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2024.10.21
ライフデザイン
健康・医療・介護
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身寄りのない高齢者への支援体制の現状と課題(3)
~死後事務への対応、そして身寄りのない高齢者対応の充実に向けて~
櫻井 雅仁
1.身寄りのない高齢者の困りごと
身寄りのない高齢者とは、一般的に「配偶者や子供、親族がいない、またはこれらの人々がいても実質的な支援や連絡が期待できない」高齢者を指す。これまで、2回にわたり、身寄りがないことに起因して直面する高齢者の困りごとである、「①判断能力が不十分な中での日常生活における金銭や重要書類の管理」、「②病院への入院、介護保険施設への入所、その他契約時などの身元保証人手配」について述べた(注1、注2)。本稿では、3つ目の困りごとである「死後事務の手配」について考えてみたい。
2.死後事務の手配とは
死後事務とは、人が亡くなった後に発生するさまざまな手続きや処理をさす(図表1)。

親の死後事務を経験した人であれば知っていると思うが、図表1の通り、死後事務には多種多様な項目があり、しかも一定期間内に処理しなければならないものも多い。さらに、行政手続きをはじめ、大半がオンラインで処理ができず、事務所などに足を運ぶ、あるいは郵送の手配をするなど、多大な時間と手間をかけなければならない。家族・親族がいる場合であっても、一切の準備をせずに任せることには躊躇してしまうほどである。まして、身寄りがない高齢者にとっては、悩みの種となるだろう。
「自分が死んだ後のことなど気にしない。誰かがしかるべく処理してくれるだろう」と考えて放置してしまう場合もあるだろう。実際、身寄りのない人が亡くなった場合、遺体の引取り、火葬・埋葬は「墓地、埋葬等に関する法律」にもとづき自治体が行う。しかし、この場合でも、親族や関係者の有無の調査に多大な時間と労力が割かれる。さらに、後日、親族との間に火葬・埋葬の段取りや内容などに関してトラブルが発生するケースもある。親族の調査や連絡が不十分であることが原因とされるが、そもそも同法に基づく対応に統一ルールがないため、各自治体の事情に応じて独自の判断で行われていることが背景にある。報道によると、9月30日に厚生労働省が、身寄りのない遺体の火葬までの期間に自治体によってばらつきがあるとの調査結果を公表した(注3)。火葬までの平均期間は「2日以内(15.5%)」から「3カ月以上(1.1%)」まで幅がある。今後、自治体の対応のあり方が検討され、年度内に報告書が作成される予定である。これにより、火葬・埋葬については改善が期待されるが、その他の死後事務に自治体が踏み込まなければ、多方面に迷惑と負担をかけることになる状況は続くだろう。多種多様な死後事務の円滑な処理は大きな課題といえる。
3.自助・公助による死後事務対策
高齢者に係るさまざまな社会問題の解決策として、自助・共助・公助の組合せが有効な場合が多いが、身寄りのない高齢者の死後事務については、共助が大きな役割を果たすことは期待できないと思われる。そこで、以下では自助と公助について考察する。
(1)自助による対策
自分の死後の事務手続き・処理についての不安を軽減するために、生前に準備できる項目は多くある(図表2)。こうした準備を行うことで、死後の手続き・処理の大半がスムーズに進み、周囲にかかる負担を和らげることが可能となる。
ただし、遺言書のように法的要件を満たす必要があるものや、エンディングノートのように記載すべき項目が多岐にわたり過不足なく記載することが困難なもの、死後事務契約の委託先や葬儀社など安心して任せられる相手の選別や契約内容の精査が必要なものなど、身寄りのない高齢者、特に判断能力などが低下した高齢者が独力で適切に取り組むことが難しい項目がならぶ。これらには、適切な情報提供や相談相手が必要である。自助の項目について、民間の高齢者等終身サポート事業者と委託契約を交わすことも考えられるが、当該事業自体が成熟したものとはいえず、また費用も資力に不安がある高齢者にとっては高額となるため、死後事務の生前準備の基本形とすることには疑問符がつく(注2)。
したがって、身寄りのない高齢者が適切に死後事務の事前準備を行うには、公助の機能が必要不可欠であることが多いと考える。

(2)公助による対策
自治体には、独自に死後事務をサポートする事業を行っているところもある。死後事務の複数項目をカバーするものや、エンディングノートの無料配布のみを行うものなど、自治体ごとに取組み内容は異なる。たとえば、名古屋市では、「名古屋市あんしんエンディングサポート事業」として、「生前の見守り・安否確認サービス」「葬儀・納骨の実施」「賃貸住宅の家財処分・明渡しに伴う諸手続」「死亡に伴う行政官庁への届出」「公共料金の収受機関等への連絡」に取り組んでいる(注4)。また、福岡市では「やすらかパック事業」として、「直葬・納骨」「家財処分」「役所の手続き等」に取り組んでいる(注5)。いずれの場合も、利用者の直接の契約相手は自治体から委託を受けた社会福祉協議会となる。横須賀市や神戸市では、リビングウィル(延命措置など終末期医療に関する事前指示書)や葬儀・納骨について市の相談員が相談を受け、利用者が協力葬儀社と生前契約を締結し、支援プランを策定したうえで、市と協力葬儀社が連携して遂行する事業を行っている。神戸市では、利用者と葬儀社の契約締結の場に相談員が立ち合うサポートも行っている。
いずれも、家族関係や資力に関する条件はあるが、本当に困っている身寄りのない高齢者にとっては助けになるだろう。ただし、こうした取組みを行っている自治体はまだ少なく、多種多様な死後事務の項目と比較すると、サポート内容も十分とはいえない。
厚生労働省は、今年度から「身寄りのない高齢者等が抱える生活上の課題に対応するためのモデル事業(以下、モデル事業)」として、「①包括的な相談・調整窓口の整備」、「②総合的な支援パッケージを提供する取組」を始めた(図表3)。
死後事務は「総合的な支援パッケージを提供する取組」の1つに位置付けられる。図表3に例示されているように、死後事務の多くの項目を対象としている。現時点では試行段階であり、今後、課題の検証が行われる予定である。

