中央経済工作会議、2022年の中国政府は「経済の安定」を重視へ

~共産党大会での3期目入りに向け、成長率の下振れが避けられないなかで「安定」がより重要に~

西濵 徹

要旨
  • 中国では、毎年12月に翌年のマクロ経済運営の方針を討議する中央経済工作会議が開催される。昨年の同会議では新型コロナ禍からの回復が進む一方、景気の「K字」化や金融の不均衡が顕在化するなかで政策の微調整が模索された。しかし、年明け以降は政策効果の一巡に加え、「政策の失敗」などの連鎖も重なり、景気は踊り場状態となっている上、政策の微修正も行われるなど政策の方向性が修正されるとみられた。
  • 景気の現状認識について比較的弱気な見方が示される一方、積極的な財政政策と穏健な金融政策の方針は維持された。ただし、財政政策面では積極さが強調されたほか、金融政策面でも中小企業支援などを目的とする流動性維持が謳われた。不動産政策では「住むためのもの」の方針を維持する一方、新たな開発モデルを模索する姿勢が盛り込まれた。さらに、習近平指導部が掲げる「共同富裕」の推進やカーボン・ニュートラルの実現に向けたロードマップの実現といった中長期的な課題にも併せて取り組む方針が掲げられている。
  • 全体的に政策運営面では経済の「安定」が重視された模様だが、その背景には来秋の共産党大会で習近平指導部が異例の3期目入りを目指していることも影響している。来年の経済成長率は今年に上振れした反動で低い目標が掲げられる見通しだが、経済の安定がこれまで以上に必要になっている要因と捉えられる。

中国においては、毎年12月に共産党最高指導部(中央政治局常務委員)のほか、国務院指導部、地方政府や国家機関、人民解放軍、国有企業など幅広い分野の責任者が一堂に会する形で翌年のマクロ経済運営の方針について討議を行う中央経済工作会議が開催される。今年は12月8~10日の日程で同会議が行われた。昨年の中国経済を巡っては、新型コロナ禍を経て未曾有の景気減速に見舞われたものの、その後は感染一服による経済活動の正常化に加え、財政及び金融政策の総動員による支援なども追い風に逸早い回復を果たした。ただし、雇用の回復が遅れるなかで景気回復は『K字型』の様相を強める一方、金融市場は『カネ余り』の様相を強めて大都市部を中心に不動産価格は急上昇するなどバブル化が懸念されたほか、企業部門を中心に債務の過剰感が強まる動きがみられた。その一方、当局の資金繰り支援策が一巡したことで社債市場を中心にデフォルト(債務不履行)が頻発するなど、マクロ経済運営を巡る複雑さが増していた。こうしたことから、昨年の同会議においては今年のマクロ経済運営について、従来からの「積極的な財政政策と穏健な金融政策」を維持する一方、金融政策については「景気回復とリスク抑制のバランスを図る」として正常化を見据える形で政策スタンスのシフトを図る動きをみせた(注1)。しかし、年明け以降は原油をはじめとする国際商品市況の上昇が企業部門を中心とするインフレ圧力に繋がっているほか、身の丈に合わない環境政策は電力不足を招くなど幅広い経済活動に悪影響を与える一方、雇用の回復の遅れや当局による『ゼロ・コロナ』戦略は家計消費の足かせとなるなか、当局は企業部門に対して最終消費財への価格転嫁を事実上禁止したため、中小企業を中心に資金繰り懸念が顕在化した。こうした動きに加え、習近平指導部は社会経済格差の是正を目指して『共同富裕』というスローガンを強力に推進してIT関連を中心とする大企業や富裕層を標的にした動きをみせている。さらに、上述のような政策転換に加え、予見性の低い政策運営は中国経済にとって古くて新しい問題である過剰債務に対する懸念を改めて浮き彫りにするとともに、不動産大手の恒大集団によるデフォルト懸念に発展している。このように、足下の中国景気は新型コロナ禍対策による政策効果が一巡するなか、様々な『政策の失敗』が重なり踊り場状態となっているほか、企業マインドは製造業、サービス業ともに頭打ちするなど景気の下振れが意識されている。こうしたことから、中銀(中国人民銀行)は今月15日付で預金準備率を50bp引き下げて、中小企業の資金繰り支援や環境開発、技術革新の側面支援に向けて金融市場への流動性供給を図る決定を行っている(注2)。このように政策運営を巡っては再び『微調整』が図られる動きがみられるなか、来年のマクロ経済運営についても政策の方向性が修正されるとの見方が強まっていた。

