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2021.05.26
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ニュージーランド中銀、2022年7-9月の利上げ開始を示唆
~追加利下げの可能性は消失、正常化スケジュールの示唆はNZドル相場を下支えする展開に~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の世界経済は主要国でのワクチン接種による経済活動の正常化を受けて景気回復が進む一方、新興国で変異株による感染再拡大が広がるなど好悪双方の材料が残る。他方、ニュージーランドではワクチン接種は遅れるも、感染収束が進んで経済活動は正常化している。昨年末にかけて踊り場を迎えた景気は年明け以降に押し上げられる一方、バブル化が懸念される不動産投資規制が強化されるなどの動きもみられる。
- 不動産市場の動向には不透明感がくすぶるが、中銀は26日の定例会合で現行の緩和政策をすべて据え置いた。先行きの政策運営について、前回会合まで示された追加利下げに動く可能性は消えた模様である。また、同行のオア総裁は量的緩和策について「2022年6月まで」継続する姿勢を示し、公表資料では2022年7-9月の利上げ実施のスケジュールが示された。国際金融市場では米国景気の行方と米FRBの政策運営に注目が集まるなか、同中銀による将来的な利上げ示唆はNZドル相場を下支えすることが期待される。
足下の世界経済を巡っては、欧米や中国など主要国を中心に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染収束が進んで経済活動の正常化が図られるなど景気回復を促す動きが続く一方、新興国を中心に感染力の強い変異株による感染再拡大の動きが広がりをみせるなど、好悪双方の材料が混在している。他方、ニュージーランドでは感染封じ込めを目的に海外からの入国制限に動くとともに、全土を対象に外出制限を課すなど強力な行動制限が採られた結果、同国での感染確認は海外からの来訪者が中心となる展開が続いてきた。しかし、今年2月には最大都市オークランドで市中感染が確認されたことで行動制限が再強化されたものの、強力な感染対策が奏功する形で過去1ヶ月の新規感染者数は一桁台、死亡者数もゼロで推移している。この結果、足下における累計の感染者数は2,600人強、死亡者数も26人となるなど、主要国のなかで最も感染対策に成功した国のひとつと捉えることが出来る。他方、主要国を中心にワクチン接種の動きが広がりをみせるなか、同国は今月24日時点で人口100万人当たりの接種回数は9.8万人強と世界平均(21.8万人強)を大きく下回っており、完全接種率(必要な回数をすべて接種した人の割合)は3.17%、部分接種率(少なくとも1回は接種した人の割合)も6.67%に留まるなど、ワクチン接種は大きく後れを取っている。しかし、隣国の豪州でも同様に感染封じ込めが進んでいることから、先月には両国間での出入国制限が緩和されて隔離なしで双方の往来が可能となるなど、幅広く経済活動の正常化が図られている。なお、同国経済は昨年10-12月の実質GDP成長率が2四半期ぶりのマイナス成長となるなど『踊り場』入りが確認されたものの 1、年明け以降は上述のように主要国を中心とする世界経済の回復も追い風に企業マインドは改善の動きを強めているほか、家計部門も雇用の底入れが進むなかでインフレ率は低水準で推移するなど実質購買力が押し上げられていることも重なりマインドは堅調に推移している。さらに、中銀は異例の金融緩和を通じて景気下支えを図るなど金融市場は『カネ余り』が続く一方、新型コロナ禍を受けた生活様式の変化を受けた住宅需要の高まりも相俟って足下の不動産価格は上昇傾向を強めるなど『バブル化』が懸念されている。こうした事態を受けて、中銀は4月から住宅ローンに対するLVR(ローン資産価値比率)規制を復活するほか、5月以降は投資目的の住宅ローンを対象とする規制を強化するなど、新型コロナ禍を理由に緩和された規制の『正常化』に舵を切っている2 。さらに、政府も投資家向けの租税措置の改正による事実上の引き締めを図る一方、景気下支えや高騰が続く不動産市場対策としてアーダーン政権の『目玉政策』である低価格住宅供給による不動産開発計画(Kiwi Build)の推進を図るなどの取り組みを強化させている。このように、ニュージーランド経済を巡ってはワクチン接種を巡る不透明感はあるものの、強力な感染対策によって封じ込めが図られて経済活動の正常化が進んでおり、景気の底入れが促される動きが確認されるなど「ポスト・コロナ」の世界経済における『優等生』と捉えることが出来る。


