ウクライナ「NFT博物館」の衝撃

~公式情報とアートが融合する新たなNFT寄付の形~

柏村 祐

目次

1.進化するNFT寄付の形

ロシアによるウクライナ軍事侵攻に伴い、世界中からウクライナへの暗号資産やNFTによる寄付が拡大している。筆者は以前執筆したレポートの中で、暗号資産やNFT (Non-Fungible Token、「代替が不可能なブロックチェーン上で発行されたしるし」を意味する)によるウクライナへの寄付の事例を紹介してきた。

例えば、暗号資産の寄付においては、寄付したい人がわかりやすく、簡単に寄付できるための仕組みを取り入れたプラットフォームが登場している(注1)。また、NFTを活用した寄付においては、寄付したい人が、ウクライナ国旗のNFTを暗号資産で購入することによりウクライナ支援を行える事例が登場している(注2)。

ロシアによるウクライナ軍事侵攻が長引く中で、2022年3月25日にウクライナ政府は、世界からの更なる支援の拡充を求め、暗号資産を寄付に利用できる新たなNFT寄付の仕組みとして、「NFT博物館」を開館している(図表1)(注3)。「NFT博物館」では、ロシアのウクライナへの軍事進攻における出来事をアーティストが描いた103件のデジタル絵画、デジタルアニメーションがNFT作品として公開されており、インターネット上で閲覧できる。作品それぞれには、描かれた出来事の公式情報源も明確に記載されている。

本稿では、このウクライナ「NFT博物館」の世界を確認し、その価値と可能性について考察する。

図表 1 ウクライナ「NFT 博物館」のトップページ
図表 1 ウクライナ「NFT 博物館」のトップページ

2.ウクライナ政府が運営する「NFT博物館」

ウクライナ政府の主導で立ち上げられた「NFT博物館」の主な目的は、実際の惨状を記録し、それを世界に広めるとともに、ウクライナを支援する資金を調達することである。展示されるNFT作品群は、ウクライナ政府またはニュースメディアの情報をもとに作成された芸術的なデジタル絵画、デジタルアニメーションで構成され、永遠にインターネット上に残るものとなっている。また、「NFT博物館」で販売された作品の売り上げは、ウクライナ政府が管理するイーサリアムウォレットに送られ、人道支援に使われる。

この「NFT博物館」について、ウクライナデジタル変革省の副大臣であるアレクサンダー・ボルニャコフは、「私たちの敵は真実を非常に恐れている。なぜなら、真実は常に勝つからだ。ウクライナでのロシアの侵略についての真実を世界中に知らせることは、私たちにとって非常に重要となる」と述べている(注4)。

実際に筆者が「NFT博物館」を確認してみたところ、103のNFT作品を閲覧することができた。

最初のNFT作品のタイトルは、「ウクライナ紛争:ロシアがドンバスでの特別軍事作戦を発表」となっている。2022年2月24日の5時45分の時刻が記載されるこのNFT作品の情報源は、BBC Newsである。BBC News が2022年2月24日の5時45分に放送した「老人が頭に包帯を巻き、祈る姿の画像」が作品に添付されている(注5)。アーティストはこの情報をもとにデジタル絵画を描いており、その内容は、恐ろしいモンスターの様相をした生き物がミサイルにより町を攻撃し、空は赤く染まっている様子とともに、その戦禍の中を、頭を抱えた大人が子供の手を引く姿が描かれている。描かれる恐ろしいモンスターの体には、複数の「Z」の文字が浮かび上がり、モンスターがロシアの比喩となっている。

次に登場するNFT作品は、2022年2月24日5時58分の様子を描くデジタル絵画であり、公式情報源としてウクライナのクレバ外相のツイッターの画面が添付されている(注6)。クレバ外相のツイッター上の発言内容は、「プーチンは、ウクライナへの本格的な侵攻を開始したばかりです。平和だったウクライナの都市は攻撃を受けています。これは侵略戦争です。ウクライナは自分自身を守り、勝ちます。世界はプーチンを止めることができ、そして止めなければなりません。今こそ行動する時です」と記載されており、アーティストは、このクレバ外相の緊迫する発言に対して、早朝のため、まだベッドの中で安心しきった様子で熟睡する子供の姿を描いている。

更に3枚目となるNFT作品では、クレバ外相が2022年2月24日6時58分に発表したツイッターの発表内容の画面が添付されている(注7)。そこには、「世界はすぐに行動しなければなりません。ヨーロッパと世界の未来が危機に瀕しています。行動する内容は以下となります。1.今すぐSWIFTを含むロシアに対する壊滅的な制裁、2.あらゆる形式で、あらゆる手段でロシアを完全に孤立させる、3.ウクライナ用の武器、装備、4.財政援助、5.人道援助」と記載されている。