なお、中央経済工作会議の終了後に公表されたコミュニケでは、現状について「需要の縮小、供給ショック、期待の低下という3つの圧力に直面している」との見方を示すとともに、「新型コロナウイルスの感染動向や外部環境の変化はより複雑、かつ不確実なものになっている」とした上で、その対応を巡って「党中央による集中且つ統一的な指導を堅持するとともに、冷静に対ししつつ、一致団結する」としつつ「経済の質的向上と量的な合理的成長の実現を推進する」として、経済の安定を重視する考えを示した。具体的には、その実現に向けて「積極的な財政政策と『穏健』な金融政策を維持する」との方針を維持しつつ、財政政策は「財出規模を維持しつつペースを加速させる」ほか、「減税や手数料の引き下げなどを通じて中小企業や個人事業主、製造業に対してリスク軽減を図る」一方、「インフラ投資を適切に実施するも、公的部門は引き締めるほか、地方政府の債務抑制に取り組む」とした。一方の金融政策は「柔軟且つ適切に調節し、適度に豊富な流動性を維持する必要があり、中小企業や技術革新、環境開発を支援すべく強化が必要」とした上で、財政政策との政策調整を通じて内需拡大による内政的な経済成長を目指すとした。その上で、競争政策を巡って「独占禁止と不正競争防止を図るとともに、知的財産権の保護強化を図り、契約慣行の強化を通じて悪質なデフォルトや債務逃れに対応する」との姿勢を示すなど、中小企業や家計部門への配慮をみせた格好である。また、構造改革関連では「サプライチェーンの強化を通じてサプライサイド改革を深化させる」とともに、「産業基盤の再構築を通じて新たな企業の創出を促す」とする一方、不動産政策を巡っては「住宅は住むものであり投機対象ではない」の方針を維持する一方で、都市の実情に応じた政策採用を通じて「新たな開発モデルを模索する」と規制の微調整を図る方針をみせた。さらに、「科学技術政策の実践を図る」として「システム改革に向けた3ヶ年のアクションプラン及び基礎研究のための10ヶ年計画を策定する」ほか、「機構改革や産官学の連携深化を図るとともに、国際協力を発展させる」方針もみせた。そして、「改革開放政策により経済成長の活性化を図る」として、「株式発行の登録制度の実施や国有企業改革の行動課題の完遂、電力及び鉄道分野の改革の着実な実施」に加え、「外資系企業への改革開放や一帯一路の促進を図る」とした。地域政策については「バランスの強化に取り組む」として、「田園地帯の活性化とともに、新たな都市化を通じて建設の質向上に取り組む」方針を示した。社会政策についても「経済成長と民生保護を協調させるとともに、戸籍制度の改革に取り組む」ほか、「若年層の雇用問題の解決と柔軟な労働市場と社会保障の改善を図る」とともに、「年金制度の整備や育児支援を通じて高齢化社会に積極的に対応する」考えを示した。

