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2026.03.04
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ダウンサイジングと実用技術で生き続ける地域を
~実用技術が支える地域の未来 その4(まとめ)~
重原 正明
- 要旨
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- 本シリーズでは、未踏の高みではなく広がりを求める実用技術の視点から、人口減少時代における地域の問題解決について考えてきた。本レポートはそのまとめとして、地域の諸問題の原因とその解決策の要諦を示すこととする。
- 人口減少時代の地域の諸問題の原因として、「地域サービスシステムの維持負担増大」「人手不足」「財源の減少」「外部からの補助の減少」の4つが主に挙げられる。
- これへの対策の要諦として、「『使われる』範囲内でのダウンサイジングと経費節減」「無理なく運営できる仕組みの構築」「適切な範囲内での住民負担」「対話による住民理解・住民参加」「将来費用を見据えた公的会計」が挙げられる。
- 上記の対策を行う上では、実用技術を適切に導入していくことが助けとなる。また一発逆転のホームランを狙うのは危険が大きい。水滸伝の108人の豪傑のように、いろいろな工夫を組み合わせ積み重ねて行くのが、資金も人も限られるこれからの地域課題への技術の活用には合っていると思われる。
- 自然豊かな日本がこれからも「広く」使われていくために、適切なダウンサイジングと実用技術の活用により、多くの地域が人口減少を乗り越えて生き続けることを願いたい。
- 目次
1. はじめに
当研究所では2025年から、「人口減少時代の未来設計図~社会・経済、そしてマインドの変革~」をテーマに、人口減少がもたらす課題のリサーチを実施してきた。本レポートのシリーズ「実用技術が支える地域の未来」では、様々な地域課題の解決に果たす「実用技術」の役割について考えてきた。
シリーズのレポート「その1」では地域の買い物(消費の場)、「その2」では上下水道・エネルギーというライフライン、「その3」では、地域内の移動(モビリティ)について取り上げた。人口減少による地域課題には、教育(学校)、医療・介護、住居や道路の保全や獣害対策などの生活環境の維持、お祭りなど地域文化の継承など、他にも様々あるが、本編ではシリーズの締めくくりとして、地域の諸問題に共通する原因と、その解決策の要諦について示すこととする。
2. 問題の原因は「維持負担」「人手不足」「財源の減少」「補助の減少」
地域の諸問題に共通する原因として、主に次の4点が挙げられよう。「地域サービスシステムの維持管理負担増大」「人手(担い手)不足」「財源(税収・料金収入)の減少」「外部からの補助の減少」。以下順番に説明する。
(1) 地域サービスシステムの維持管理負担増大
地域の生活を維持していくためには、公共および民間の様々なサービスが提供されることが求められる。しかし人口減少はそのサービス利用者を減少させる(注1)。サービスのコストには比例的な経費(限界経費)のほか、一定の固定費が求められるので、結果的に1人あたりのコストは高くなることになる。また住民が広い地域に散在することで、移動や配管にかかるコストも増大する。具体的には、店舗の維持費、上下水道の管路や処理施設の維持管理費、公共交通手段の維持費などがこのような理由で増大する。
店舗などの民間施設であれば、商圏に一定の人口がなければ事業として成り立たず、撤退・消滅に至る。また公共事業のように料金への転嫁がしやすい場合も、利用料金の高騰を招き、結果的に地域からの人口流出の原因となってしまう。
(2) 人手(担い手)不足
人口減少は地域サービスの担い手をも減少させる。医療従事者や運転手といった免許業種も問題だが、商店の店員や農作業員なども不足することで地域の生活が脅かされていく。最近農村に行くとたわわに実をつけた果樹が放置されているのを多く見かけるような気がする。実がなっているのはわかっているが、取る人がいないという事情のものも多いようである。
(3) 財源(税収・料金収入)の減少
人口減少は地域サービスを財源の面からも脅かす。人口が減ることは利用者が減り、利用者からの料金収入(運賃や水道代など)を減らすことになる。それを公的に補助しようとしても、人口が減る中では税収も減る。市町村の財政も余裕がなくなっていく中、補助金による補てんには限界が生じる。
(4) 外部からの補助の減少
最後に頼るものとして、財政的に余裕のある他の地域、あるいは国からの支援(補助)というものが期待されるかもしれない。しかし現在は、人口減少と高齢化が、農村部から都市部へと進展する局面にある。財政的に余裕のある都市部がそれほど余裕のない周辺地域を支える構造は、程なく限界に達するのではないか。ニュータウンのリノベーションや団地の空洞化が話題となっている現状を見ると、都市自体が都市機能の維持に向けての対策を考えるべき状況に、すでに来ているのではないか。その中で「財政的に余裕のある地域が、余裕のない地域を支える」構造に頼ることは、今後は難しいと思われる。
以上の4点が、地域の諸問題の主な原因として挙げられよう。
3. 対策の要諦は「適度なダウンサイジング」「無理のない運営」「適切な住民負担」「対話による住民理解」「公的会計」
先に見た原因によって生じる地域の諸問題にどう対応すればよいか。これまでのレポートで挙げた3分野の例をもとに、以下その要諦をまとめる。