このクレバ外相の発言をもとにアーティストは、NFT作品の中で、ウクライナへの支援と、ロシアを世界から孤立させることを訴える絵画を描いている。

以上みてきたような公式情報源とアーティストが描いた絵が一体化されたNFT作品は、日付、時刻情報が個々に記載され、ウクライナの戦禍の状況を時系列で確認できる歴史の記録となっている(図表2)。

図表 2 NFT 博物館に並ぶ作品の日付、NFT 数、時刻情報
図表 2 NFT 博物館に並ぶ作品の日付、NFT 数、時刻情報

次に、「NFT博物館」の目的の1つである寄付の状況について確認してみよう。

2022年3月30日に立ち上がった「NFT博物館」の寄付状況について、デジタル変革省の大臣であるミハイロ・フェドロフは、4月1日に公式ツイッター上で、24時間で1,051点のNFT作品が販売され、すでに売上金額は50万ドル以上になったと発表している(注8)。筆者が「NFT博物館」のイーサリアムウォレットアドレスとなる「0xD3228e099E6596988Ae0b73EAa62591c875e5693」の残高を確認したところ、2022年4月10日には248.4イーサリアム(約80万ドル)に達していた(図表3)。

図表 3 「NFT 博物館」イーサリアムウォレットアドレスの残高の推移
図表 3 「NFT 博物館」イーサリアムウォレットアドレスの残高の推移

3.「NFT博物館」の可能性

以上みてきたような「NFT博物館」がもたらす価値とは何だろうか。

筆者は、それが「公式情報とアートが融合する新たなNFT寄付」にあると考える。今回公開されているNFT作品は、公式情報に基づいてアーティストが描いたデジタル絵画である。それらの作品を閲覧した人は、添付されている公式情報の内容を読むことにより、アーティストがどのような思いで制作したのかを想像したうえで、作品を購入し寄付を行うことができる。

また、今回のNFT作品は、NFT市場において売却したい人から購入することも可能である。購入代金の10%がウクライナ政府に寄付されるデジタル契約が結ばれており、一過性に終わらない持続的な寄付につながる支援と言えるだろう。

「NFT博物館」は、ウクライナで困っている人に救いの手を差し伸べることができる新たな寄付の形を提示しており、それは人類の共感を巻き込む寄付プラットフォームとして、今後さらにその活用が進むのではないだろうか。

また、今回ウクライナ政府が世界で始めて展開した「NFT博物館」は、従来では考えられなかった「デジタル空間に永遠に刻まれる公式情報とアートの融合」という世界を実現している。世界で発生する出来事について時系列で分かりやすくその思いを伝えられる「NFT博物館」の仕組みを活用していくことは、その時々の出来事やかかわった人たちの思いを将来世代に伝える有効な手段の1つになるのではないだろうか。


【注釈】

1)ウクライナ「暗号資産72億円寄付」の衝撃~多額の寄付を集めるウクライナ暗号資産寄付プラットフォームの秘密~「https://www.dlri.co.jp/report/ld/184930.html

2)ウクライナ「NFT寄付」の衝撃~72時間で暗号資産6.7億円分を集めた新しい寄付の形~「https://www.dlri.co.jp/report/ld/183948.html

3)ウクライナデジタル変革省HPより「https://thedigital.gov.ua/news/mintsifra-ta-blokcheyn-spilnota-zapustili-nft-muzey-viyni-putinskoi-rosii-proti-ukraini

4)ウクライナデジタル変革省HPより「https://thedigital.gov.ua/news/mintsifra-ta-blokcheyn-spilnota-zapustili-nft-muzey-viyni-putinskoi-rosii-proti-ukraini

5)Meta History Museum of WarHPより「https://metahistory.gallery/img/original/1.gif

6)Meta History Museum of WarHPより「https://metahistory.gallery/img/original/2.jpg

7)Meta History Museum of WarHPより「https://metahistory.gallery/img/original/3.png

8)twitterHPより「https://twitter.com/FedorovMykhailo/status/1509597298820534279

【暗号資産による寄付について】
在日ウクライナ大使館の公式ツイッター(2022年3月7日午後5:54)において※、「最近は当館を装って、ビットコインなどの暗号通貨を含めて寄付を呼び掛ける詐欺のメールが現れたと承知しています。詐欺にご注意をお願いします!」との注意喚起がなされています。
暗号資産による寄付を行う際には、信用できる送金先か、ウォレットアドレスが正しいものであるかを確認する等、十分ご注意ください。
※「https://twitter.com/UKRinJPN/status/1500756790551584768?cxt=HHwWgICpsbCW4dMpAA

柏村 祐

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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