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2024.08.29
ライフデザイン
健康・医療・介護
人生設計
身寄りのない高齢者への支援体制の現状と課題(1)
~求められる日常生活における金銭等管理などへの支援体制の充実~
櫻井 雅仁
- 目次
1.増加傾向にある身寄りのない高齢者
身寄りのない高齢者とは、一般的に「配偶者や子供、親族がいない、またはこれらの人々がいても実質的な支援や連絡が期待できない」高齢者を指す。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、今後、高齢者の単独世帯は増加し、2050年には約1,084万世帯となり、一般世帯総数に対する割合でも20.6%まで一貫して上昇する(注1)。将来的に高齢者単独世帯は、生涯未婚率・生涯無子率の上昇、家族関係の希薄化により、自分を支援してくれる家族・親族がまったくいない、文字通りの身寄りのない高齢者になる可能性が高い。
身寄りのない高齢者が安心して日々の生活を送り、人生の終焉を迎えるためには、身寄りがないことに起因するさまざまな困りごとに対処する必要がある。その中でも、「①判断能力が不十分な中での日常生活における金銭や重要書類の管理(以下、金銭等管理)」、「②病院への入院、介護保険施設への入所、その他契約時などの身元保証人手配」、「③死後事務の手配」は、介護保険制度の対象外の項目でもあり、切実な問題と考えられる。
今後3回にわたり、上記3点の「身寄りのない高齢者の困りごと」ついて考察する。本稿では、身寄りのない高齢者の「日常生活における金銭等管理」について考えてみたい。
2.日常生活における金銭管理などに関する困りごと
加齢などにより判断能力が低下すると、日々の生活に必要な金銭や通帳・各種契約書などの重要書類の管理が困難になる。これは、認知症の有無にかかわらず発生する問題である。日常生活における収支管理ができず、資産や収入の状況を勘案せずに思うがまま金銭を使い、生活費が枯渇してしまう、といったケースが懸念される。総務省の家計調査によると、単身無職の高齢者世帯では可処分所得が約11.5万円(実収入は約12.7万円)、消費支出が約14.5万円で約3.1万円の不足が生じる(注2)。経済的な破綻を防ぐためには、資産状況を踏まえた計画的な支出が不可欠である。
また、判断能力の低下による、特殊詐欺(オレオレ詐欺、架空請求書・還付金詐欺など)、強引な訪問販売などによる詐欺被害も懸念される。警察庁によると、2023年度の高齢者の特殊詐欺被害の件数は14,895件で、法人被害を除いた総認知件数の78.4%を占める(注3)。
金銭等管理などには、通帳の記帳や管理、公共料金の支払い、税金の手続き、年金の受け取りなど、さまざまな事務作業が伴う。しかし、高齢になり、体力的に銀行や役所に出向くことすら負担になる場合もある。インターネットバンキングやオンラインでの手続きが普及する中、これらのデジタル技術に不慣れな高齢者も多く、デジタルディバイドが金銭等管理の障害になっているケースもある。必要な支払い、事務手続きなど、金銭管理の滞りは、生活基盤そのものを脅かす深刻な事態につながりかねない。
こうした高齢者が接する日常の金銭等管理に関する困りごとは、かつては同居、あるいは近所で生活する家族・親族が解決してきた。しかし、家族構成の変化、家族関係の希薄化などにより、家族・親族からの支援が期待できない身寄りのない高齢者が増加していることから、家族・親族以外による支援が不可欠になってきている。
3.行政、民間事業者などによる支援サービスの現状と課題
身寄りのない高齢者の日常生活における金銭等管理に対する支援サービスは、行政、民間事業者などから提供されている。当事者の判断能力、身体能力、経済状況、家族・親族の状況などを踏まえ、利用する支援サービスを選択することになる。その際に最も重要な要素は当事者の判断能力と考える。以下、高齢者の判断能力が不十分になった際に考えられる支援サービスとして、「日常生活自立支援事業」、「成年後見制度」、「民間事業者によるサービス」をみる。
(1)日常生活自立支援事業
これは、判断能力が不十分(認知症高齢者等、知的障がい者、精神障がい者などであって、日常生活を営むのに必要なサービスを利用するための情報の入手、理解、判断、意思表示を本人のみでは適切に行うことが困難)で、日常生活に不安がある人が、地域で自立した生活を送れるよう、利用契約に基づき、各地域の社会福祉協議会が福祉サービスの利用援助などを行うものである。したがって、判断能力が低下しているものの、契約内容について判断しうる能力を有していると認められることが条件となる。
