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2022.08.09
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Web3.0
DAO(分散型自立組織)
Web3.0「DAO法」の衝撃
~組織運営の効率化・透明化につながる「日本版DAO法」への期待~
柏村 祐
1.注目されるDAO
DAO(Decentralized Autonomous Organizationの略で、日本語訳は「自律分散型組織」)という言葉を聞く機会が増えている。
DAOは、インターネットにおける革新的なデータ流通構造であるWeb3.0を実現する1つの形態を表現する概念であり、組織の効率的な運営を実現する試みとして創られた。DAOにおける意思決定は、メンバーによる投票で行われる。投票で決定された事項はプログラムにより自動的に実行されるため、人による恣意的な改ざんや不正が発生することはない。また、DAOにおける意思決定や活動は完全に公開されることで可視化される。
2022年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022 について(骨太方針2022)」の中で、「ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備の検討を進める」と政府が明記したことが、DAOが日本で注目される要因の1つとなっている。
筆者は、DAOの概念を組織運営に組み込んでいる海外の暗号資産発行事業体の取組みをレポートしているが(注1)、現時点で日本では、DAOの利点といえる効率的な組織運営を実現するためのブロックチェーンや暗号資産などのテクノロジーは存在するものの、DAOに法的根拠を与える法律の整備は進んでいない。
2022年6月7日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」によれば、Web3.0の推進に向けた環境整備の1つとして、DAOの法的位置づけの整理に取組むことが挙げられている(図表1)。
一方、世界を見渡すと、米国の一部の州で既にDAOを組織管理の一形態として認める法整備が進んでいる。本稿では、アメリカの一部の州で制定されたDAO法について概観し、その仕組みについて考察を行う。
2.米国の州で可決されたDAO法
日本において、DAOの法的根拠となる法令は今のところ存在しないが、米国では、ワイオミング州とテネシー州で既にDAO法が施行されている。2021年7月1日に施行されたワイオミング州のDAO法を確認すると、一般的な会社組織と異なる点として、当該組織運営をメンバーによる人的管理型DAOにするか、事前に設定されたプログラムに基づくアルゴリズム管理型DAOにするか選択できることが挙げられる(注2)。
プログラムに基づくアルゴリズム管理型DAOにおいて新たなプロジェクトを開始する場合、プロジェクトの実現に向けた提案方法からDAOメンバーによる投票ルール、投票日程、投票結果に基づく資金の送金プロセスまで、事前にプログラミングされた「決まり事」通りに実行される。
また、DAO組織は、組織の活動や財務状況についてオープンなブロックチェーンを利用できるとされる。ブロックチェーンは誰もが閲覧可能な改ざんできない記録台帳であり、どのような意思決定がなされたのか、どのように資金が利用されているかなどの記録が保持され、それらはリアルタイムで閲覧できるため、組織におけるガバナンスの透明性を確保できる。
ワイオミング州のDAO法が規定する組織定款に記載するべき内容は11項目となっており(図表2)、これらの項目がアルゴリズムにより管理・運営されることにより透明かつ効率的な組織運営が期待される。このDAO法に基づいて設立されたワイオミング州初のDAOはAmerican CryptoFedとされている(注3)。
また、米国におけるDAO法の施行はワイオミング州にとどまらない。米国テネシー州においても、知事が2022年4月20日にDAO法案に署名を行い、DAOに法的地位を与えている。両州は、DAOをLLC(有限責任会社)と同様の位置づけとしている。テネシー州DAO法では、当該組織運営をメンバーによる人的管理型DAOにするか、スマートコントラクトに基づくアルゴリズム管理型DAOにするか選択できる。また、テネシー州のDAO法は、組織規程に記載するべき内容を11項目挙げており、その内容は、図表2に掲載したワイオミング州のDAO法が求める記載内容と類似している(注4)。
3.DAO法の意義
以上みてきたように、米国の一部の州においては、アルゴリズムに基づいた人手を介さない組織運営を可能とするDAO法が既に施行されている。
米国でDAO法が施行されたことにより、有史以来、人が行っていた組織運営に関する業務を「決まり事」として事前にプログラミングしておき、極力人手を介さない組織運営を実現できる仕組みを構築できるようになった。DAO法は、コンピューターアルゴリズムによって組織の活動や財務状況を透明化し、運営を効率化するという取組みを支える法的根拠となるものであり、従来の常識では考えられなかった法律と言えるのではないだろうか。日本におけるDAOの環境整備は検討が始まった段階であるが、既に米国では州法として成立しており、一部の企業がDAOを採用している点は注目に値する。
世界を見渡せば、DAOの概念に基づいた組織運営が実行されている事業体は、暗号資産業界を中心に既に存在しており、これらの事業体において、DAOの概念を実現するアルゴリズムが機能することは証明されている。これらの実績あるアルゴリズムに加えて、米国のようにDAO法による法的根拠が明確になることは、DAOが新たな組織運営の一形態として信任されるための環境整備が進んでいることを意味する。ただし、現時点ではDAOは新しい組織形態であるため、DAOメンバー間での争いについて解決する法的な枠組みがない点には留意する必要があるだろう。
日本においては、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に記載されている「DAOの法的位置付けの整理」を実現するために、米国で既に施行されているDAO法を参考にしつつ、日本の組織に適合するような法制化を進めるべきだ。日本の組織に適合する「日本版DAO法」の法制化を実現することは、組織運営の効率化・透明化につながる組織形態のイノベーションとして期待されるDAOを普及させる第一歩につながるであろう。
【注釈】
-
Web3.0「DAO」の衝撃~Web3.0時代の自律分散型組織の可能性~
「https://www.dlri.co.jp/report/ld/193839.html」 -
ワイオミング州HPより
「https://www.wyoleg.gov/Legislation/2021/SF0038」 -
American CryptoFed HPより
「https://www.americancryptofed.org/」 -
テネシー州HPより
「https://wapp.capitol.tn.gov/apps/BillInfo/Default.aspx?BillNumber=HB2645」
柏村 祐
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。