その上で、習近平指導部が主張する『共同富裕』に基づき、「二極化を防ぎつつ、生産力の恒常を図ることで富を創造、蓄積することが重要」として「『パイ』をより大きく良いものにした上で、合理的な制度を通じて共有せねばならない」とし、「雇用拡大に加えて分配機能の強化を図るとともに、税制、社会保障などの規制強化を図る一方で慈善事業に積極的に参加する企業を支援するほか、公共サービスの制度及びシステムの改善を図る」との姿勢を示した。その上で、社会主義市場経済の実現に向けて「資本の役割を充分に発揮させる一方で、資本の『交通整理』を通じて法に基づく規制強化を図ることで乱高下を抑止することが重要」とし、「社会主義システムの堅持及び改善を図りつつ、公的部門の強化及び発展を進めつつ、非公的部門の推進及び指導を図る」との方針を示した。また、今年は国際商品市況の上昇や環境政策が国内外で問題となっていることを受けて、「生産段階では包括的な資源の保全及び循環型社会の実現に向けた取り組みを図る」一方、「消費段階では節約意識を高めるとともに、低炭素な生活スタイルを提唱する」ほか、「鉱物資源関連や農業など幅広い分野で取り組みを進める」との考えをみせた。そして、リスク管理について「全体の安定化を図りつつ、要因の的確な把握を通じた処理方法の把握、管理監督を巡る責任の明確化、企業レベルの責任の明確化などを図る」とした上で、「各レベルでの能力強化に加え、政策の検討及び策定を図る」としている。さらに、習近平指導部が2060年度目途に『カーボン・ニュートラル』の実現を掲げていることを受けて、「質の高い成長の実現に向けて、国としての全体計画や優先順位の設定、国内外の政策調整やリスク防止を図る必要がある」とし、「石炭と新エネルギーの最適な組み合わせの促進が必要」とした上で、「再生可能エネルギーと新エネルギーを通じて環境汚染の削減と炭素削減を可能な限り早く進める」として「大企業、なかでも国有企業が主導権を握る形で供給と価格安定に取り組む必要がある」との考えを示した。

さらに、会議においては引き続き「6つの安定(雇用、金融、対外貿易、外資、投資、予見性)」と「6つの保持(雇用、国民生活、市場主体、食料・エネルギーの安全、サプライチェーン、社会基盤の運営)」を図るとともに、なかでも雇用や国民生活、市場主体の保護に加え、経済活動を『合理的範囲』に収めることに注力すること、その実現に向けて規制・監督の強化及び改善を図ることを目指すことが共有された。市場主体は雇用と起業の両面で重要であり、その負担軽減と景気回復を支援するために減税や手数料の引き下げを実施し、金融支援を実施するとともに、雇用安定に向けた施策を実施すべく賃金上昇を促すほか、規制強化を通じて電力の適正供給を図り、企業によるイノベーション促進投資を活発化させるべく、財産権をはじめとする権利及び権益保護を図るほか、外国貿易の安定化策とサプライチェーンの安定化を図るとともに、外国投資の誘致強化に取り組むとしている。その実現に向けて、すべてのレベルで整合性を図る考えをみせるとともに、体系的な思考と科学的な計画の実現に向けて、習近平氏が2014年に行った講和に基づく『三厳三実(自らを修め、自らの力を用い、自らを律することに厳格で、事業を求め、始め、行うことに実践的である)』に基づいて不作為を抑止する考えを示した。そして、北京冬季オリパラの実現に向けて最善を尽くすことのほか、「4つの意識(政治意識、対局意識、革新意識、模範意識)」を高めるとともに、「4つの自信(中国の特色ある社会主義理論に対する自信、理論に対する自信、制度に対する自信、文化に対する自信)」を堅持するほか、「2つの保障(習近平総書記の党中央と全島の核心的地位の擁護、党中央の権威と集中的・統一的指導の擁護)」の実現に向けて、来年秋に開催予定の共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)の決定とその実現に向けて実践的な行動を呼び掛けている。今年は中国共産党にとって結党100周年という重要な年であったなか、これを無難に過ごすことが出来た一方、来年の共産党大会で習近平指導部は異例の3期目入りを目指すなか、先月の6中全会(中国共産党第19期中央委員会第6回全体会議)ではいわゆる『歴史決議』の採択を経て習近平氏は『別格の指導者』となり、3期目入りに道筋を付けることに成功した(注3)。他方、6中全会においては党内の長老を中心に『異論』もくすぶっているとされるなか、共産党大会において穏便に3期目入りを実現させるためには、経済の安定を重視する形で景気に配慮せざるを得ない実情もうかがえる。今年の中国経済は、昨年前半に大きく下振れした影響で+6.7ptもの大幅なプラスのゲタが生じるなど高成長が容易であった半面、来年についてはゲタが縮小することによりその反動が出やすく、政府内でも経済成長率目標を巡って中国社会科学院は「5%以上」、国務院発展研究センターは「5.5%以上」と提言するなど、低めの設定を行うことが既定路線となっている。そうしたなか、習近平指導部にとっては安定の実現がこれまで以上に重要になりつつあると判断することも出来る。

以 上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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