ドイツ政局: 緑の党の勢いは早くも息切れ

~環境政党の政権奪取は遠退く~

田中 理

要旨

秋の連邦議会選挙で政権奪取を目指す緑の党の党勢低下が止まらない。政策運営を巡る不安に加えて、ベアボック首相候補の個人的な問題も発覚し、同党に対する有権者の期待が剥落している。このまま与党・キリスト教民主同盟(CDU)がリードを保てば、ラシェット党首が次期首相に就任し、CDUと緑の党の連立政権が誕生する可能性が高い。

ポスト・メルケルを占うドイツ連邦議会選挙が近づくなか、環境政党・緑の党の勢いに早くもブレーキが掛かっている。4月にベアボック共同党首を首相候補に指名して以来、一時は与党・キリスト教民主同盟(CDU)を逆転した同党の支持率が低下の一途を辿っている。7日付けレポート「ドイツ緑の党旋風もここまでか」以降に発表された調査でも軒並み、緑の党離れが続いている。主要8機関による最新調査の全てでCDUが緑の党を上回り、一時は30%に迫った緑の党の支持率は20~24%まで低下している(図表1)。

図表1
図表1

こうした世論調査の結果から占うと、緑の党、中道左派の社会民主党(SPD)、左派の左翼党(LINKE)の左派3党による連立政権の発足は既に困難な状況にある(図表2)。緑の党とSPDの左派2党に、リベラル政党・自由民主党(FDP)が手を組む「信号連立(党のイメージカラーが信号の配色に似ている)」はどうにか手が届くところにある。だが、緑の党の支持率が20%を割り込むとこれも難しくなる。政権奪取を目指す緑の党にとっては、ここが正念場と言えよう。対するCDUはマスク調達を巡る所属議員のスキャンダルやワクチン接種の遅れなどを乗り越え、支持を回復してきている。新規感染者の減少やワクチン接種の急加速など、コロナ危機対応も与党の追い風となっている。

図表2
図表2

加えて、最近の両党の支持率逆転は、緑の党に対する有権者の期待が剥落した側面も大きい。与党の首相候補であるラシェット氏は、ドイツ最大州の州首相を長年務め、メルケル路線の踏襲者とされる人物だ。経験豊富な政治家で、安定感が持ち味だが、リーダシップやカリスマ性に欠けるとの評が多い。対するベアボック氏は二児の母で、若く勉強熱心な政策通として知られる。閣僚や州首相経験のなさが不安視される一方、16年に及んだメルケル施政からの変化を求める有権者の支持を集め、緑の党の党勢拡大の原動力となってきた。だが、ベアボック氏を巡っては、党からの助成金の申告漏れや経歴書の相次ぐ誤りが次々と発覚し、次期首相候補としての資質を疑う声も浮上している。公共放送・第2ドイツテレビ(ZDF)が10日に公表した世論調査では、ベアボック氏を首相に相応しいと回答した割合は28%と前回調査の43%から急落し、ラシェット氏に逆転を許した(図表3)。

図表3
図表3

首相候補の個人的な資質だけでなく、有権者の間には緑の党の政権運営に対する不安も根強い。ドイツ国民の多くは気候変動対策が必要な点で一致するが、その具体策を巡っては緑の党の極端な主張に不安の声も浮上している。党勢立て直しを急ぐ緑の党は、週末に行われた党大会でベアボック氏を正式な首相候補に選出するとともに、党内の急進派から出ていた気候変動対策の強化を求める声を封印し、比較的穏健な政策路線で連邦議会選挙を戦う方針を固めた。党大会に先駆けて、一部の急進派は炭素価格の上昇や高速道路の速度制限の厳格化などを求めていた。

このままCDUが逃げ切った場合、連邦議会の過半数を上回る連立の組み合わせは、CDUが主導する政権に緑の党が加わる「黒緑連立(党のイメージカラーが黒と緑)」、CDUとSPDの二大政党にFDPが加わる「ドイツ国旗連立(党のイメージカラーがドイツ国旗の配色に似ている)」が考えられる。近年、大連立下で党勢低迷に苦しむSPDは、下野して党勢立て直しを目指す可能性が高く、現状程度の世論調査では黒緑連立が次期政権の最有力シナリオとなろう。ラシェット氏は週末のビルド紙のインタビューに答え、緑の党とは政策面での相違が大きく、親ビジネス色の強いFDPが連立候補の一番手であることを表明している。緑の党が失った支持の一部はFDPに流れており、このままCDUとFDPの支持が合計で10%ポイント程度積み増すことに成功すれば、CDUとFDPの二党で議会の過半数に届く。今のところその可能性は低そうだ。

以上

田中 理

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