主なサービス内容は、「福祉サービスを安心して利用するための支援」、「日常生活に必要な金銭の管理、出し入れ、収支管理の支援」、「日常生活に必要な事務手続きの支援(郵便物の確認を含む)」、「通帳や証書などの重要書類の預かり」、「定期的な訪問による生活変化の察知(見守り)」である。その中で、「日常生活に必要な金銭等管理」では、年金の受取り手続き、公共料金の支払い代行、預貯金の出し入れのサポートなど、生活費の管理の支援を行う。利用者の財産、収入などを踏まえ、生活費が枯渇しないように利用者に節度ある消費活動を促すこともサービスの1つである。これらのサービスにより、利用者は金銭管理の面で安心して生活することができる。
また、こうした金銭管理に加え、日常的な事務手続の支援、郵便物の確認、定期的な訪問での対話などを通じて、詐欺などが疑われる相手や行為に対して注意喚起を行い、未然防止することも期待できる。
日常生活自立支援事業の手続きは比較的シンプルで、料金は地域により異なるが厚生労働省のウェブサイトでは、実施主体が設定している利用料は「訪問1回あたり平均1,200円」と記載されている。生活保護受給世帯については無料である。原則として利用にあたり特段の要件はないが、本サービスの契約内容が理解できることが前提であるため、認知能力・判断能力が一定程度低下した場合は、成年後見制度への移行などが必要になる。
このように、日常生活自立支援事業は比較的利用しやすい制度であるにもかかわらず普及は進んでいないようだ(図表1)。本事業の対象となる「認知症高齢者等」、「知的障がい者」、「精神障がい者」の数が増加傾向にある中で、本事業の利用が進まない主な理由として、他の福祉サービスと比べて認知度が低いこと、補助事業として予算と人員に制約があること、成年後見制度への移行や介護施設への入所による解約などが挙げられる。その中でも、最も重大な理由は人員不足ではないだろうか。図表1が示すように、本事業の担い手となる「専門員」、「生活支援員」の数が充足していないことが契約件数(利用者数)の制約条件となっているようだ。社会福祉法人全国社会福祉協議会も、利用者数が増えない背景として「本事業が補助事業であり、予算上の制約等から支援を担う職員体制の拡充が難しいこと」を挙げている。地域によっては新規の利用者を受け入れる余裕がなく待機者が発生しているという状況が生じており、早急に解消すべきである。特に、利用者に対して直接サービスを提供する生活支援員が減少傾向にある理由の1つに賃金の低さがあるのではないか。網羅的なデータはないが、各地の社会福祉協議会の募集要項をみると、生活支援員の時給(あるいは時給換算賃金)は各地の最低賃金を大きく上回るものではないようである。採用側の視点として職員体制拡充の予算手当、職員側の視点として賃金アップが必要である。

(2) 成年後見制度
成年後見制度は、認知症高齢者等、知的障がい者、精神障がい者など、本人の判断能力が不十分になった際に本人を支援する制度であり、この点では日常生活自立支援事業と共通している。しかし、日常生活自立支援事業が、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭等管理など、日常生活に関する支援に限定されているのに対し、成年後見制度はより広範な支援を提供し、法的な権限も強いため、より包括的な保護が必要な場合に適している。成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度の2種類に大別される。
法定後見制度は、本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所の審判により開始される制度である。主な支援内容は以下の3点である。
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財産管理:日常的な金銭管理にとどまらず、財産全般の管理と保護を行う。
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身上保護:医療施設への入退院や介護保険施設への入退所など、本人の生活全般に関する重要な意思決定をサポートする。
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法的権限:契約の締結や取消しなど、本人に代わって法律行為を行う権限を持つ。
法定後見制度には判断能力など本人の状況に応じて「補助」、「保佐」、「後見」の3種類があり、柔軟な支援が可能となる。また、昨今、家族・親族、弁護士・司法書士等の専門職以外にも、複雑な財産管理・契約管理が不要な平易なケースでは、地域での社会貢献的な性格を持つ市民後見人が選任される事例も少数発生している(注4)。