(1) 「使われる」範囲内でのダウンサイジングと経費節減
人口が減っていく中で地域サービスを維持するためには、人口に見合った適切な規模にサービスをダウンサイジング(縮小)することが適切な場合が多いであろう。ただし、その方法はよく考えないといけない。ダウンサイジングすることで利便性が減り、利用者が減少すると、更なるダウンサイジングへと向かうといった負のスパイラルに陥りがちである。かくして乗るのにも苦労するような最低限の交通路線が作られ、やがて廃止に向かうといったことになる。
ダウンサイジングでも、利用者の利便性をなるべく損なわないようなダウンサイジングを考えるべきであろう。バスの本数を減らすのではなく車体を小さくする、グリスロ(注2)を導入する、あるいはオンデマンドの仕組みを取り入れる、といった方向のほうが望ましい場合もあろう。サービスが「使われる」範囲内でのダウンサイジングを考えることが重要ではないか。
もちろんダウンサイジングとは別に、新しい技術・手法を導入することなどによるサービス内容の変更を伴わない経費節減の努力も忘れてはならないだろう。
(2) 無理なく運営できる仕組みの構築
地域の生活を維持するために努力が必要な場合は多いであろう。しかしその努力が継続できないほどの努力であっては、長続きしない。生活サービスの仕組み、あるいは生活自体を、無理なく続けていける仕組みを作ることが大切であろう。
本シリーズのレポート「その2」で挙げたO町の、40種類のごみの分別は、一見すると大変なことに思えるかもしれない。しかし日常的に出るごみは収集日に集積所に持って行って区分別に捨てればよい。時々出るごみも、資源ごみ収集センターに一度行って、決められた場所に捨てるだけで、ほとんどのごみが捨てられる。ごみの分類について日ごろから意識しなければならない点はあるが、継続的に行うことが可能ではある範囲のシステムと思われる。
「その1」で取り上げた軽トラ市やキッチンカー、「幻のパン屋」も、無理なく楽しくできることが、広がりを見せている原因であろう。生活のためのシステムにとって、無理なく運営できることは必須といえよう。
(3) 適切な範囲内での住民負担
資金も人も足りない中で地域のシステムを維持していくためには、多少の住民負担は必要であろう。下水道を浄化槽に変えれば、自治体に任せっきりであった下水道と異なり、住民自体が浄化槽のメンテナンスに(業者に頼むとしても)一定の注意を払うことが要求されよう。オンデマンド交通であれば、通院する前日に予約を入れないと病院まで連れて行ってもらえない、ということも起こるかもしれない。金銭的な負担が必要な場合もあるであろう。
ただそれも、生活を脅かすものであっては、システム自体が長続きしない。住民が継続的に負担できる範囲がどこまでか、見極めた上でシステムを設計する必要があろう。
(4) 対話による住民理解・住民参加
前項で述べた住民負担と関連するが、地域のシステムを考える上では、地域システムの利用者である住民との対話を通して、住民の理解と参加を得ることが重要である。どこが本当に必要で、どこまでが許容できるか。回り道のようだが、それを知ることで本当に役に立ち、継続できるシステムが作り出せるだろう。
この対話を行う際には、市町村の境界にこだわらず、システムを共有する地域全体で話し合うことが必要な場合もあろう。
(5) 将来費用を見据えた公的会計
現在の自治体の会計制度では、予算・決算の審議で歳入と歳出、つまり単年度収支のみが審議されるため、自治体の持つ資産の劣化、修繕の必要性といったことが注目されにくい。結果として地域インフラのメンテナンスが後回しになってしまうことがないか懸念される。例えば公的会計に損益計算書のみならず貸借対照表の考え方を導入することで、より長期的な視点から政策の財務評価が図れるものと考えられる。
実際に日本国単位では、2000年に「国の貸借対照表(試案)」(平成10年度決算分)を作成・公表し、平成14年度決算分まで作成した。一方、財政制度等審議会「公会計に関する基本的考え方」(2003年6月)を受け、平成14年度決算より省庁別の財務書類を作成、平成15年度からはそれらをまとめる形での、フローとストック(注3)の情報を開示する「国の財務書類」を作成・公表している(注4)。また一部自治体でも同様の開示を行っている。
将来を見据えたストック情報も含む公的会計は、自治体の厳しい財政状況をあらわにしてしまう場合もあるかもしれないし、見せ方によっては地域切り捨ての論拠として使われる可能性もあろう。しかし長期的な視点で自治体の財務的な現状を見る上では有用と思われ、ストック情報を含む公的会計が広がることは地域の問題の解決にも重要であろう。
以上5点が、地域の諸問題への対応の要諦として挙げられよう。
4. 技術の使い方-1人の諸葛孔明より108人の豪傑
このような要諦に従って地域の諸問題に対応していくためには、これまでの3編のレポートに記したように、諸技術を活用することが有用である。以前には考えられなかったことができるようになり、あるいはより安く、また容易にできるようになったりしている。技術を生かさない手はない。
しかしここで注意しなければいけないことがある。先に述べた通り、これからの地域は資金も人も限られる状態となることが想定される。この中で大きなリスクを抱えることは避けるべきであろう。人は困難な状況になればなるほど「一発逆転ホームラン」を狙いたがるものだが、それは得てして無謀な賭けであることが多い。
