別支持率(%)

フランスでは2022年の大統領選挙でマクロン大統領が再選を果たしたが、直後に行われた国民議会(下院)選挙で大統領支持会派「アンサンブル」が過半数を失い、難しい議会運営を強いられている。後述する欧州議会選挙を6月初旬に控え、アンサンブルはルペン氏の極右政党「国民連合(RN)」に大幅なリードを許している(図表2)。ルペン氏は大統領選敗北後、党のイメージ刷新と若い有権者の支持獲得を目指し、28歳のバルデラ氏を新たな党首に任命した。政権基盤の立て直しを期待され、今年1月に将来の大統領候補とされる34歳のアッタル氏が首相に就任したが、政権の支持率は低空飛行を続けている。

(図表2)フランス選出欧州議会選挙の政党別支持率(%)
(図表2)フランス選出欧州議会選挙の政党別支持率(%)

2025年秋に連邦議会選挙を控えるドイツでは、ショルツ政権を支える連立3党の支持率が急落するなか、反移民や反グリーンを掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が批判票の受け皿となっている。来年秋の連邦議会選挙の前哨戦として注目を集めるのが、9月に旧東ドイツのザクセン州、チューリンゲン州、ブランデンブルク州で行われる州議会選挙の行方だ。世論調査では、3州ともにAfDが30%前後の支持を得て、第一党となる可能性が示唆される(図表3)。主要政党はこれまでAfDとの連立や閣外協力を否定してきたが、小さな地方自治体レベルではAfD出身の首長が誕生している。州政府レベルでもAfDの連立参加や政権主導を阻止できるかは予断を許さない。

移民に寛容な政策で知られる北欧でも近年、反移民を掲げる極右政党が支持を伸ばしている。スウェーデンでは2022年の総選挙で「スウェーデン民主党」が、フィンランドでは2023年の総選挙で「フィン人党」が、エストニアでは2023年の総選挙で「エストニア保守人民党(EKRE)」が支持を伸ばし、何れも第二党となった。ノルウェーでは2017年の総選挙後に「進歩党」が連立政権に参加、2021年の前回総選挙で下野したが、2025年の総選挙に向けて再び支持を高めている。デンマークでは2022年の総選挙で結党直後の「デンマーク民主党」が8%の支持を得て第五党となった。

(図表3)2024年のドイツ州議会選挙の世論調査
(図表3)2024年のドイツ州議会選挙の世論調査

EUの政策運営や高官人事にも影響

6月に迫る欧州議会選挙でも右派ポピュリストや極右勢力の支持拡大が見込まれる。EUに加盟する27ヶ国では、6月6~9日にかけて5年に1度の欧州議会選挙が行われる。欧州議会は、EUの政策を決定する立法機関で、日本の国会に相当する。EUにはこれとは別に、政策分野毎に加盟国の閣僚級の代表が集まって審議を行う閣僚理事会があり、欧州議会とともに共同で立法行為を担っている。かつての欧州議会は、加盟国を代表して各国議会から派遣された議員で構成され、諮問・監視機関という位置づけだった。だが、EUの政策領域が拡大され、民主的なコントロールが及ばないことが問題となり(民主主義の赤字)、1979年からはEU市民が直接選挙で議員を選出する形に改められた。現在では、EUの政策を決定するには、閣僚理事会と欧州議会の双方での合意が必要となる。

欧州議会の定数は現在720議席で、大まかな人口規模に基づいて加盟国に配分される。選挙は加盟国毎に行われるが、選出された議員は国の代表としてではなく、所属政党に基づく欧州議会内の政治会派の一員として活動する。中道右派の「欧州人民党(EPP)」、中道左派の「社会民主進歩同盟(S&D)」が二大会派を構成するが、最近では両会派で議会の多数派を構成するのが難しくなっており、2021年の前回選挙後はリベラル会派「欧州刷新(リニュー・ヨーロッパ)」や環境会派「欧州緑の党・自由連盟(Greens|EFA)」などが協力している。欧州議会の会派構成がどうなるかは、EUの政策運営や主要人事を左右する。

多くのEU市民にとって、欧州議会は国政や地方議会ほど身近な存在ではない。そのため、欧州議会選挙では政治的に明確な意思を持った有権者が投票所に向かう傾向があり、しばしばポピュリストの草刈り場となってきた。ポピュリストの追い風となっているのが、過去数年の経済低迷と物価高騰による生活困窮と、移民・難民の流入増加だ。2023年にEU域内で難民申請を行った庇護希望者は、2015~16年にシリア難民が欧州に押し寄せた難民危機時以来の100万人を突破(4月2日付けレポート「再び欧州に押し寄せる移民・難民(その1)」)。中東やアフリカなどからの難民希望者とウクライナからの避難民の増加を受け、2022年にEUに流入した移民は約700万人と、それ以前の300~400万人台から急増した(4月10日付けレポート「再び欧州に押し寄せる移民・難民(その2)」)。EUが現在直面する最重要課題2つを尋ねた昨年秋の世論調査では、「移民」が「ウクライナでの戦争」と並んで最多の回答を占めた(図表4)。現状に不満を抱える有権者の間で、失業、低賃金、公共サービスの質の低下などを、移民増加と結びつけて考える人が少なくない。

