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スコットランド議会選は独立支持派が過半数

~それでも険しいスコットランド独立への道~

田中 理

要旨

6日のスコットランド議会選はスコットランド政府を率いるスコットランド民族党(SNP)が単独過半数に1議席届かなかったが、独立支持派の緑の党と合わせて議会の過半数を獲得した。英国政府に対して改めて独立の是非を問う住民投票の再実施を求めているが、ジョンソン首相はこれを拒否している。コロナ禍を克服し、関連法案を審議する来年前半にかけて、投票再実施を巡る緊張が再燃しよう。英国政府が投票実施を拒否し続ける場合、スコットランド政府が採り得る手段としては、①法廷闘争に持ち込む、②諮問的な投票を実施する、③法的な裏付けのない投票を強行することが考えられよう。スコットランド独立への道は険しい。

6日に行われたスコットランド議会選挙の結果が週末に出揃い、スコットランド政府を率いる現与党・スコットランド民族党(SNP)が64議席を獲得して圧勝したが、単独過半数(65議席)に1議席足らなかった(表)。英国のEU離脱とジョンソン政権誕生により、スコットランドの独立機運が再燃している(詳細は4月19日付けレポート「離脱後の英国を襲う分裂の危機」を参照されたい)。2014年に行われた独立の是非を問う住民投票では、2011年のスコットランド議会選でSNPが単独過半数を獲得し、英国政府が投票実施を受け入れた。その再現を狙った今回は単独での過半数獲得には僅かに届かなかったが、独立支持派の緑の党(8議席)を合わせると72議席と、スコットランド議会の過半数を独立支持派が占める。小選挙区での獲得票率はSNPと緑の党で49.0%にとどまったが、比例区での獲得票率は議席獲得に至らなかったサモンド前スコットランド第一首相が旗揚げした強硬独立支持の新党・アルバを合わせた3党で50.1%に達する。SNPを率いるスタージョン第一首相は選挙結果を受け、コロナ危機の克服を優先するとしたうえで、英国政府に独立投票の再実施を要求する意向を改めて伝えている。5年の議会任期の前半での住民投票実現を目指しており、2022年前半に関連法案を議会に提出し、2023年末までに投票を実施する意向とされる。

英国政府を率いるジョンソン首相は7日に英テレグラフ紙のインタビューで「現在の状況下での住民投票は無責任で向こう見ずである」と発言し、投票実施を拒否する意向を伝えた。スコットランドの独立是非を問う住民投票は、英国議会の同意なしに行うことは難しい。8日の英各紙報道によれば、ジョンソン首相はスタージョン第一首相に宛てた書簡の中で、スタージョン氏が要求する投票再実施に言及することなく、代わりにコロナ危機からのスコットランドの復興を支援するため、スコットランドのコロナ患者をイングランドの病院で受け入れることやスコットランドの就学児童をイングランドの学校で受け入れることを提案した。また、コロナ禍からの克服を討議するため、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの第一首相を招き、首脳会議を行う方針を示唆した。

スコットランドの独立是非を問う最近の世論調査は、独立賛成派と反対派が引き続き拮抗しているが、サモンド前第一首相のセクハラ疑惑とスタージョン現第一首相等の捜査への関与などを巡る問題が尾を引き、反対派が僅かに再逆転している。2014年の前回投票では、投票直前に賛成派が追い上げ、一部調査で逆転していたものの、最終的には独立後の経済運営などを巡る不安から、無難な現状維持を選択した。僅か数年の間に二回の投票で否決されれば、カナダのケベック州の独立運動がそうであった様に、スコットランド独立の可能性は遠退いてしまう。強硬派からの突き上げもあり、今後も英国政府に投票実施を要求し続けるが、スタージョン第一首相としては、コロナ危機対応を最優先事項と位置付けており、投票実施を急ぐつもりはない。英国政府が投票実施を拒否し続けることで、スコットランド住民の間で独立支持が勢いを増すのを待つ方針だろう。集団免疫の獲得が視野に入り、関連法案の議会審議が始まる来年前半に投票再実施を巡る緊張が再燃する可能性が高い。

英国政府があくまで投票実施を拒否し続ける場合、スコットランド政府が採り得る手段としては、①独立投票の実施可否を法廷闘争に持ち込む、②法的拘束力のない諮問的な住民投票を行う、③法的な裏付けがない住民投票を強行する―などが考えられよう。①については、1998年スコットランド法第30条によれば、スコットランドとイングランドの連合に関連する立法行為を行うには、英国議会がスコットランド議会に一時的に立法権限を付与する必要がある。そのため、スコットランドが英国政府の同意なしに住民投票を行うのは難しいとの見方が一般的だが、英国のEU離脱では国民投票で離脱派が多数であったからと言って、議会関与なしに離脱を断行することはできないとする判決もあった。つまり、住民投票(国民投票)で独立(離脱)の是非が決定する訳ではないので、投票を行うこと自体は1998年スコットランド法が定める留保事項に相当しないとの見方もある。②については、賛成多数の投票結果を示すことで、英国政府に正式な投票実施に向けた政治的な圧力を強めることにつながる。③については、独立後のEU加盟を目指すスコットランドとしては、国際社会から公認されない一方的な独立は回避したいのが本音だろう。②と③については、残留支持派が投票をボイコットするとみられ、投票結果が額面通りに受け止められる可能性は低い。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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