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オランダで極右主導の政権が誕生

~移民政策を厳格化、気候変動対策を軌道修正~

田中 理

要旨
  • 昨年11月の総選挙で極右政党が勝利したオランダでは16日、極右政党、リベラル政党、中道右派政党、農家の利益を代表する右派ポピュリスト政党の4党が連立政権を発足することで基本合意した。連立実現を優先し、極右政党党首は自らの首相就任を断念、首相や閣僚候補の人選は協議を続ける。連立合意では、移民・難民規制を厳格化し、EUの共通難民政策の適用除外を目指すほか、気候目標を維持するが、ヒートポンプの利用義務や電気自動車の補助金を廃止、窒素排出削減を見直すなど、気候変動対策を軌道修正する。

昨年11月の総選挙で反移民・反イスラム・反グリーンを掲げる極右政党「自由党(PVV)」が勝利したオランダは、前与党のリベラル政党「自由民主国民党(VVD)」、新興の中道右派政党「新社会契約(NSC)」、農家の利益を代表する右派ポピュリスト政党「農民市民運動(BBB)」を加えた右派4党間で連立協議を続けてきた。連立協議は難航し、何度かの協議中断を経て、協議期限に設定されていた15日を3時間経過した16日未明に、連立発足で基本合意に達した。オランダは第一院(上院)と第二院の二院制だが、第一院に法案の修正権がなく、第二院が優越的な立法権限を持つ。4党は定数150の第二院で88議席の安定多数を確保する。今回の総選挙で第一党となった自由党のウィルダース党首は当初、首相就任に意欲をみせてきたが、今年3月に連立を模索する4党の党首が何れも首相や閣僚に就任しない取り決めを交わし、自らの首相就任を断念する代わりに連立実現を優先した。(3月18日付けレポート「オランダ連立協議、極右党首が首相就任を断念」)。26ページにわたる連立合意文書が公表されたが、首相や閣僚の人選については協議を続ける。

過去数年の景気低迷や物価高による生活困窮、移民の流入増加などを追い風に、欧州各国で極右政党が躍進している(5月14日付けレポート「再び欧州に押し寄せる移民・難民(その3)」)。自由党は2010年にVVDが主導する政権を閣外協力したが、財政運営を巡る意見相違で約2年で政権支持を取り下げた。オランダでは過去にも極右政党が一定の支持を得てきたが、極右政党が率いる政権が誕生するのは同国史上初となる。ウィルダース氏は首相候補として、総選挙後に連立協議の予備調査役や調整役を担ったプラステルク氏を推挙したとの報道もある。プラステルク氏はバイオ・遺伝分野の研究者出身で、教育・文化・科学相や内務相を歴任した中道左派政党「労働党(PvdA)」の元政治家。現在は医療系スタートアップ企業を経営する傍ら、大学での教鞭や新聞のコラムニストなどを務める。中道左派政党に所属していたが、連立協議の予備調査役に指名したのはウィルダース氏とされ、主要政党党首との面会を重ねた後、今回連立で合意した4党による連立協議を開始することを議会に進言した。

連立を主導する極右政党はオランダのEU離脱の主張を封印したが、移民政策の厳格化や気候変動対策の軌道修正を連立合意に盛り込むことに成功した。連立合意の主な内容は以下の通り。

【移民・難民】

自由党の主張を盛り込み、就労・学生・家族呼び寄せを含むビザの取得要件を厳格化、国境管理を強化、庇護申請が認められた者に対する公共住宅の優先的な割り当てを廃止、庇護申請が却下された場合の強制送還措置の強化など、移民・難民政策を厳格化し、EUの共通難民政策からの適用除外(オプトアウト)やEUの新規加盟国に対する就労の自由の制限を求める。

【気候変動・農業・エネルギー】

自由党は国家による環境政策の押し付けを批判してきた。国際的に合意した気候目標を維持するが、前政権が推進した気候変動対策を軌道修正し、ヒートポンプの利用義務、電気自動車に対する補助金、追加の炭素排出税を廃止する。連立に参加するBBBの主張を取り込み、窒素の排出削減目標を見直し、代替手段による排出削減目標の達成をEUと協議する。窒素削減目標達成を目指した農家による家畜保有の削減や自然保護区に近い農家の廃業を強制されることがなくなり、高速道路の最高速度を引き上げる。安定したエネルギー供給を確保するため、洋上天然ガス採掘を拡大し、原子力発電所を2基増設する。

【財政運営】

自由党は財政拡張を求めたが、財政規律を重視するVVDなどに譲歩。エネルギー税と所得税の引き下げ。前政権が推進した上場企業の自社株買いや銀行に対する課税を廃止。医療費負担を2027年までに半減。保育料補助を向こう数年で増額し、保育料負担をほぼゼロにする。こうした減税や歳出拡大の財源として、公務員給与の削減、公共放送予算の削減、失業手当の制限など、2028年までに140億ユーロの歳出削減を行う。EUの次期多年度予算(2028~35年)への拠出額を16億ユーロ削減することも目指している。

【対外政策】

ウクライナへの政治的・軍事的支援を継続し、北大西洋条約機構(NATO)との合意に基づき、国防費の対GDP比を2%以上に引き上げる。対外開発援助を削減する。EUの加盟国拡大は、申請国が加盟基準を全て満たさない限り認めない。米国に追随する形で、適切な時期に在イスラエルのオランダ大使館をテルアビブからエルサレムに移転する。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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