(図表4)EUが直面する最重要課題2つ(回答割合、%)
(図表4)EUが直面する最重要課題2つ(回答割合、%)

今回の欧州議会選挙でも、フランスやドイツなどの極右政党が参加する極右会派「アイデンティティと民主主義(ID)」、イタリアの政権を率いる右派政党やポーランドのナショナリスト政党が参加する保守会派「欧州保守改革(ECR)」の躍進が予想されている(図表5)。無所属で出馬するハンガリーの保守系与党「フィデス」が、選挙後にこうした会派に合流するか否かも注目される。こうした勢力が議会の多数派となる可能性は低いが、欧州委員(EUの閣僚に相当)の人事や主流派政党の政策右傾化などを通じて、間接的にEUの政策運営に影響を及ぼす恐れがある。

(図表5)欧州議会選挙の会派別予想獲得議席
(図表5)欧州議会選挙の会派別予想獲得議席

英国の過激な移民抑止策

EUを離脱した英国でも、移民問題が沸騰している。英国議会は4月下旬、ドーバー海峡を小型ボートで渡って英国に不法に入国した難民希望者を、アフリカのルワンダに移送する計画の実行に必要な法案を可決した。この計画は2022年に当時のジョンソン首相が発表したもので、ルワンダは資金援助と引き換えに英国からの不法移民を受け入れる。ルワンダへの送還が抑止力として働き、英国を目指す不法移民が減少するのが狙いだ。英国ではEU離脱後もドーバー海峡を渡る不法移民が増加しており、2022年に4万人を突破、今年も4月末時点で2022年に匹敵するペースでの流入が続いている(図表6)。

計画を巡っては、昨年6月に欧州人権裁判所が人権侵害の恐れがあるとして差し止め命令を出し、移送の第一便が出発直前にキャンセルされた。英国の最高裁判所も同年11月、出身国に強制送還される恐れがあるとして、計画が違法であるとの司法判断を下した。移民の流入制限を重要公約の1つに掲げるスナク首相は、難民希望者にとってルワンダが安全な第三国であると英国の法律に明記する法案を議会に提出。上院が5回にわたって法案を差し戻したが、5ヶ月に及ぶ討議の末、最後は下院の議決優先権を用いて成立に持ち込んだ。数ヶ月以内に最初の移送便が出発する。

内務省の試算によれば、不法移民をルワンダに移送する場合、移民を英国内に滞在させるよりも多くの財政負担が必要になる。英国では年内に総選挙が予定され、各種の世論調査で与党・保守党が野党・労働党に大幅なリードを許している。野党や人権団体などが反発し、財政負担も嵩むが、政府は計画実現を優先した。

移送計画の発表後、英国から隣国アイルランドに流入する不法移民が増加している。首都ダブリンの一角では、アイルランド政府が最近になって強制排除に乗り出すまで、多くの不法移民がテント生活を続けていた。英国とアイルランドは相互に国境を開放しており、一部の例外を除き、入国審査なしに自由に行き来ができる。英国の一部である北アイルランドとEU加盟国であるアイルランドは陸続きで国境を接している。この地域では、かつての北アイルランド紛争の経緯もあり、和平合意の趣旨に則り、いかなる物理的な国境も設置することができない。そこから多くの不法移民がアイルランド内に流入しているとされる。

古くは移民の輩出国であったアイルランドは近年、多くの移民を受け入れている。1960年代に300万人に満たなかった同国の人口は、数年前には500万人を突破した。急激な人口増加に伴う住宅供給不足が社会問題化していることもあり、政府は今回の移民流入への対応を余儀なくされている。不法移民の英国への送還を可能にする法案を計画しているほか、北アイルランド経由の不法移民の流入を取り締まるため、国境周辺に警察官を派遣する計画を発表した。英国政府は不法移民の流入元であるフランスへの送還をEUが認めない以上、アイルランドからの送還を受け入れる義務がないとして反発している。移民問題はここでも欧州諸国の結束を揺るがしている。

(図表6)ドーバー海峡を小型ボートで英国に渡る不法移民数
(図表6)ドーバー海峡を小型ボートで英国に渡る不法移民数

以上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