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もうママ友は必要ないのか

~現代における「子どもを介した友人」の価値を考える~

福澤 涼子

目次

1.「ママ友」の持つイメージ

「ママ友」と聞くと、どのようなイメージを持つだろうか。人によっては、育児に関する悩みを共感しあうといったポジティブなもの、あるいは過剰に気を遣ったり、トラブルの種になるといったネガティブなイメージを持つ人もいるだろう。

「ママ友」とは、主に「子どもを通じて知り合った母親同士の友人関係」を指す言葉で、核家族化が進み孤立した育児が問題視される近年において、育児を支える重要なサポート源だと考えられてきた。当研究所で、2003年に実施した母親に対する調査結果(注1)によると、当時のママ友の人数は平均9.2人で、ママ友が全くいない(0人)割合はわずか6.2%であり、約20年前はママ友がいるのが当たり前の社会であったといえる。政府としても、2007年から「地域子育て支援拠点事業」と称して、子育て中の親が交流出来る場づくりを推進しており、その拠点数は現在も増え続けている(注2)。

他方、ママ友は育児期特有の特殊な友人関係であるとも言われる。相手のプロフィール(名前を知らず“●●ちゃんママ”と呼び合うこともある)や価値観が見えにくい中、「同年代の子どもを持つ」という共通点だけで友人関係を築く。さらに、子ども同士が友人の場合もあり、相手を苦手だと感じてもその関係を絶つのは容易ではない。そのため、ストレスやトラブルの種にもなると捉えられることもあり、メディアやインターネット上には、ママ友にまつわるネガティブな話が数多く掲載されている。

当研究所では、2022年9月に「第5回新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査」を実施した。本稿では、その中の「ママ友・パパ友」に関する調査結果をもとに、現代における子どもを介した友人の必要性について考えていきたい(注3)。

2.「ママ友・パパ友がいない」がおよそ半数。新型コロナウイルスの影響も。

図表1は、小学生以下の子どもを持つ親に対して「ママ友・パパ友」の有無をたずねた結果である。「ママ友・パパ友がいない」と回答した割合は56%(父親の69%、母親の45%)となり、約20年前のママ友がいるのが当たり前であった時代から、親同士のネットワークに変化が生じている可能性がうかがえる。

図表1
図表1

その要因のひとつとして、新型コロナウイルスの感染拡大により、親子同士の交流の場が減少したことが挙げられる。図表1にもある通り、ママ友がいると回答した人であっても「コロナ禍でママ友・パパ友が対面で新たにできた」、「コロナ禍で疎遠になったママ友がいる」と回答した人はおよそ半数であった。こうした結果は、子育て支援の場が閉鎖・人数制限をしたことで利用者が激減したことや(注4)、地域イベント、学校行事などが中止となったこと、加えて、保育所への送迎時に親同士の立ち話を禁止されたり、公園などでも衛生上の観点から、自然発生的な会話・交流が生まれにくくなったなどの影響が大きいと考えられる。また、既存のママ友関係ついても、家の行き来をするなどの交流が持てない期間が長くなり、疎遠になるといった影響を受けた可能性が高い。

3.ママ友と付き合う必要性が薄れている?

一方で、新型コロナウイルス感染拡大の影響だけでは説明できない結果もある。

図表1で、「ママ友・パパ友がいない」と回答したおよそ半数の人に着目すると、「ママ友・パパ友との付き合いは自分にとって必要か」をたずねた質問では、ママ友がいる人は65%が必要だと考えている(「あてはまる」・「どちらかというとあてはまる」の合計)のに対し、ママ友がいないと回答した人の87%が「ママ友は必要ない」(「あてはまらない」「どちらかというとあてはまらない」の合計)と回答した(図表2)。つまり、「ママ友・パパ友がいない」人は、こうした友人付き合いは必要ないと感じているため、作らない傾向にあると考えることができる。

図表2
図表2

子どもを介した友人の必要性が薄れた要因としては、時代の流れに伴う子育て環境の変化や親の就労状況の変化が大きいと考えられる。ママ友との交流の価値は、育児に関する知識の交換など情報的な支援と、育児の悩みに共感するといった情緒的な支援などが挙げられる。しかし、現代では、それらのサポート源の一部がママ友以外に代替され始めているのではないだろうか。

