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2021.05.12
アジア経済
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マレーシア経済
マレーシア、感染再拡大の行方が景気の行方を左右する正念場に
~中銀は追加緩和に含みも、金融市場の動揺への耐性が乏しいなかでは現実的な対応余地は限定的~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の世界経済は主要国で新型コロナウイルスの感染一服による景気回復が進む一方、新興国で感染が再拡大するなど不透明な状況が続く。ただし、年明け以降の世界経済は回復の動きを強めるなかで、経済の輸出依存度が極めて高いマレーシア経済の追い風となっている。他方、足下では変異株による感染再拡大の「第3波」が顕在化しており、政府は行動制限の再強化に追い込まれるなど厳しい状況に直面している。
- 年明け以降の世界経済の回復を追い風に、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+11.34%と2四半期ぶりのプラス成長となるなど底入れした。外需の回復を背景に製造業や鉱業部門は活況を呈する一方、建設業や観光関連は大幅マイナスが続くなど景気は跛行色を強めている。新型コロナ禍の影響が残る上、先行きの景気も分野ごとの差が一段と厳しさを増すなど「K字型」の景気回復の様相を呈すると予想される。
- 感染再拡大を受けて政府は全土を対象に都市封鎖を再開するなど行動制限を再強化しており、内需の下振れは避けられそうにない。中銀は6日の定例会合で様子見を図る一方、足下の状況が厳しさを増していることを受け追加緩和に含みを持たせた。しかし、外貨準備高は国際金融市場の動揺に対する耐性が充分でなく、政策余地も乏しいなか、感染拡大を抑えられるか否かが同国経済の行方を左右することになろう。
足下の世界経済を巡っては、世界経済に混乱を招いた新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関連して、当初の感染拡大の中心地となった中国で感染収束が進んでいるほか、欧米など主要国でも感染が一服して経済活動の正常化が図られるなど、景気回復に向けた動きが前進している一方、インドをはじめとする新興国で感染力の強い変異株により感染が再拡大するなど不透明感がくすぶる状況が続いている。マレーシアでは、その人口規模(3,200万人弱)も影響してアジア新興国のなかでも経済構造面で輸出依存度が極めて高い国の一つであり、昨年来の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による世界経済の減速の影響が直撃したものの、主要国を中心とする世界経済の回復は景気の追い風になる傾向がある。年明け以降は主要国での経済活動の正常化も追い風に世界貿易は底入れの動きを強めたことから、マレーシア経済にとっては外需を中心に底入れが進むと期待される一方、同国では昨年末以降に感染が再拡大する『第2波』が顕在化する事態となり、1月に政府は全土を対象に非常事態宣言を発令するとともに、宣言の下で厳しい活動制限令が施行されるなど幅広い経済活動に悪影響が出ることが懸念された 1。他方、厳しい行動制限も影響して1月末を境に新規感染者数は鈍化傾向を強めるなど事態収束に向かう兆しがみられたほか、政府はワクチン接種を通じた早期の集団免疫の獲得を目指すべく、契約ベースでは政府の接種計画の実現に必要な量を上回る量を確保した。しかし、現実にはワクチン調達スケジュールは計画から大きく遅れており、今月10日時点における完全接種者(必要な接種回数をすべて受けた人)数は68万人弱、部分接種者(少なくとも1回は接種した人)数は109万人弱に留まり、人口全体に対する完全接種率と部分接種率もそれぞれ2.09%、3.37%と世界平均(それぞれ4.08%、8.39%)を大きく下回っている。さらに、先月以降は感染力の強い変異株による感染が再拡大する『第3波』が顕在化している上、そうした状況に歩を併せる形で死亡者数の拡大ペースも加速するなど状況は急速に悪化している。こうしたことから、政府は今月10日から全土を対象に都市封鎖を実施して行動制限を再強化するなど厳しい措置に踏み切っており、外需をけん引役にした景気の底入れが期待される一方、行動制限による内需の鈍化が景気に冷や水を浴びせる懸念も高まるなど難しい状況に直面している。