なお、バブル化が懸念された不動産市況については、上述したように先月以降の規制強化の動きを反映して頭打ちする動きが確認されるなど、早くも一定の効果が上がっていると捉えられる。さらに、規制強化を前に3月の新築住宅建設許可件数は大きく上振れするなど短期的に景気の押し上げが期待される一方、4月以降は需要の『先喰い』に伴う反動で下押し圧力が掛かることが予想されるほか、5月以降はさらなる規制強化の影響で一段と下押し圧力が掛かる可能性もある。このように不動産市況を巡る動きが見込まれるなか、中銀は26日に開催した定例会合で政策金利を0.25%、大規模資産買い入れ策(LSAP)の規模も1,000億NZドルで据え置くとともに、融資資金調達プログラム(FLP)も維持するなど現行の金融緩和政策を維持する決定を行った。会合後に公表された声明文では、世界経済について「継続的な財政及び金融支援を反映して回復が続いており」、この動きに呼応して「一次産品の輸出価格は押し上げられている」一方、国内外の経済活動について「依然として大幅な隔たりがある」との認識を示した。一方、同国経済については「短期的に建設活動の堅調さや財政出動を背景に上振れが期待される」ものの、「豪州との出入国制限緩和にも拘らず外国人観光客の減少が観光関連産業の重石になる」ほか、「不動産対策の効果発現には時間を要する」との見方を示した。その上で、先行きの景気動向については「2月会合時点の見通しに沿った動きが続いている」としつつ、「世界経済はワクチン接種の拡大を受けて見通しが改善する一方、行動制限の長期化を受けてセクターごとに回復の動きにバラ付きがみられ、投資活動も慎重な動きが続く」との見通しを示した。他方、物価動向について「国内外の諸要因によりコスト上昇圧力が掛かっているが、この動きは一時的であり、年内には緩和が見込まれる」とした上で、「長期的に金融緩和策が維持されなければ、中期的なインフレ率及び雇用は目標を下回る可能性が高い」とし、「低金利環境が不動産価格を支える一方で税制改正や住宅供給の拡大、融資規制の動きが相殺する」との見方を示した。その上で、「インフレ率が目標の中央値(2%)近傍で維持され、雇用が最大限持続可能な水準になると確信出来るまでは現行の緩和姿勢を維持し、その要件が満たされるには相当の時間と忍耐が必要になる」との考えを改めて示すなど現行の緩和政策を維持する姿勢をみせる一方、前回会合まで示された「必要に応じて政策金利を引き下げる用意がある」との文言は削除されるなど 3、追加利下げの可能性は消えたと判断出来る。なお、会合後にオンライン会見に臨んだ同行のオア総裁はLSAPについて「2022年6月まで継続する」との考えを示したほか、公表された付属資料では先行きの政策金利について「2022年7-9月の引き上げ」を示唆するスケジュールが示された。国際金融市場では、米国経済の回復の行方やそれに伴う米FRB(連邦準備制度理事会)の動きに注目が集まるなか、同中銀が金融政策の正常化に動くタイミングを示唆したことは先行きのNZドル相場を下支えすると見込まれる一方、通貨高の動きが景気回復に冷や水を浴びせることを警戒して中銀による『口先介入』などの動きが活発化することも予想される。


1 3月18日付レポート「ニュージーランド景気は早くも踊り場、市場の利上げ観測は後退か」
2 2月9日付レポート「ニュージーランド中銀、住宅バブル懸念に対応してローン規制厳格化」
3 4月14日付レポート「ニュージーランド中銀、豪州との往来正常化を好感も緩和の長期化を強調」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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