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キャラクターNFTの衝撃

~あなたの知らない猿や犬が登場する話~

柏村 祐

目次

1.NFTの類型

NFTという言葉を最近聞く機会が増えている。

NFTとは、Non-Fungible Tokenの略称であり、日本語で「代替が不可能なブロックチェーン上で発行されたしるし」を意味する。筆者は以前執筆したNFTのレポートのなかで、数十億円で落札されたデジタル絵画(以下アートNFT)について紹介している(注1)。

2022年2月下旬時点でNFTが活用される分野は、1点もののデジタル絵画や映像といったアートNFTにとどまらず、キャラクターNFT、メタバースNFT、ゲームNFT、ユーティリティNFTなどに拡がっている(図表1)。その1つである「キャラクターNFT」は、プログラムでランダムに生成される100から10,000個ほどの人や動物のキャラクターをモチーフとしたドット絵やアニメ風の画像のNFTコレクションである。本稿では、従来の常識では想定できなかった「キャラクターNFT」に注目し、具体例をみながら、その活用の可能性について論じる。

2.キャラクターNFTの事例

NFTの1類型である「キャラクターNFT」には、どのようなNFTがあるのだろうか。2022年2月下旬時点の「キャラクターNFT」のランキングを確認すると、その数は約100種類に上り、売り上げ順にBored Ape Yacht Club、CryptoPunks、Doodlesとなっている(図表2)。

例えば、「キャラクターNFT」ランキングで1位となっているBored Ape Yacht Clubは、自分自身が類人猿になり、みんなで楽しむことをコンセプトに掲げるコミュニティである。Bored Ape Yacht Clubが発行する類人猿のNFTは約10,000個あり、それは、イーサリアムブロックチェーンに存在するユニークなデジタル収集品となる。それぞれの類人猿は、表情、帽子、服装などを含む170以上の特徴ある表現がプログラムから自動生成される。それは誰もが閲覧可能なイーサリアムブロックチェーン上で管理されるため、インターネットブラウザー上で確認することができる。図表3赤枠に示すようなリンクをクリックすれば、世界に1つしかない類人猿の画像を閲覧できる。

また、類人猿は、仮想空間に存在するヨットクラブのメンバーシップカードも兼ね備えており、メンバーは限定特典へのアクセスが許可される。最初の特典としては、Bored Ape Yacht Clubバスルームへのアクセスがある。類人猿の所有者には、15分間用意されたダイブバーのバスルームの壁に絵を書いたり、走り書きしたり、説明文を書いたりする場が提供される。自分自身の自由な発想で思いつくことを「落書き」し、所有者がそれを鑑賞できるこのバスルームは、コミュニティを盛り上げるための場となっている(注2)。また、Bored Ape Yacht Clubでは、類人猿に仲間が必要だとしてBored Ape Kennel Clubを新たに開設し、類人猿の所有者に犬をモチーフとする「キャラクターNFT」を無料で提供している。

当初類人猿は、0.08イーサリアム(以下「ETH」、1イーサリアム33万円換算で約2.6万円)で購入することができたが、このコレクションが注目されるにつれて価格は上昇している。類人猿は、最初に0.08ETHで売り出されて以来、延べ87,865回の売買が行われており、そのうち2回以上の売買取引が行われた類人猿は60,391回に達している(注3)。類人猿の高額ランキングを確認すると、最も高額で取引された類人猿のID番号は3749であり、最終の売買価格は740ETH(約2.44億円)となっている(図表4)。これは、当初売り出し価格である0.08ETHの9,250倍に達する。

このID番号3749の類人猿は、「レーザーアイズ」と呼ばれる。2021年5月1日に売り出し価格の0.08ETH(約2.6万円)で取引された後、2021年7月17日に105ETH(約3,500万円)、2021年8月12日に400ETH(約1.32億円)、2021年9月7日に740ETH(約2.44億円)で売却が成立していることがわかる(図表5)。類人猿「レーザーアイズ」の外見は、目は「レーザーアイズ」、口は「小さな笑顔」、帽子は「船長の帽子」、服は「黒いTシャツ」、毛皮は「純金」、背景は「黄色」となっており他と較べて華やかで、可愛らしい(注4)。「レーザーアイズ」のように華やかで、可愛らしい外見をもつ類人猿は、人気が高いため、高額かつ何度も取引される。