しかし、2024年度のモデル事業への取組みに手を挙げたのは、①および②を合わせて合計9自治体に過ぎない(注6)。今後、高齢者の単独世帯は増加し、2050年には約1,084万世帯となり、世帯主が65歳以上の世帯に占める割合が45.1%、一般世帯総数に対する割合も20.6%まで上昇すると推計されている(注7)。本年9月に策定された「高齢社会対策大綱」(注8)でも、基本的施策の1つとして「身寄りのない高齢者への支援」が盛り込まれるなど、大きな社会的課題と認識されている。こうしたなか、自治体は具体的な対策の推進に一層注力し、国も財政的・人的支援を強化するべきではないだろうか。
身寄りのない高齢者に対する支援をモデル事業に先行して取組む自治体、モデル事業に取り組む自治体が少ない理由として、以下の項目が推測される。
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財政的制約:限られた予算の中で、介護、子育て、障がい者、生活困窮者など、さまざまな社会福祉施策に取り組む必要がある。長期間の対応が必要な高齢者支援サービスに資金を確保することの優先順位が低くなること。
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政策的優先順位:地域の事情により、子育て支援や地域振興など、高齢者支援以外の政策を優先させること。
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人材的制約:専門知識やスキルを有する人材の確保・育成が難しく、適切なサービス提供を行うための体制整備が困難であること。
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法的・制度的課題:死後事務を含む「高齢者等終身サポート事業」が十分に整備されていないため、利用者とのトラブルなどのリスクが懸念されること。
他にもさまざまな理由があるだろうが、いずれも各自治体が独力で「自らの創意工夫」により解決できる問題ではないと考えられる。たとえば、モデル事業に対する補助金は、人件費などへの充当を念頭に「5,000千円/取組」となっている。これで、過不足ない人員配置などが可能だろうか。自治体や社会福祉協議会など、モデル事業に関わる人材に過度な負荷がかかり、事業継続が困難となることのないように、今後の検証のなかで実態を確認するべきである。高齢者等終身サポート事業の適正な運営についても、先日策定された「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を、実態を踏まえつつアップデートし、自治体が法的・制度的なリスクに備えながら、当該事業に積極的に取り組むための拠り所とする必要があるだろう。
4.身寄りのない高齢者への支援の今後の展開
これまで「身寄りのない高齢者への支援体制の現状と課題」と題して、3回にわたり考察してきた。現在の社会福祉法が制定されたのは、介護保険制度が創設された2000年であり、2020年に同法において地域共生社会の実現、および重層的支援体制の整備が規定された。この時点で、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応すべく、市町村が社会福祉法、介護保険法、障害者総合支援法、子ども・子育て支援法、および生活困窮者自立支援法にもとづく事業を一体のものとして実施する「重層的支援体制整備事業」を行うことが規定され、さまざまな施策が実施されてきた。
この間、高齢者の単独世帯は2000年の303万世帯から2020年の672万世帯へと2倍以上に増加した。さらに2025年には816万世帯、2050年には1,084万世帯にまで大幅に増加すると見込まれている。しかし、これまで身寄りのない高齢者に対する支援については、各種法制や制度で明確に確立されることはなく、見過ごされてきた感がある。
ここにきて、厚生労働省内でも、身寄りのない高齢者に対する支援を社会福祉法に取り込み、支援を強化することが議論されているようだ。2024年6月20日の福祉新聞(WEB版)によると、6月6日に開催された医療・福祉フォーラムにおいて、朝川厚生労働省社会・援護局長(当時)が、「身寄りのない高齢者への支援強化や成年後見制度の見直しに向けた民法改正の議論に合わせて、社会福祉法を改正すること」、および「2026年に向けて議論する」ことを明言し、「社会福祉法人が公益性を発揮して取り組める対応を考えたい」と述べたとされる。ぜひ、法的根拠をもって、自治体主体で身寄りのない高齢者への支援強化を進めてほしい。その際、国は自治体や実務を担うであろう社会福祉協議会が、予算や人員の不足から不本意ながら取組みが不十分になること、あるいは運営に関する指針があいまいなために支援の質の維持が担当者任せになってしまうようなことは避けてほしい。身寄りのない高齢者が尊厳とウェルビーイングに満ちた生活を送れるよう、優先順位を上げて取り組まれることを期待する。
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櫻井雅仁「身寄りのない高齢者への支援体制の現状と課題(1)~求められる日常生活における金銭等管理などへの支援体制の充実~」
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日本経済新聞(10月1日朝刊)、NHK(10月1日NEWS WEB)。
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名古屋市「あんしんエンディングサポート事業」
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福岡市「やすらかパック」
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「①包括的な相談・調整窓口の整備」:神奈川県川崎市、神奈川県松田町、京都府京都市、福岡県福岡市。
「②総合的な支援パッケージを提供する取組」:神奈川県横浜市、愛知県岡崎市、同豊田市、同大府市。
ただし、2024年度内に実施、あるいは実施予定を表明している自治体。 -
国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和6(2024)年推計)」
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内閣府「高齢社会対策大綱」
櫻井 雅仁
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。