任意後見制度は、本人が判断能力を有する間に、将来の判断能力低下に備えて後見人となる人(任意後見受任者)と契約を結び、判断能力が不十分になった後に家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて支援が始まる。法定後見制度と比べて、より本人の意思を尊重した形で将来の支援体制を整えることができる。主な特徴は以下の3点である。
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自己決定の尊重:本人が後見人や支援内容を事前に決められる。
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柔軟な対応:契約内容に基づいて支援が行われるため、より本人の意思に沿った対応が可能。
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円滑な支援開始:事前に契約を結んでいるため、本人の判断能力低下時に比較的スムーズに支援を開始できる可能性がある。
成年後見制度は、判断能力が低下した人の権利擁護のための重要な制度であるが、十分に普及しているとはいい難い。図表2の通り、利用者数は増加傾向にあるものの、厚生労働省の作成資料(注5)に記載の認知症高齢者等、知的障がい者、精神障がい者などの潜在的利用者の数に比べて非常に小さい(注6)。普及が進まない主な理由としては、制度の認知度・理解度の低さ、後見人に専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士など)が選任された場合の報酬の負担、手続きの煩雑さ、制度利用の不可逆性、後見人の人材不足などが挙げられる。

現在、厚生労働省の成年後見制度利用促進専門家会議で、「第二期成年後見制度利用促進基本計画(2022年度~2026年度)」の中間検証が行われている。同基本計画では「1.成年後見制度の見直しに向けた検討と総合的な権利擁護支援策の充実」として、「成年後見制度等の見直しに向けた検討」が規定され、「スポット利用の可否/三類型の在り方/成年後見人の柔軟な交代/成年後見人の報酬の在り方/任意後見制度の在り方」が主な論点として挙げられている。こうした検討の中で、成年後見制度の利便性が向上し、活用の促進につながることを期待したい。
特に、「スポット利用」、「成年後見人の柔軟な交代」は、後見人は一旦選任されると、利用者の状況変化等、理由のいかんに関わらず亡くなるまで継続するという、成年後見人制度の大きな課題である「制度利用の不可逆性」を解決しうる有効な策と考える。利用者の状況や成年後見人を必要とする事案の難易度に応じて、専門職後見人を一時的に利用する、あるいは専門職後見人と市民後見人がリレーすることができるようになる。これは、特に家族・親族を後見人にすることができない身寄りのない高齢者にとって非常に有益な制度になる。
また、「成年後見制度と日常生活自立支援事業等との連携の推進及び同事業の実施体制の強化」も主要な論点となっている。身寄りのない高齢者が、まず日常生活自立支援事業のサービスを受け、判断能力低下の度合いに応じて市民後見人に移行し、さらに専門的知識が必要な案件の発生に従い専門職後見人に移行するなど、平易な手続きで、柔軟に制度を選択できるようになると良いだろう。
金銭等管理は日常生活自立支援事業の重要なサービスであり、また、最高裁判所「成年後見関係事件の概況-令和5年1月~12月-」によると、成年後見の申立ての動機で最も多いのは「預貯金等の管理・解約」(31.1%)(注7)である。このことからも、判断能力が低下した高齢者の金銭等管理に対するニーズが強いことがわかる。
しかし、日常的な金銭等管理については、複雑な財産管理や契約管理は不要であり、あえて成年後見制度を利用する必要がないケースも多いと考える。高額な報酬による経済的負担と硬直的な運用を生涯にわたり続ける必要がなくなることは、大きな改善であろう。身寄りがなく、日常の金銭等管理について制度支援を受けざるをえない高齢者にとって、優しい制度運用の実現を期待したい。
(3) 民間事業者によるサービス
近年、身寄りのない高齢者にさまざまなサービスを提供する民間事業者が増加している。こうした民間事業者は、日常生活自立支援事業や成年後見制度と異なり、本人の判断能力の程度は問われない。また、日常生活自立支援事業や成年後見制度に比べて、支援開始までに要する時間は短い。そのため、軽度の認知機能の低下がみられる高齢者や、まだ判断能力は保たれているものの、体力的な衰えなどから金銭管理に不安を感じている高齢者などが、自身の状況やニーズに合わせて、速やかにサービスを選択・開始できるというメリットがある。