次に、Bored Ape Yacht Clubに次ぐ売り上げを誇るCryptoPunksを見てみよう。 CryptoPunksは、Bored Ape Yacht Clubと同様に、イーサリアムブロックチェーンに保存されている所有権の証明を持つ10,000個のユニークな収集可能な画像を意味する。CryptoPunks は、プログラムによって生成される24×24ピクセルのドット絵で表現される。ほとんどがモヒカンやドレッドヘアといったパンク・ロック風の男性や女性のドット絵(解像度が低かった時代のレトロゲーム風のイラスト)となるが、いくつか類人猿、ゾンビ、エイリアンなどの珍しいタイプが混ざっている。2017年に登場したCryptoPunksは、もともとイーサリアムウォレットを持っている人であれば誰でも無料で入手できたが、10,000個すべてがすぐに配布されている。現時点でCryptoPunksを入手するには、NFT販売所で購入する必要がある。2017年に登場したCryptoPunksは延べ20,685回の売買が行われており、そのうち2回以上の売買取引が行われたCryptoPunksは18,460回に達している(注5)。最も高額に取引されたCryptoPunksの取引履歴を確認すると、2017年7月11日に8ETH(約264万円)、その後2022/2/13に8,000ETH(約26.4億円)で売却されている(注6)。

3.「キャラクターNFT」の可能性

以上みてきたように、NFTの1類型である「キャラクターNFT」は、人や動物のキャラクターをモチーフとしたドット絵やアニメ風の画像を媒体として、世界中で売買されるマーケットを創り出している。プログラムが自動生成するこれらの「キャラクターNFT」が拡大している背景には、どのような要因が考えられるだろうか。

筆者はその要因として「開かれた透明性のある市場構造」と「強力なコミュニティ」があると考える。「開かれた透明性のある市場構造」とは、本稿で述べた通り、全ての「キャラクターNFT」の取引履歴が公開されており、誰もが公平に情報を取得できる状態となっていることを意味する。公平な情報として、自分が興味をもつ「キャラクターNFT」の取引履歴の推移や、画像の詳細な特徴を確認できる。この「開かれた透明性のある市場構造」は、国家や地域などに左右されないボーダーレスな世界を展開しているため、自分が保有する「キャラクターNFT」が高額に取引される可能性もあるという点で魅力的だ。

また、「キャラクターNFT」が拡大するもう1つの要因として、自分が保有するNFTを応援する「強力なコミュニティ」の存在がある。保有する「キャラクターNFT」をもつ仲間が世界中にいることにより、SNS上でその内容について議論が活発に行われている。それに加えて、「キャラクターNFT」の運営事業者は、コミュニティを活性化するための様々な施策を行っている。例えば、Bored Ape Yacht Clubでは、具体的な施策として「キャラクターNFT」保有者限定のBAYC Merch Storeを開催し、そこでは限定品のTシャツやグッズを購入できる。また、期間限定で会員全員に類人猿のペットとして子犬の「キャラクターNFT」を発行している。

「開かれた透明性のある市場構造」と「強力なコミュニティ」という利点を兼ね備える「キャラクターNFT」には、今後どのような活用方法が考えられるだろうか。例えば、日本の強みであるアニメや漫画に登場するキャラクターを「キャラクターNFT」として活用することが考えられる。現状、漫画のキャラクターをモチーフとした「キャラクターNFT」の販売が一部で始まっているが、実験段階の水準にとどまっている状況であり、今後の本格的な参入が期待される。世界から注目されている日本のアニメや漫画のキャラクターをモチーフにした「キャラクターNFT」を生成し、それを世界に発信することは、大きな価値創造につながるのではないか。

「キャラクターNFT」は、その特徴である「開かれた透明性のある市場構造」と「強力なコミュニティ」を通じて、世界中の人々から共感される可能性があり、日本のコンテンツ産業が、今後世界を相手にビジネスとして展開できる可能性を秘めた仕組みと言える。加えて、誰もがクリエイターとなれる「キャラクターNFT」の仕組みを利用すれば、個人が創り出す「価値」を世界に発信することもできるだろう。「キャラクターNFT」の仕組みを活用し、魅力のあるコンテンツを世界へ向け発信していくことは、日本が生み出す魅力のあるアニメやキャラクターを活用できる新たなビジネス領域であり、それは従来の常識では想定できなかった新たな「価値の創出」に繋がるのではないだろうか。


柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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