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AIが変える御礼メールの衝撃

~効率化と関係構築を両立するAI活用のインパクト~

柏村 祐

目次

1.御礼メールの作成は難しい

御礼メールを作成するのは、なかなか大変な作業である。適切な言葉選びや丁寧な表現、相手への感謝の気持ちを込めることなど、気を配らなければならない点が多岐にわたる。特に、ビジネスシーンにおける御礼メールは、単なる礼儀や社交辞令ではなく、相手との信頼関係を築き、今後のビジネスチャンスにつなげるための重要なコミュニケーションツールでもある。

効果的に御礼を伝えるには、定型文ではないオリジナルな文章で、ちょっとした時間の差で印象が変わるため、できるだけ早く、明日より今日、午後より午前中に送った方がよい。また、場面や相手に合わせて感謝の気持ちを的確に伝えることも求められる。一見簡単そうな作業に思われるが、意外と時間がかかる。多忙な業務のなかで、一通一通の御礼メールに時間をかけて丁寧に作成するのは労力を要する作業である。

こうした御礼メール作成の難しさには多くのビジネスパーソンが直面している。そこで、自分の手間を最小限に抑えつつ、大きな成果を上げるために、AIを活用することが注目されている。

2.御礼メールAIの実際の能力

それでは、実際に御礼メールAIを活用したケーススタディを通して、その能力を具体的にみていこう。筆者自身が経験した事例である、営業で訪問した会社への御礼、会食の御礼、新規契約の御礼について、AIによるメール作成を紹介する。

まず、営業で訪問した会社への御礼メールの作成について、AIに「営業で訪問した会社への御礼メールを作成ください。訪問した日付は4月12日でした。1時間も時間を作ってくれたこと、提案内容を検討いただけることに感謝した内容としてください。提案した内容はAIに関する講演でした」と入力した。その結果、AIは入力内容を読み取り、4月12日に訪問した営業先の担当者に対するメールを作成した(図表1)。AIが作成した文章にある会社名、部署名、氏名などについては自分で修正し、内容についても調整したい点があれば加筆修正すればよい。AIが作成したメールを見ると、訪問日や提案内容など、入力した情報を的確に捉えたうえで、丁寧な言葉遣いと適切な感謝の表現で文章が構成されている。ビジネスシーンで求められる礼儀やマナーに沿った内容であり、AIの高度な文章生成能力を感じさせる。

図表1 AIによって作成された営業で訪問した会社への御礼メール
図表1 AIによって作成された営業で訪問した会社への御礼メール

つぎに、会食の御礼メールの作成について、AIに「ある会社との会食の御礼メールを作成ください。会食した日付は4月22日でした。皆様と時間をとり、リラックスした雰囲気の中、御社における課題や現場の生の声をお聞きすることができたこと、食事も大変美味しかったことに感謝した内容としてください」と入力した。その結果、AIは入力内容を読み取り4月22日に会食した会社の担当者に対するメールを作成した(図表2)。このメールでは、会食の場で交わされた具体的な内容に言及しつつ、和やかな雰囲気と美味しい食事への感謝が丁寧に綴られている。一般的な御礼メールの定型文を超えて、その場の状況を反映した自然な文章になっている点が特徴的だ。AIならではの優れた状況把握力と表現力が発揮された例といえるだろう。

図表2 AIによって作成された会食の御礼メール
図表2 AIによって作成された会食の御礼メール

さらに、新規契約の御礼について、AIに「ある会社との新規契約の御礼メールを作成ください。新規契約が決定した日付は4月8日でした。提案内容を検討し、契約いただけること、頂いたこの機会に対して最大限の成果を出すことの決意を込めた内容としてください」と入力した。その結果、AIは、入力内容を読み取り4月8日に新規契約が決定した会社の担当者に対するメールを作成した(図表3)。新規契約の御礼メールにおいては、提案内容を検討し契約いただいたことへの感謝とともに、この機会に全力で成果を出す決意が力強く述べられている。フォーマルな御礼の言葉だけでなく、ビジネスパートナーとしての意欲的な姿勢を印象づける内容となっている。状況に応じた効果的なメッセージ構成は、まさにAIの真骨頂といえよう。

図表3 AIによって作成された生成された新規契約の御礼メール
図表3 AIによって作成された生成された新規契約の御礼メール

今回、営業訪問の御礼、会食の御礼、新規契約の御礼という3つのビジネスシーンを想定し、AIを活用した御礼メールの作成を試みた。その結果、AIは与えられた情報をもとに、それぞれの状況に応じた適切な表現で御礼メールを生成することができた。キーワードや文脈から意図を汲み取り、自然な文章を紡ぎ出す高度な言語生成能力は特筆に値する。

こうしたAIの能力は、先に指摘した御礼メール作成の難しさを大きく軽減するものといえる。多忙を極める日々の業務の中で、一通一通の御礼メールに時間をかけるのは効率がいいとはいえない。その点、AIを活用することで、効率的かつ効果的な御礼メールの作成が可能となる。画一的な定型文ではなく、状況に合わせてパーソナライズされた自然な文章は、真摯な感謝の気持ちを相手に伝える力をもっている。

また、今回の事例から明らかになったのは、AIが単なる効率化のツールにとどまらず、ビジネスコミュニケーションの質を高める可能性を秘めているということだ。営業訪問、会食、新規契約といった場面ごとに最適化された御礼メールを、タイムリーに送ることができる。これにより、相手との信頼関係をさらに深め、次なるビジネスチャンスにつながることを期待できるだろう。

3.御礼メールAIがもたらすビジネスコミュニケーションの変革

御礼メールAIは、従来のメールとは一線を画す多様な言語生成を実現する。膨大なデータから学習した知見を活用し、個々の状況に合わせて最適な表現を選択することで、まるで人間が1つ1つ丁寧に作成したかのような自然なメールを生成できる。こうした高度な能力はAIならではの強みであり、ビジネスコミュニケーションに大きなインパクトをもたらす。

効率化の観点でも、御礼メールAIの導入は大きな意義がある。たとえば営業担当者が訪問先への御礼状をAIで即座に送信できれば、帰社後直ぐ持ち帰った課題に取り組むことができる。新規契約の際も、スピーディーな御礼のメールを送ることで、直ちに次の業務に着手できる。こうした効率化により、限られた時間を有効活用し、生産性を大幅に高めることが可能となる。

ただし、AIの活用にあたっては、いくつかの課題や留意点がある。たとえば、AIには的確に指示を与える必要がある。必要な情報を的確に伝えないと、意図しない内容のメールが生成されてしまうおそれがある。また、プライバシーや個人情報の保護、AIの予期せぬ判断によるトラブルなど、現時点での課題は少なくない。AI活用の恩恵を享受しつつ、これらの課題を念頭において活用する必要がある。

御礼メールAIがもたらす変革は、ビジネスの効率化と高度化の両面で大きな意義がある。効率化により創出された時間を活用し、人間ならではの創造的な業務に注力することで、イノベーションの促進と新たな価値創造につなげることができる。一方、高度化により、これまでにない次元の戦略的コミュニケーションが可能となる。

御礼メールは、ビジネスの未来を切り拓く1つの鍵となるだろう。AIの特性を理解し、戦略的に活用することで、効率化と高度化を同時に実現する。そこに、ビジネスコミュニケーションの大きな変革と飛躍の機会が待っている。ビジネスパーソンの一人ひとりが、AIを味方につけ、新たなコミュニケーションの形を創造していくことが求められている。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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