なお、年明け以降の景気を巡っては、上述のように外需をけん引役にした底入れが促される一方、非常事態宣言や活動制限令による悪影響が懸念されたものの、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+11.34%と前期(同▲5.89%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じるなど、底入れの動きを強めていることが確認された。ただし、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率は▲0.47%と前期(同▲3.45%)からマイナス幅は縮小するも4四半期連続のマイナス成長となっているほか、季節調整値ベースの実質GDPの規模も新型コロナウイルスのパンデミックの影響が直撃する前の一昨年末と比較して▲0.9%程度下回る水準に留まるなど、依然として新型コロナ禍の影響を克服出来ていない様子がうかがえる。主要国を中心とする世界経済の回復を追い風に輸出は拡大傾向を強めているほか、政府及び中銀による財政及び金融政策の総動員による景気下支え策を反映して政府消費も大幅に拡大して景気を下支えしている。さらに、非常事態宣言による活動制限令にも拘らず、事実上の都市封鎖(ロックダウン)は限定的なものに留められたため、輸出関連セクターを中心に雇用・所得環境が改善していることも追い風に家計消費も底堅く推移している。その一方、外需の底入れが進んでいるにも拘らず企業部門による設備投資意欲は高まっていない上、活動制限令の影響で公共投資をはじめとする建設工事がストップしていることも影響して固定資本投資は鈍化するなど、景気回復の持続力に疑問が残る動きもみられる。分野別の成長率の動きについても、外需の底入れの動きを追い風に製造業や鉱業部門の生産に大幅な押し上げ圧力が掛かっているほか、農林漁業関連の生産は引き続き弱含む展開となっている上、建設業の生産も低迷が続いている。また、家計消費の底堅さは国際金融市場の活況の動きを追い風にサービス業のなかでは金融関連などで堅調な動きがみられる一方、世界的な人の移動制限などを理由に観光関連や運輸関連などは低迷が続いており、業種ごとに景気の跛行色が一段と鮮明になっている。足下の製造業の企業マインドは外需を取り巻く環境の一段の改善を期待して過去数年みたことのない水準に上昇するなど、景気の一段の底入れを示唆する動きがみられる一方、事実上の国境封鎖状態が続くなかで観光関連産業は引き続き壊滅的な影響を受ける状況が続いており、いわゆる『K字型』の景気回復の様相を強めることは避けられそうにない。


一方、足下では変異株による感染の再拡大を受けて行動制限が再強化される事態となっており、比較的底堅い動きをみせてきた家計消費など内需に悪影響が出ることが懸念される。1月の非常事態宣言の発令を受けて人の移動状況に一時的に大きく下押し圧力が掛かる動きがみられたものの、その後は都市封鎖の対象が限定的であったことを受けて一転して底入れする動きがみられたが、足下では再び頭打ちする動きをみせている上、行動制限の再強化によって再び下振れする可能性は高い。さらに、今回の行動制限は全土を対象とする都市封鎖となるなど、幅広い経済活動に悪影響が出ることが予想されることを勘案すれば先行きの景気は一転して下振れすることも考えられる。なお、中銀は6日に開催した直近の定例会合において、行動制限に伴う実体経済への影響は「深刻なものとはならない」との評価を示した上で、政策金利を据え置くなど様子見を図る姿勢をみせている2 。ただし、1-3月のGDP統計公表に際して中銀のノル・シャムシア(Nor Shamsiah)総裁は今年の経済成長率について「+6.0~7.5%とする従来見通しを維持する」としつつ、「財政及び金融政策には景気下支えに向けた対応余地がある」と述べるなど、必要に応じて追加利下げの実施に含みを持たせる姿勢をみせた。なお、財政出動の影響を勘案して「今年末時点の公的債務残高はGDP比58.5%になる」との見通しを示す一方、「景気回復を受けて銀行セクターは堅牢且つ安定しているが、国際金融の不均衡による影響を警戒している」とし、通貨リンギ相場について「国際金融市場のボラティリティの高まりによる影響を受ける」との見方を示した。足下の原油をはじめとする国際商品市況が底堅い動きをみせていることは、原油及び天然ガスを主力の輸出財とするマレーシア経済の追い風となることが期待される一方、外貨準備高はIMF(国際通貨基金)による国際金融市場の動揺への耐性を示すARA(Assessing Reserve Adequacy)の基準に照らせば「適正水準」の下限を下回るなど脆弱な状況にある。足下のインフレ率は国際原油価格の底入れの動きなどを反映して底入れするなど、表面的にはインフレ圧力が顕在化する動きもみられるなかで中銀による利下げ余地は狭まっている上、新興国の間では公的財務残高の水準が比較的高いことなどを勘案すれば、先行きのマレーシア経済は行動制限によって感染再拡大が抑えられるか否かに掛かっていると捉えることが出来よう。


1 1月13日付レポート「マレーシア、非常事態宣言発令の一方でコロナ禍の政治利用懸念も」
2 5月7日付レポート「マレーシア中銀、感染再拡大に直面も「様子見姿勢」を維持」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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