コロナ禍での運動不足問題を振り返る

~感染拡大初期からの生活者調査にみる変化と現状~

水野 映子

目次

1.運動不足・体力低下・“コロナ太り”を経て

新型コロナウイルス(以下、「新型コロナ」)の感染拡大から2年数か月が過ぎた。当研究所では、感染拡大直後の2020年4月から2022年9月まで、5回にわたり「新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査(略称 新型コロナ生活調査)」(注1)などを実施する中で、運動習慣や運動に対する意識についても着目してきた。

感染拡大数か月後(2020年4・5月)に実施した第1・2回調査では、家の外での運動機会が減り、運動不足や体力低下・体重増加、いわゆる“コロナ太り”を感じている人が多いことなどが明らかになった(注2)。また、昨年実施した調査においても、運動不足は解消される傾向にないことなどが示された(注3)。

本稿では、昨年までの調査、および直近(2022年9月)に実施した「第5回 新型コロナ生活調査」の結果をふまえ、コロナ禍における運動習慣や運動不足の状況などの変化を振り返りながら、今後の運動習慣に関する課題を探る。

2.運動不足は解消傾向にあるが…

まずは、運動不足に関する意識の現状と感染拡大下における変化を図表1に示す。

「運動不足だと感じている」という質問に『あてはまる』(「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」)と答えた人の割合は、1年前(2021年9月)の第4回調査時の79.1%に比べると減り、71.5%となった。また、「もっと運動する必要があると感じている」に『あてはまる』と答えた人の割合も、前回の81.9%から73.7%に下がった。

ただし、2020年5月の調査時と比べると、「運動不足だと感じている」のトップボックス(「あてはまる」と答えた人)の割合は高い。つまり、感染拡大後から間もなく、外出自粛が厳しく求められていた頃より、現在のほうが運動不足を強く感じている人は多い。

また、「運動不足を解消する方法がわからない」と答えた人の割合も、1年前の51.3%より6ポイントほど下がり、45.1%となった。ただし、2020年5月の調査時点よりは若干高い。

1年前に比べれば運動不足は解消され、運動不足の解消方法がわからないという人は減ったものの、依然として少なくないといえる。

図表1
図表1

3.コロナ禍で新しく運動を始めた人はわずか

では、新型コロナ感染拡大下において、運動習慣はどう変化したのだろうか。

図表2に示す通り、感染拡大後に中断した運動・スポーツがあると答えた人は21.3%であった。また、それらの人のうち、再開した運動・スポーツがあると答えた人は53.0%であった。すなわち、残りの約半数(47.0%)の人は、中断したまま再開していない。また、新しく始めた運動・スポーツがあると答えた人は、全体の10.1%に過ぎなかった。

図表2
図表2

一方、「運動習慣を見直した」かどうかについて図表3でみると、見直した人(「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」と答えた人)は、33.0%であり、残りの67.0%の人は見直していない。

コロナ禍によって、運動不足の問題が指摘されるようになり、家の中で行う運動なども提唱されたが、感染拡大から2年数か月の間に、運動習慣を見直した人は3分の1程度であり、新しい運動・スポーツを始めた人はさらに少ないことがわかった。

図表3
図表3

4.運動習慣の見直しは運動不足解消に十分結びつかず

次に、コロナ禍における運動習慣の変化は、現在の運動不足感とどのような関係があるのかを分析する。図表4には、図表2・3でみた運動習慣の変化に関する項目別に、「運動不足だと感じている」人(「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」と答えた人)の割合を示す。

感染拡大後に中断した運動・スポーツがある人は、ない人に比べて運動不足だと感じている割合が高い。中でも、中断した後に再開した運動・スポーツがない人は、運動不足だと感じている割合が87.4%と9割近い。ただし、中断した後に再開した運動・スポーツがある人でも83.5%と多数を占めている。

一方、新しく始めた運動・スポーツがある人とない人との差はほとんどない。また、運動習慣を見直した人とそうでない人とを比べると、見直した人のほうが運動不足だと感じている割合はむしろ高い。もともと運動不足だと感じていた人が運動習慣を見直したり、以前やっていた運動を再開したり、あるいは新しい運動を始めたりしたものの、運動不足を解消しきれていないとも考えられる。

図表4
図表4

5.運動不足に関する問題 ~運動の必要性は自覚するも方法がわからず~

では、運動不足だと感じている人は、どのような意識を持っているのだろうか。

図表5をみると、運動不足だと感じているほど、「もっと運動をする必要があると感じている」割合が高い。「運動不足だと感じている」に「あてはまる」と答えた人では92.9%、「どちらかといえばあてはまる」と答えた人では85.9%もの人が、もっと運動をする必要性を感じている。

また、運動不足だと感じているほど、「運動不足を解消する方法がわからない」と答えた人の割合も高い。「運動不足だと感じている」に「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と答えた人の過半数が、「運動不足を解消する方法がわからない」と答えている。

運動不足感がある人は、それを解消するためにもっと運動する必要があるという自覚は持っているが、解消方法がわからないと感じていることがわかる。

図表5
図表5

最後に、運動不足感と健康面の不安との関係を図表6に示す。これをみると、運動不足だと感じている人ほど健康面の不安得点が高い。健康不安に影響を与えるであろう要素はさまざまあるが、運動不足もそのひとつである可能性がある。健康不安を軽減するためにも、運動不足を解消する必要があるといえる。

図表6
図表6

6.これからの運動習慣改善に向けて

新型コロナの感染拡大が始まって間もない頃は、運動・スポーツの活動が中止になったり、外出そのものをしなくなったりしたことによって、体を動かす機会が少なくなった。その結果、体力低下や体重増加を感じる人も増え、“コロナ太り”などの言葉も生まれた。またそれを解消するために、“イエナカ”“巣ごもり”と呼ばれた活動の一環として、家の中でできる運動などの新しい運動スタイルが注目された。

だが、今回の調査の結果を見る限り、コロナ禍で新しい運動を取り入れたのは、結局のところ一部の人だけであった。また、運動習慣の見直しを図った人もいるが、運動不足が解消されたとは言いがたい。

外出制限がなくなり、集団での運動・スポーツの活動や施設利用の制限も緩和されつつある今、コロナ禍での運動不足は以前ほど問題視されなくなったようにも見える。だが、新型コロナ感染拡大は終息しておらず、運動不足になりがちなウィズコロナの生活もまだ続いている。

運動習慣を見直しても運動不足を解消しきれていない人、解消方法が見つからない人、運動を再開できずにいる人などを取り残さないための、情報提供やサポートが今後も期待される。また、生活者の側も、コロナ禍での自身の運動習慣を振り返り、これからのウィズコロナ、そしてアフターコロナに向けて、運動不足解消により効果のある運動習慣のあり方を改めて考える必要があるだろう。

【注釈】

  1. 調査の概要は以下の通り。

図表7
図表7

  1. 以下のリリース・レポート参照。
  1. 以下のリリース・レポート参照。これらは、2021年1月29日〜2月3日に実施した「第11回 ライフデザインに関する調査」の結果も含んでいる。

水野 映子


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