暮らしの視点(17):親視点でみた子の離家

~「エンプティ・ネスト」という生活への変化~

北村 安樹子

目次

「離家(leaving home)」とは「子が親元を離れ別世帯に暮らすようになること」(注1)であり、そのきっかけには入学や進学、就職や転勤、結婚などが多いとされてきた。国立社会保障・人口問題研究所がこのほど公表した「第8回世帯動態調査」に関する結果の概要資料には、親の視点からとらえた子の離家や、その後の再同居についての集計結果が含まれている。

本稿では、この資料から親が「子の離家」というライフイベントを経験する時期についてのデータを紹介し、親世代の「子離れ」をめぐる意識について考えてみたい。

1.50代で増えるエンプティ・ネスト経験

先の資料では、子がすべて離家し、親世帯が夫婦のみ、または単独になった「全子別居」の状態を「エンプティ・ネスト(「空の巣」の意、筆者注記)」として、40歳以上の男女における、子の離家のプロセスに関する集計結果を公表している。この結果をみると、エンプティ・ネストの割合は年齢とともに上昇し、70代前半で最大の55.7%に達する(図表1)。また、70代後半以降では、配偶者との死別や加齢にともなう介護・介助の必要性などを背景に子との同居が再び増えて、85歳以上では少なくとも1人の子と同居する割合が55.0%に達している。

この集計で、過去5年未満の間に最後の子が別居した人の割合をみると、55~59歳と60~64歳で15%前後と、他の年齢層に比べ高い。母親の出産年齢や子ども数等による違いもあると思われるが、この集計結果から親の視点で子の離家のプロセスをとらえた場合、中高年世代がエンプティ・ネストを経験する時期は、現状では50~60代に多いと考えられる。

図表 1 40 代以上の男女における子の離家段階(年齢別)
図表 1 40 代以上の男女における子の離家段階(年齢別)

2.「エンプティ・ネスト」と親の子離れ

従来、親にとって子の巣立ちは、ミドル期の女性を中心に「空の巣症候群(エンプティ・ネスト・シンドローム)」と呼ばれる心の危機に結びつくケースもあるといわれてきた。実際、当研究所が今年初めにおこなった「第11回 ライフデザインに関する調査」(注2)によると、「子離れしていないと感じることが多い」という設問に、50代男性の35.3%、50代女性の53.7%があてはまる(「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の合計割合)と答えている。このなかにも、先の「空の巣症候群」のように、子の離家や就職、結婚といったライフイベント等をきっかけに、母親の子どもへの過度な依存が問題化してしまうケースが含まれる可能性はあるだろう。

一方で、このような意識は、子どもがいる50代男性の3人に1人、50代女性では半数を超える人が感じているほど身近な感情とみることもできる。また、従来、子どもが成人したり、親元を離れて以降も親密なコミュニケーションやサポートがおこなわれるのは母―娘間が中心的であるとされてきたが、調査結果はこのような意識をもつ父親も少なからずいることを示している。時代とともに父親が子育てに直接かかわる機会が増えていること、子が成長したり独立して以降も、インターネットやスマホを介したコミュニケーションがおこなわれたり、経済面や生活面のサポートが続くケースがあることも、これらの意識に影響しているのかもしれない。

3.コロナ禍と「エンプティ・ネスト」

新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以降の生活では、県外など遠隔地との往来に自粛が求められる事態が続いてきた。それらの日々は、親元を離れて新たな環境での生活を始めた子や、子の成長と穏やかな日々を願って送り出した親の双方に様々な思いをもたらしたと考えられる。

それぞれの新たな暮らしのなかで、今回のような不測の事態にも気軽に会って、直接手助けをおこなえる距離に暮らすことの重要性をあらためて感じた人もいた一方、子離れの必要性に気づいた人や、互いの自立した生活をめぐる程よい距離感を得て、仕事を含む多様な活動への新たな取り組みを始めた人もいるのではないだろうか。

【注釈】
1)鈴木透「世帯の形成と拡大」国立社会保障・人口問題研究所「第7回世帯動態調査 現代日本の世帯変動」2016年3月25日。
2)調査時期は2021年1月29日~2月3日、調査対象は全国18~79歳の男女個人。有効回収数は19,668人。調査方法はインターネット調査。本稿では18~69歳のデータを使用。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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