地域レベルで自立して対策を考えるのであれば、不確実性の強い先端技術よりも本シリーズで示してきた実用技術のほうが役に立つ場合が多いのではないか。実用技術による小さな改良・変更を重ねていくことにより、スムースに地域を持続可能なものにしていくことができる場合は多いのではないか。
資産運用ではリスク回避の方法として分散投資が一般的である。それと同様、地域の問題にもリスクの比較的少ない実用技術を多く用いる「分散技術投資」が失敗しないためには重要なのではないか。三国志に登場する諸葛孔明は稀代の軍師ではあるが、地域課題には諸葛孔明よりも、水滸伝のような108人の豪傑がそれぞれに活躍する姿のほうが似合うように、筆者には思える。
5. 自然あふれる日本を、広々と使い続けよう
以上、人口減少下での地域課題と技術の関係について考えてきた。
日本は世界的にみて自然という資源の豊かな国である。「日本列島は世界で36指定されている生物多様性ホットスポットの一つで、生息する脊椎動物の約4分の1、両生類の約4分の3が日本だけに生息する固有種となっている」と牧之内(2023)は記している(注5)。生物多様性の維持に留意する必要はあるが、地方ごとの気候の違いもあり、多様な生物が生息する国であることは確かである。
この自然を有効に利用するには、できるだけ広く国土を使うことが重要となろう。そして国土を広く使うためには、多くの地域が生き残ることが不可欠であろう。
そのためには、実用技術の活用などで、地域のシステムをうまくダウンサイジングしていくことが不可欠と思われる。
都市部まで人口減少・高齢化が進んで行く中、それぞれの地域は自立することをより求められるようになると思われる。通信技術が発達した今、それは一般に思われているほど難しいことではないのではないか。
「世界は日本だけではない
日本は東京だけではない
この利賀村で世界に出会う」
1982年、富山県利賀村(現南砺市)で開催された日本初の世界演劇祭「利賀フェスティバル」のキャッチフレーズである(注6)。当時はまだインターネットも普及しておらず、パソコンでのデータ通信がようやく広まり出したころであった。今はインターネットにより地域が世界と直接つながることができ、通販で特産品を販売することもできる時代である。
適切なダウンサイジングと実用技術の活用により、多くの地域が人口減少を乗り越えて生き続けることを願って、本シリーズの結びとする。
【注釈】
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高齢化に伴い、介護サービスのように「利用者の増加」が一時的に生じる場合もあるが、そのようなサービスも今後の人口減少の中で長期的には利用者減少に向かうものと考えられる。
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「グリーンスローモビリティ」の略で、電気で動く低速のクルマのこと。詳しくは重原(2025c)参照。
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ストックのうち、資産には有価証券、財政投融資などの貸付金、年金積立金などの運用寄託金、公共施設などの有形固定資産、出資金などがある。負債はほとんどが国債などの公債である。財務省(2026)参照。
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財務省(2026)参照。
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執筆時現在、生物多様性ホットスポットの見直し作業が行われている模様である。
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例えば安間(1983)参照。
【参考文献】
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財務省(2026)財務省主計局「『国の財務書類』ガイドブック」(2026年1月)
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重原正明(2025a)「パートタイム店舗が地域の『買う』を支える~実用技術が支える地域の未来 その1~」(2025年7月)
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重原正明(2025b)「分散型技術が地域のライフラインを支える~実用技術が支える地域の未来 その2~」(2025年10月)
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重原正明(2025c)「グリスロ・特定原付等が地域のお出かけを支える~実用技術が支える地域の未来 その3(モビリティ)~」(2026年2月)
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牧之内芽以(2023)「【1分解説】生物多様性ホットスポットとは?」(2023年11月)
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安間一勇(1983)「利賀フェスティバル’82―第1回世界演劇祭」日本観光協会「月刊観光」1983年1月号pp.27-36
重原 正明
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