例えば、スマートフォンなど情報通信機器の急速な普及によって、親たちは豊富な育児情報を簡単に入手できるようになった。特に第一子出産後に幼児期を迎えるまでは、初めての寝かしつけ、離乳食、病気など経験したことのない事柄が幾度となく発生する。その分、親同士のネットワークから得た育児関連の情報は非常に重要な意味を持ち、それがママ友づくりの動機にもなった。一方、今回の調査結果では、ママ友を持つ親でも、育児の悩みがあった際、「ママ友に聞くよりインターネットで情報収集して解決する」割合が54%にも上った(「あてはまる」・「どちらかというとあてはまる」の回答の合計)。この結果からも、ママ友の持っていた「情報交換」という大きな役割の一部を、個々人がインターネットで必要な情報を獲得することで代替しているといえる。また従来は、子どもがいると行動範囲が制限されるため、学生・社会人時代の友人関係は子どもの誕生と共に絶たれてしまう傾向があった。だが現代はSNSを通じて、物理的距離に関係なく交流・つながりを維持できるようになっている。そのため、「せっかく作ったご飯を子どもが食べてくれなくて精神的に辛い」といった悩みも、近所のママ友ではなく、遠くに住む子どものいる旧友に相談することの方が多いのではないか、と推測できる。

加えて、仕事を持つ母親が増えていることも挙げられる。国立社会保障・人口問題研究所が実施した最新の「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」によれば、出産後も就業する母親の割合は大きく上昇し、末子2歳以下の母親の就業割合は6割を超えている。子どもを持つ親は孤独を感じやすいと一括りにされることが多いが、有職の母親たちは、職場で日常的なコミュニケーション機会を持つために、(出産前後に間が空くとは言え)社会との接点を持ち続けることができる上、そもそもママ友を作る時間が限られている場合も多い。こうした有職の母親が増えたこともママ友の必要性を感じる人々を少なくしている要因かもしれない。

また「ママ友」という言葉のもつネガティブな「イメージ」も、「ママ友・パパ友との付き合いは、自分にとって必要だと感じない」という結果に影響しているのではないか。冒頭に述べたように、ママ友は特殊な人間関係であり、SNSやメディアでは嫉妬や陰口、ママ友グループによる仲間外れなどネガティブな情報のほうが目につく。ある研究(注5)でも、母親たちは前もってネガティブな「イメージ」を持つために、ママ友づくりに消極的になることがあるとされる。

つまり、個人差はあるとしても、「育児情報や、相談相手、働くことで社会とのつながりもある現在、限られた時間を割いてまで、ストレスの種となるかもしれない友人をつくる必要性を感じない」ことが、ママ友を作らない親たちの本音なのではないだろうか。

4.現代におけるママ友の価値

一方、図表2で示した通り、ママ友がいる人の6割以上は、現代でも「ママ友は必要」だと回答している。では、ママ友の価値とは果たして何か。アンケートとは別に、「ママ友は必要だ」と考える親たちに話を聞いてみると(注6)、特に「セーフティネット」、「インターネットにはない情報の交換」という、現代でもほかの手段に代替し難いママ友との交流の価値がみえてきた。

1つ目の「セーフティネット」とは、何かあった際に援助が期待できる安全網のことである。幼い子どもを抱える親は非常時に、子どもをどうするかという問題が発生する。実際、「急に陣痛が来たママ友の子どもを預かった」、「自分が持病で入院、退院したばかりの頃、1週間子どものお迎えをお願いした」など、親自身に何かあった際に、ママ友に子どもを託したり、託されたりしたというエピソードが聞かれた。ママ友であれば距離のメリットだけでなく、食事や危険行動など勝手もわかっていて、預ける側としても安心だと話す。『令和4年版 子供・若者白書』によると、現在約6割の親が「近所に子どもを預かってくれる人はいない」という孤立した状況にある。そのような親にとって、非常時に助けを求める相手がいるという認識は、日々の安心感にもつながるだろう。

2つ目は、「インターネット上にはない情報の交換」である。例えば、ママ友との会話を通じて、自分ではたどり着きにくいローカルな情報(習いごとや遊び場など)を入手することができる。また特に子どもが小学校進学後は、子どもを介して学校の情報を入手する割合が高くなり、ママ友から得る情報の重要性も増してくる。例えば、行事の持ち物、集合時間、本日の宿題など、子どもからの不確かな情報をもとに判断を迫られるとき、気軽に聞けるママ友がいれば、悩む時間を減らすことができる。その他、子どもがクラスメイトとトラブルになった際も、子ども本人からの情報だけではなく、ママ友からの情報も踏まえて、より多角的に状況を判断することができる。PTAや行事の係といった学校の慣例についての情報も、忙しい親にとってはなくてはならない。個人差はあるだろうが、ママ友との付き合いのある親たちは、そのような情報を持たない親と比較しても、より効率的で満足度の高い育児生活を送れているのではないだろうか(注7)。

