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ウクライナ「NFT寄付」の衝撃

~72時間で暗号資産6.7億円分を集めた新しい寄付の形~

柏村 祐

目次

1.ウクライナ支援に活用されるNFT

最近、NFTという言葉を聞く機会が増えている。

NFTとは、Non-Fungible Tokenの略称であり、日本語で「代替が不可能なブロックチェーン上で発行されたしるし」を意味する。最近、その価値の騰落に話題が集中しているが、一方で、ロシアに侵攻されたウクライナの国民を支援する方策の1つとして、NFTによる寄付が行われている。

本稿では、ウクライナへのNFTによる寄付の現状を確認しながら、その価値について考察する。

2.ウクライナへのNFT寄付の事例

様々なNFTが流通する中、NFTを活用したウクライナ支援は、「NFT購入型寄付」と「NFT送付型寄付」に大別される(図表1)。

図表 1 NFT 寄付の概要
図表 1 NFT 寄付の概要

「NFT購入型寄付」の具体例として、「UkraineDAO」が展開するウクライナ国旗を活用したNFTによる寄付があげられる。「UkraineDAO」とは、ロシアのウクライナ侵攻に苦しむ人々を支援するために、コミュニティの力を利用して資金調達を実現することを目的に創られた組織である。この組織は、ウクライナ政府、複数の人道支援団体、ウクライナ緊急対応基金と並び、信頼できる寄付先として公開されている(注1)。寄付の方法としてオークションが用いられており、「UkraineDAO」が出品したウクライナ国旗のNFTをオークションで購入すると、ウクライナへの寄付となる仕組みだ。2022年2月26日から72時間かけて実施されたオークションでは(注2)、3,271人がウクライナ国旗のNFTを暗号資産イーサリアムで購入し、総額約2,258ETH(約6.7億円)の寄付金を集める結果となった(図表2)。さらにウクライナ国旗のNFTを購入した人に対する特典として、「UkraineDAO」はLOVEと呼ばれる暗号資産を寄付額に比例して配布している。ただし、この暗号資産LOVEは、「寄付者の貢献を記念する象徴であり、実用性があるものではない」とされている(注3)。

図表 2 ウクライナ国旗の NFT 寄付のオークション結果
図表 2 ウクライナ国旗の NFT 寄付のオークション結果

次にウクライナへの寄付に採用されている「NFT送付型寄付」を見てみよう。「NFT送付型寄付」は、自分が保有するNFTを指定された暗号資産ウォレットに送付することによる寄付である。NFTを受け付けるウクライナの暗号資産ウォレットは、2022年2月27日にウクライナ政府公式ツイッターに投稿されており、誰もが、その暗号資産ウォレットアドレス「0x165CD37b4C644C2921454429E7F9358d18A45e14」を確認できる(注4)。

2022年3月上旬時点でその暗号資産ウォレットアドレスに送付されている約1,000個のNFTを確認したところ、その価値が数ドルから数百ドルのものまで、多種多様なNFTがウクライナ政府の暗号資産ウォレットアドレス「0x165CD37b4C644C2921454429E7F9358d18A45e14」に送付されていた。その履歴は分散型台帳で管理されているため、誰もがリアルタイムで確認できる(図表3)。

図表 3 ウクライナ政府の暗号資産ウォレットへの NFT 送付履歴
図表 3 ウクライナ政府の暗号資産ウォレットへの NFT 送付履歴

3.NFT購入型寄付の可能性

以上みてきたように、従来の常識では考えられなかったこれらの新たな寄付の形には、どのような価値があるだろうか。その価値の中核は、「NFT購入型寄付」にあると筆者は考える。「購入型寄付」の魅力は、寄付を募る主体が象徴となるNFTを発行し、それに共感する寄付者が、NFTを購入することにより寄付が成立する。そこには、NFT自体に魅力が必要であり、寄付する人から共感されなければ成立しない世界観が存在する。

筆者は、この「NFT購入型寄付」は、「地球規模で行われる有事の際の迅速な寄付」を提供していると考える。「UkraineDAO」で実施された「NFT購入型寄付」におけるNFTは、国家の象徴であるウクライナ国旗がその役割を果たした。それに対する共感が集まった結果として、72時間という短時間で3,271人から、約2,258ETH(約6.7億円)という巨額の寄付が集まった。これは、寄付者・寄付主催者双方が共感し、国境を越えて展開された「地球規模で行われる有事の際の迅速な寄付」と言えるであろう。「NFT購入型寄付」が創り出した「地球規模で行われる有事の際の迅速な寄付」は、将来起こりうる有事に際しても、今回と同様に財政支援の1つとしてその機能を発揮するのではないだろうか。

現時点では、暗号資産ウォレットの用意や、法定通貨から暗号資産への交換、寄付のためのNFTの購入など、一般にはまだ馴染みのない手順が多く、広く一般に普及するまでには至っていないが、今後、これらをわかりやすくシンプルにしたNFT寄付が登場することが予想され、NFT発行事業体の信用力や適正な寄付手順を確保するための法整備も求められることになるだろう。


【暗号資産による寄付について】
在日ウクライナ大使館の公式ツイッター(2022年3月7日午後5:54)において※、「最近は当館を装って、ビットコインなどの暗号通貨を含めて寄付を呼び掛ける詐欺のメールが現れたと承知しています。詐欺にご注意をお願いします!」との注意喚起がなされています。
暗号資産による寄付を行う際には、信用できる送金先か、ウォレットアドレスが正しいものであるかを確認する等、十分ご注意ください。
※「https://twitter.com/UKRinJPN/status/1500756790551584768?cxt=HHwWgICpsbCW4dMpAA

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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