しかし、日常的な金銭等管理のサービスについていえば、こうした民間事業者の場合、同サービスに不可欠な預貯金の引き出し入れなどに係る代理権設定が難しく、当該サービスの担い手としての位置づけは相対的に高くないと考える。身寄りのない高齢者に対する民間事業者のサービスについては、別の機会に言及したい。
4.身寄りのない高齢者が金銭等管理などに不安なく生活するために
本稿では、身寄りのない高齢者の増加という社会背景を踏まえ、日常生活における金銭等管理の課題と、主に行政による支援サービスの現状と課題について考察した。金銭等管理は、生きていく上で最低限必要な行為であるものの、その支援サービスは介護保険制度の対象ではない。身寄りがなく、判断能力が低下した高齢者は、日常生活自立支援事業、あるいは成年後見制度を活用することで対応することになろう。
日常生活支援事業は1999年、成年後見制度は2000年にスタートした制度である(日常生活支援事業は、2007年に当初の「地域福祉権利擁護事業」から改称された)。これまでも、利用者のニーズに合わせたサービスの提供や、より利用しやすい制度への改善を目指して継続的に見直しが行われてきたが、前述の通り、改善の余地は大きいと考える。
また、社会福祉法に基づき、地域共生社会の実現に向けて検討を行う「地域共生社会の在り方検討会議」が本年6月に発足し、「身寄りのない高齢者等が抱える課題等への対応」、「成年後見制度の見直しに向けた司法と福祉との連携強化等の総合的な権利擁護支援策の充実」が主要な論点となっており、今後の議論に期待したい。
身寄りのない高齢者も、自身の将来に備え、早めの対策を講じていくことが必要であろう。具体的には、自治体や地域包括支援センター、社会福祉協議会などで相談・情報収集をして、自身の希望に沿った将来の準備をしておくことが考えられる。
今後も増加が見込まれる身寄りのない高齢者にとって、安心して日々の生活を送るためには、確実に金銭等管理を行える支援体制の構築が重要である。行政を中心に、利用者に優しい仕組みと運営が実現することを期待したい。
【注釈】
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国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計) (令和 6(2024)年推計)」
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「市民後見人」とは、弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士、行政書士、精神保健福祉士および社会保険労務士以外の自然人のうち、本人と親族関係(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)および交友関係がなく、社会貢献のため、地方自治体等が行う後見人養成講座などにより成年後見制度に関する一定の知識や技術・態度を身に付けた上、他人の成年後見人等になることを希望している者を、家庭裁判所が選任した場合をいう。報酬の有無は個別に決められるが、報酬が認められる場合でも専門職に比べると低く設定されることが多い。2023年の新規選任のうち、市民後見人の選任件数は全体(40,729件)の約0.84%(344件)である。
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厚生労働省ウェブサイト「第二期成年後見制度利用促進基本計画・施策の実施状況等」に掲載の「成年後見制度の利用の促進に関する施策の実施の状況(令和6年4月)」(資料タイトル:成年後見制度の現状)
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上記、厚生労働省「成年後見制度の現状」によると、2025年の認知症高齢者の数は675万人~730万人と推計されている。また、2016年の知的障がい者数は約96万人(うち、高齢者は約15万人)、2020年の精神障がい者数は約586万人(約206万人)である。
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最高裁判所「成年後見関係事件の概況-令和5年1月~12月-」
櫻井 雅仁
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。