以上のように、ママ友の価値は、現代においても決して小さくない。地域の親子同士がつながりを持ち、近所で気に掛けてくれる大人が増えることは、子どもたちの安心・安全にもつながる。確かに「ママ友」は気を遣う場合も多く、時には子どもの成長とともに交流が希薄になることもある特殊な関係である。それでも、ママ友を必要だと考える親たちはそれを認識した上で、一時的にでも協力し合う関係としてママ友を肯定的に捉えている(注8)。

ママ友は不要だと考える親も多いが、「友」という言葉に縛られ過ぎず、大変な子育てを共に乗り越えていく互助関係だと捉えなおしてみるのはどうだろうか。

【注釈】

  1. 全国の0~6歳の子どもを持つ母親631名から「子どもの関係で知り合って付き合っているママ友」の人数を実数で回答を得た(2003年9月)。※2022年9月に実施した今回のアンケートは、小学校の子どもを持つ母親も対象にしているため対象者の属性には若干の差がある。
  2. 地域子育て支援拠点事業実施状況によると、令和3年度の地域子育て支援拠点事業の実施か所数は7,856あり、その数は増え続けている。地域子育て支援拠点事業の資料によればその基本事業として「①子育て親子の交流の場の提供と交流の促進②子育て等に関する相談、援助の実施③地域の子育て関連情報の提供④子育て及び子育て支援に関する講習等の実施」の4点を位置付けて、「子育て親子の交流の場の提供と交流の促進」が1点目に挙げられている。
  3. 本レポートでは親同士の友人関係を性別ごとに表す「ママ友」「パパ友」について、より一般的な言葉として浸透している「ママ友」と記述し、文中では「パパ友」を省略する。
  4. 「多くの施設が人数を制限するために事前の予約制にしたり、大人数が集まるイベントを中止するなど、例年どおりの子育て支援を実施できていない状況」で2020年4月~9月の子育て支援施設の利用者数は前年の同時期と比べて3分の1以下に留まっていたという/NHK「『孤立化が心配』子育て施設の利用 去年の3分の1以下に」2020年
  5. 木田千晶,鈴木裕子「母親間の人間関係が構築されるプロセス―専業主婦における「ママ友」に対する捉え方を通して―」2020年,子育て研究第10巻
  6. 本調査の回答者とは別に、「ママ友・パパ友」が必要だと考える、乳児~小学生の子を持つ親(有職:フルタイム/時短、休職含む無職)5名に話を聞いた。
  7. もちろん、子どもの年齢や親の就業状況によっても、その価値やニーズは異なるだろう。特に、今回の調査結果からも「未就園児の子を持つ親」はより「ママ友は必要」だと回答する割合が高い傾向が見られた。乳幼児を抱える親たちは育児不安に陥る可能性もあり、より一緒に出掛ける・悩みを共有しあうといった育児サポートをママ友に求めている可能性がある。
  8. インタビューの中では、必ずしもすべてのママ友が一時的な関係というわけではなく、価値観や考え方が合致するなどして、日々の精神的な支えにもなるような「自分の友達」へと発展する事例も聞かれたし、一方では価値観の相違が大きく関係が早期に切れた事例もあった。

【参考文献】

  • 厚生労働省HP「地域子育て支援拠点事業について」
  • 内閣府「令和4年版 子供・若者白書 第3章」2022年
  • NHK「『孤立化が心配』子育て施設の利用 去年の3分の1以下に」2020年
  • 中尾 達馬, 原田 有紀「育児中の母親だけが経験する特異的な人間関係(ママ友関係)の諸特徴 : ママ友の数,子どもの数に焦点を当て」2010年,日本教育心理学会総会発表論文集
  • 宮木由貴子「『ママ友』の友人関係と通信メディアの役割-ケータイ・メール・インターネットが展開する新しい関係-」2004年,ライフデザインレポート
  • 木田千晶,鈴木裕子「母親間の人間関係が構築されるプロセス―専業主婦における「ママ友」に対する捉え方を通して―」2020年,子育て研究 第10巻
  • 實川慎子,砂上史子「就労する母親の「ママ友」関係の形成と展開―専業主婦との比較による友人ネットワークの分析―」2012年,千葉大学教育学部研究紀要 第60巻
  • 工藤遥「都市の子育てをめぐるサポートシステム」2013年, 現代社会学研究
  • 社会保障・人口問題研究所「 <結婚と出産に関する全国調査> 第 16 回出生動向基本調査」2021年
  • 藤井恭子「成人期女性の友人関係におけるヤマアラシ・ジレンマの特徴」2016年,教育学論究 第8号
  • 戸江哲理「和みを紡ぐ 子育てひろばの会話分析」2018年

福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 住まい(特にシェアハウス)、子育てネットワーク、居場所、ワーキングマザーの雇用

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