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2024.09.30
ライフデザイン
健康・医療・介護
人生設計
身寄りのない高齢者への支援体制の現状と課題(2)
~誰もが身元保証を心配しなくても良い世の中へ~
櫻井 雅仁
- 目次
1.増加傾向にある身寄りのない高齢者
身寄りのない高齢者とは、一般的に「配偶者や子供、親族がいない、またはこれらの人々がいても実質的な支援や連絡が期待できない」高齢者を指す。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、今後、高齢者の単独世帯は増加し、2050年には約1,084万世帯となり、世帯主が65歳以上の世帯に占める割合が45.1%、一般世帯総数に対する割合でも20.6%まで一貫して上昇すると推計されている(注1)。将来的に高齢者単独世帯は、生涯未婚率・生涯無子率の上昇、家族関係の希薄化により、自分を支援してくれる家族・親族がまったくいない、文字通りの身寄りのない高齢者になる可能性が高い。
身寄りのない高齢者が安心して日々の生活を送り、人生の終焉を迎えるためには、身寄りがないことに起因する主な困りごとである、「①判断能力が不十分な中での日常生活における金銭や重要書類の管理」、「②病院への入院、介護保険施設への入所、その他契約時などの身元保証人手配(以下、身元保証人手配)」、「③死後事務の手配」に対処する必要がある。①については前稿で述べた(注2)。本稿では、②身元保証人の手配について考えてみたい。
2.身寄りのない高齢者が身元保証人を求められる主な場面とその理由
まず、身寄りのない高齢者が求められる「身元保証」とは何か。確たる定義はないものの、高齢者等終身サポート事業者ガイドライン(注3)では、身元保証等サービスの例として次の通り記載されている:「医療施設・介護施設等への入院・入所の際の連帯保証、および入退院等における手続き代行」、「死亡または退去時の身柄の引取り」、「医療に係る意思決定の支援への関与」、「緊急連絡先の指定の受託および緊急時の対応」。
身寄りのない高齢者が身元保証人の手配を求められる主な場面としては、医療機関への入院(以下、入院)、介護保険施設への入所(以下、入所)、賃貸住宅の契約が考えられる。身元保証人を手配できずに入院・入所を断られた場合、迅速な治療や介護サービスを受けることができず、病状や介護状態の悪化につながる懸念がある。あるいは住まいを確保できずに住宅難民となる恐れもある。いずれも当人にとって非常に大きな不利益となる。
病院は、医師法第19条第1項の規定により、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合を除き、患者からの診療の求めを拒めない。介護保険施設も同様に、厚生労働省の省令(注4)により正当な理由なく入所を断ることができないとされている。いずれも、身元保証人を手配することができないことは、正当な理由には該当しない。こうした法令の遵守を促すため、実務的には、厚生労働省から都道府県に対して、医療機関、介護保険施設ともに、身元保証人等がいないことのみを理由として入院・入所を拒否することのないよう指導、あるいは監督することが求められている。しかし、総務省(関東管区行政評価局)の調査によると、埼玉県、東京都、神奈川県における病院・施設の9割以上が入院・入所の希望者に身元保証人等を求めており、入院・入所を断る病院が5.9%、施設は20.6%存在する(注5)。
また、住宅の賃貸借契約についてこうしたデータは確認できないが、一般的に賃貸住宅のオーナーは、後述の理由などから身元保証人を要求するケースが多いようである。一例として、国土交通省の調査によると(注6)、住宅に困窮する低額所得者に住宅を提供することが目的である公営住宅ですら、入居に際して保証人(家賃の支払い保証を目的とする)を求める事業主体が75.0%存在し、その中で約20%が、高齢者、障がい者、被災者、生活保護者(低額所得者)などの住宅確保要配慮者であっても、保証人の確保が困難な場合に保証人の手配を免除しない。
病院や介護保険施設が入院・入所時に身元保証人を求める理由として、主に以下のようなリスクの回避が考えられる。
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医療費・入所費の未受領リスク
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容態の急変など緊急時対応のリスク
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退院・退所後のケアを負うことのリスク(落着き先の手配や介護サービスの調整、死亡時の遺品整理や退去を担う人員確保)
次に、賃貸住宅のオーナーなどが高齢者との賃貸借契約時に身元保障人を求める理由として、主に以下のようなリスクの回避が考えられる。
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居室内での死亡事故などに伴うリスク
