暗号資産「ゲーム仮想通貨」の衝撃

~あなたの知らないゲームの世界でやりとりされる暗号資産の話~

柏村 祐

目次

1.利用用途に応じて創られる暗号資産

暗号資産はインターネット上でやりとりできる通貨であり、筆者はこれまで様々な特徴を持つ暗号資産についてレポートしてきた。その中には、顧客の利用用途に応じた機能をもつ暗号資産が存在する。例えば「取引所仮想通貨」は、特定の暗号資産取引所を利用する顧客に取引所自らが発行した暗号資産であり、取引所内限定で利用できる決済手段である(注1)。また「ステーブルコイン」は、法定通貨との交換比率を固定したり、供給量を調整することによって、法定通貨と価値が連動するような仕組みをもつ(注2)。

このように様々な用途別の暗号資産が登場する中、「ゲーム仮想通貨」が注目されている。ゲーム仮想通貨は、インターネット上で展開されるゲームの世界において、その報酬として得られる暗号資産である。本稿では、このゲーム仮想通貨について解説する。

2.なぜ「ゲーム仮想通貨」は注目されるのか

一般的なゲームは、単なる遊びでありゲームをしても報酬はもらえないが、ゲームファイ(ゲームとファイナンスを組み合わせた造語)の登場によりゲーム仮想通貨を貰える仕組みが拡大している。ゲームファイとは「プレイすることでお金が稼げるゲーム」を意味する。実際にゲーム仮想通貨にはどのようなものがあるのか確認すると、2022年1月上旬時点でゲーム仮想通貨は300種類を超えており、時価総額100位以内にランキングされているものとして6つ存在している(図表1)。

図表
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そこで、時価総額35位に位置するAxie Infinity(以下AXS)というゲーム仮想通貨を得るために、どのような手順が必要になるのかを実際に試してみた。ゲームファイとして有名なAXSではゲームを始めるためには、まずNFTモンスター3体を購入する必要がある。購入するためには、ゲームアカウントの取得とモンスター購入のためのRonin walletと呼ばれるゲーム仮想通貨のお財布を準備する。NFTモンスター購入には世界最大級の暗号資産であるイーサリアムが必要となる。AXSの楽しみ方は、「Adventure(対コンピューター戦」)」、「ArenaBattle(対人戦)」、「Breeding(モンスターをかけあわせることによるモンスター繁殖)」に分けられる(図表2)。

図表
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「Adventure(対コンピューター戦」)」で勝利すると、Smooth Love Potion(以下SLP)という暗号資産を報酬として得ることが出来る。SLPは仮想通貨取引所で他の暗号資産や法定通貨と交換が可能だ。また、「ArenaBattle(対人戦)」で勝利すれば、AXSという暗号資産を報酬として得ることができる。AXSもまた仮想通貨取引所で交換可能な価値を有する。AXSは2020年12月時点で数十円だったが、2021年7月には5,000円を突破し、その価値は大きく増加している(図表3)。また、「Breeding(モンスターをかけあわせることによるモンスター繁殖)」は、2体のモンスターをかけあわせることにより新たなモンスターを繁殖できる。繁殖したモンスターは取引所で販売することができ、売却できれば暗号資産を得ることができる。

図表
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このようにゲームファイAXSは、インターネットが繋がれば世界のどこからでも参加でき、対コンピューター戦、対人戦、モンスター繁殖という3種類のプレイを通じて、ゲーム運営者が発行する暗号資産を報酬として得られる仕組みを導入し、コミュニティの活性化につなげている。ゲーム運営者が発行する暗号資産は、世界の取引所で売買できる流動性が確保されているため、報酬を目的にゲームファイに参加する人は増加している。実際、2021年1月時点で1日当たり1万6千人だった参加者は、2021年8月には同150万人と急増しており、今後の動向が注目される(注3)。

次に、時価総額37位に位置するThe Sandbox(以下SAND)について内容を確認してみよう。ゲーム仮想通貨であるSANDを獲得するためには、SANDが提供するメタバース(以下「仮想空間」)に存在する「土地」を購入する必要がある。仮想空間に存在する「土地」は、NFTとして流通し、運営事業体が上限として設定している166,464箇所が利用可能となっており、世界最大手のNFTマーケットプレイスであるOpenSeaで購入することができる。NFTは、Non-Fungible Tokenの略称であり、対象となるデータがこの世に1つしか存在しないことを証明する「本物のしるし」を意味する(注4)。仮想空間内で購入した「土地」を売買したり、貸すことにより「ゲーム仮想通貨」SANDを得ることができる。また、「土地」だけではなく、アイテムやキャラクターを販売することにより収益を得ることができ、現実空間と同じような経済活動をSANDが提供する仮想空間で体験できる。仮想空間における経済活動のお金として、ゲーム仮想通貨SANDの価格は、その需要の拡大に伴い高騰している。SANDは2020年8月時点で5.4円だったが、2021年11月には約1,000円となり、その価値は大きく増加している(図表4)。

図表
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3.ゲーム仮想通貨が創り出す新しいマーケット

以上みてきたようにゲーム仮想通貨は、単なる遊びであったゲームを「稼げる」世界へと進化させている。実際にAXSやSANDなどのゲーム仮想通貨の報酬を生活の糧にする人も出てきている。筆者の知り合いの海外の人は、ゲームファイを暗号資産の報酬を得る「仕事」としている。平均年収が低い国や働き口がない人にとっては、ゲームファイから得られるゲーム仮想通貨の報酬は、生活の糧として成立する。

インターネットにより、国境を越えてつながる仮想空間は拡大を続けている。娯楽の1つとして認識されてきたゲームだが、そこから仮想通貨を報酬として得られることを可能としたゲーム仮想通貨は、従来ゲームに興味がなかったユーザーの取り込みにも成功している。

現時点では、暗号資産ウォレットの用意や、モンスター購入のためのイーサリアムの購入、他の暗号資産や法定通貨への交換など、一般にはまだ馴染みのない手順が多く、広く一般に普及するまでには至っていないが、今後、これらをわかりやすくシンプルにしたゲーム仮想通貨が登場することが予想される。一方で、ゲーム仮想通貨は法定通貨と交換が可能な暗号資産であるため、今後、発行事業体の信用力や適正な課税を確保するための法整備など対応が求められるだろう。

ゲーム仮想通貨は、ゲームがもつ娯楽性と仮想通貨を報酬として支払うというインセンティブを巧みに実装した最先端テクノロジーであり、今後もマーケットの拡大が見込めるゲーム市場を一変させる可能性を秘めた新しい価値といえる。

【注釈】

1) 暗号資産「取引所仮想通貨」の衝撃~なぜ「暗号資産取引所」は自ら暗号資産を発行するのか~

https://www.dlri.co.jp/report/ld/175991.html

2) 暗号資産「ステーブルコイン」の衝撃~なぜ法定通貨に価値が連動する暗号資産が登場したのか~

https://www.dlri.co.jp/report/ld/175213.html

3)ベトナムAxie InfinityHPより

https://axie.substack.com/

4) 「NFTの衝撃~75億円で落札されたデジタル絵画の謎~」

https://www.dlri.co.jp/report/ld/154477.html

柏村 祐

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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