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賃料の滞納や未受領のリスク
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住宅の使用方法や他の入居者、近隣住民とのトラブルに係るリスク
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住宅が不適切に使用されるリスク
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緊急時の対応のリスク
こうした、病院、介護保険施設、賃貸住宅におけるリスク抑制は、これらの施設の健全な事業継続のために必要ではあるが、身寄りのない高齢者にとって、できるだけ負荷がかからない方法で確保することが求められる。
3.身寄りのない高齢者の身元保証人手配とその問題点
身寄りのない高齢者の身元保証人問題の解決策として、「成年後見制度」、「民間高齢者等終身サポート事業者(以下、事業者)」、「地域共生社会の実現」などが考えられる。
(1)成年後見制度
成年後見制度を利用することで、特に身寄りのない高齢者の判断能力が不十分となった際に、財産管理、身上保護の支援を受けることができる(注1)。成年後見人が自身の権限で、あるいは医療・福祉分野の関係者と連携を取ることで、医療費・入所費・賃料の未払い、退院・退所後のケアなどのリスクは軽減できる。総務省(関東管区行政評価局)の調査において、身元保証人を手配できない場合に成年後見制度の利用を促すケースが存在することが示されている。
しかし、現時点では成年後見制度自体の使い勝手が悪い、費用を連帯保証することができない、医療行為について代行で意思決定を行うことができない、常時対応可能な緊急連絡先になることは困難など、身元保証に求められるすべての機能をカバーすることはできない。つまり、現在の成年後見制度では、身元保証の機能を必要十分なレベルで果たすことはできないといえる。厚生労働省で議論されている成年後見制度の見直しのなかで、どの程度使い勝手が改善するか注目したい。
(2)民間高齢者等終身サポート事業者
「高齢者等終身サポート事業(旧「身元保証等高齢者サポート事業」)」と呼ばれる、高齢者等に対する身元保証や死後事務、日常生活支援等のサービスを営む事業者が増加しているといわれており、今後も需要の増加が見込まれている。
他方で、身寄りのない高齢者を支援するサービスであり、より消費者保護の必要性が高いにもかかわらず、事業者を網羅的に把握した公的資料はなく、事業者の適正性を確保するための規制法令や監督官庁も存在しない。2016年には、身元保証等高齢者サポート事業の事業者の中でも大手とみられていた公益財団法人日本ライフ協会が利用者からの預託金を流用したうえ、経営破綻し、利用者はサービスを受けられず預託金も返還されない事態が発生した。契約内容が十分に理解できないなかでの高額契約、サービスの不履行、解約時の返金などをめぐる利用者とのトラブルはなくならない。
2023年に総務省が公表した、当該事業の実態把握と健全な発展に向けた検討を目的とした調査報告によると(注7)、調査に協力した事業者の約8割が事業開始後10年に満たず、従業員数5人以下が約6割、契約者数9人以下が約3分の1である。このため、事業の歴史・規模ともに十分な基盤をもつものとはいえない。事業運営のあり方は、規範となるモデルもなく事業者ごとに異なっており、事業者自身も社会・消費者からの信頼を得るための道を模索している。同調査において、事業者から国に対して「事業者に対するガイドラインの策定」、「事業者への規制や登録制度」、「監督官庁や事業者団体の設置」、「ケアマネジャーや地域包括支援センターとの連携・協働の仕組み」を求める声があがっている。また、自治体からも「費用の上限等のルール化・基準」、「事業者団体の設立、事業者の信用を保証する仕組み」、「届出・登録・許可などの規制、行政・第三者機関による監督」、「事業の法的根拠」などに意見・要望がだされている。
今般、事業者の適正な事業運営の確保、当該事業の健全な発展の推進、利用者の安心を目的に、「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」が作成・公開された(2024年6月)。これには「契約締結」、「契約履行」、「事業者の体制」についての留意点が記載されている。潜在的なものを含めたニーズへの対応から事業が拡大しつつあるなか、事業の適正性を確保するための仕組みが十分には整備されていない状況が改善されることを期待する。
また、こうしたサービスの費用は高額であり、経済的な事情から利用できないケースも懸念される。上記の総務省の調査によると、事業者ごとにサービス内容や料金形態が異なるので一概にはいえないが、サービス利用開始時に少なくとも100万円以上が必要になり、一定程度の収入・資産がなければ利用が困難であるとされている。
身寄りのない高齢者が身元保証を求められ、やむを得ず民間事業者に頼るケースも増えてくると想定される。事業者の信用性・サービスの質・価格の妥当性などの面で、利用者の安心感を大幅に引き上げる必要があるだろう。
(3)地域共生社会の実現における取組み
身寄りのない高齢者が身元保証問題を解決する手段として想定される成年後見制度と民間事業者についてみてきた。しかし、世界にも類をみない超高齢社会で、身寄りのない高齢者の増加が明らかである我が国において、身寄りのない高齢者の身元保証問題は、成年後見制度との連携も含めて、地域共生社会実現に向けた取組みのなかで、社会福祉により解決すべき問題としてとらえるべきではないだろうか。
厚生労働省「成年後見制度利用促進専門家会議」において、「身元保証業者に頼らずとも安心して地域で暮らせる仕組みが求められているのではないか」、「身元保証不要な社会を構築していくということについては全面的に賛成」、「身元保証の慣行や、身元保証事業者の活動を追認することなく、総合的な権利擁護支援策の実働を検討すべき」などの意見がだされている。同省「地域共生社会の在り方検討会議」でも、身元保証問題を含めた、身寄りのない高齢者が抱える課題等への対応が議論される。社会福祉の施策として、この問題への対応策の検討と効果的な実装を期待したい。
現在、新たな権利擁護支援策構築に向けた「持続可能な権利擁護支援モデル事業」として、「身寄りのない高齢者等が抱える生活上の課題に対応するためのモデル事業」が行われている。図表1の通り、市町村が実施主体となり、「包括的な相談・調整窓口の整備」、「総合的な支援パッケージを提供する取組」が行われている。「十分な資力がないなど民間による支援を受けられない方や社会資源が乏しい地域で」との前提があるが、高齢者の心身の機能低下に差異はないことを踏まえると、利用料金の設定を工夫するなどしたうえで、できるだけ制約のない運営が行われ、モデル事業から普遍的な事業に発展することを期待したい。その結果、病院・介護保険施設・賃貸住宅のオーナーにとっても、大きなリスクを背負うことなく身寄りのない高齢者を受け入れることが可能になるだろう。
また、当該事業では、各地の社会福祉協議会や地域包括支援センター等が主要な役割を果たすことになると考えられる。各地域の社会福祉が複雑さを増し、負荷が大きくなっているなか、十分な人員配置を可能とする予算措置を期待したい。

4.身元保証を心配しなくても良い世の中へ
身寄りのない高齢者にとって、身元保障人を手配することの負担は大きい。また、身元保証人の手配ができずに、望ましい入院・入所・住居の手配などをあきらめることは、身寄りのない高齢者のウェルビーイングを損なうばかりか、病状の悪化、要介護度の重度化、住宅難民化による健康状態の悪化などにより、社会保障費の増加にもつながる。
むやみに身元保証を要求しない、身元保証が必要な場合でも地域共生社会の中で社会福祉としてその代替を用意する、といった考え方や取組みが定着する世の中にしていくべきであろう。
【注釈】
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国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和 6(2024)年推計)」
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櫻井雅仁「身寄りのない高齢者への支援体制の現状と課題(1.~求められる日常生活における金銭等管理などへの支援体制の充実~」
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内閣官房、内閣府、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省「高齢者終身サポート事業者ガイドライン」
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指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(1999年厚生省令第39号)など、各施設の基準に関する省令
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総務省関東管区行政評価局「高齢者の身元保証に関する調査(行政相談契機)-入院、入所の支援事例を中心として-」
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国土交通省「公営住宅への入居に際しての保証人の取扱い等に関する調査」(令和5年4月1日時点)
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総務省行政評価局「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査」
櫻井 雅仁
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。