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2026.01.21
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「こども誰でも通園制度」とは?課題と展望(1)
~共同養育の意識を社会全体で育む契機に~
小林 菜
- 目次
1.全ての子どもの育ちと子育て家庭を支援する「こども誰でも通園制度」の創設
2026年4月から「こども誰でも通園制度」が本格的に実施される予定である。「こども誰でも通園制度」とは、親の就労要件を問わず0歳6か月から満3歳未満の未就園児が月一定時間、保育所等の施設を利用できる新たな給付制度である。
そこで2026年4月からの本格実施へ向けて、全2回のレポートにわたり、現時点で公表されている資料を基に「こども誰でも通園制度」の概要を整理し、その課題と展望について考察する。
第1回目の本稿では、制度を利用する保護者やこどもの視点から本制度の意義や課題について整理し、次稿では制度の基盤となる保育者の視点から本制度の課題等について検討する(注1)。
2.こども誰でも通園制度とは
主にこども家庭庁が公表している「こども誰でも通園制度の実施に関する手引き」(以下「手引き」)をもとに、現時点での制度の概要をまとめる。
手引きによれば、「こども誰でも通園制度」は、0歳6か月から満3歳未満で、保育所等に通っていないこどもが対象となる。利用にあたっては居住する市町村が認定を行い、月一定時間(2025年度は10時間)までの利用可能枠のなかで、就労要件を問わず保育所等に通園することができる。利用者が施設に支払う利用料は、2025年度は1時間あたり300円を標準としつつ、施設が任意に設定してもよいことになっている(注2)。
本制度が実施される主な場所は、市町村が本制度の実施について認可を行った、保育所・認定こども園・小規模保育事業所・家庭的保育事業所・幼稚園・地域子育て支援拠点事業所・企業主導型保育事業所・認可外保育施設・児童発達支援センター等が想定されている。
施設の利用方法には、特定の事業所を定期的に利用する「定期利用」と、利用する事業所・月・曜日や時間を固定しない「柔軟利用」の2つのパターンがあり、どの利用パターンが可能かは各自治体と事業者の判断によって異なる。
3.こども誰でも通園制度の背景と目的
2023年12月22日に閣議決定された「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」では、乳幼児期は生涯にわたるウェルビーング(身体的・精神的・社会的に幸せな状態)の基盤となる重要な時期であることが明確に宣言された。一方で、少子化の進行等の社会的な変化を背景として、こども同士で育ちあう機会や、保護者以外のおとなと関わる機会、様々な社会文化や自然に触れる機会などが、家庭の環境によって左右されている現状があるとの懸念が示されている。保育所等や子育て支援、地域社会等とつながることによって、全てのこどもと子育て家庭が格差なく、その育ちをより一層充実させる機会を保障されることが必要だという。
「こども誰でも通園制度」もこうした考え方を背景として(注3)、親の就労の有無などにかかわらず「全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備する」ことをその目的として創設されている。
特に「こども誰でも通園制度」が対象とするような0~2歳の約6割は未就園児となっているが、この年齢は児童虐待による死亡事例が多い年齢でもある(注4)。「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」では、乳幼児期は保護者・養育者にとっても子育ての最初期であり、特に支援が必要であることが強調されている。働き方やライフスタイルにかかわらず、このような時期の保護者を支え、孤立感・不安感の解消や育児負担の軽減などを図ることによって、全てのこどもの良質な成育環境を支援することも企図されている。
なお、親の就労の有無にかかわらず一時的に保育所等を利用できる仕組みとしては、既に「一時預かり事業」と呼ばれる仕組みがある。この既存の「一時預かり事業」と「こども誰でも通園制度」の主な相違点は、図表1の通りであり、主に目的や権利性に違いがあるとされている。

4.こども誰でも通園制度の試行的事業に対する現時点での評価
2026年4月からの「こども誰でも通園制度」の本格実施へ向けて、2024年度には試行的事業が全国100自治体以上において実施された(注5)。保育所等に通所していない0歳6か月から満3歳未満の未就園児を対象に、こども1人あたり月10時間を上限として保育所等を利用できる形での試行的事業である(注6)。
そして同じ2024年度中に、試行的事業に従事する保育者や利用する保護者等に対し、こども家庭庁がアンケート調査を行っている(注7)。これは、試行的事業の実施状況及び利用状況について把握し、本格実施に向けた基礎資料とすることを目的として実施されたものである。同調査結果をもとに、試行的事業を通じた「こども誰でも通園制度」の評価について、こどもと保護者それぞれの視点から考察する。
1)こどもにとっての意義と現時点での評価
「こども誰でも通園制度の実施に関する手引き」(以下、手引き)では、こどもの成長の観点からの「こども誰でも通園制度」の意義として、家庭とは異なる経験をしたり、家族以外の人や同じ年頃のこどもと関わる機会が得られたりすることが挙げられている。またそれによって、ものや人への興味関心が広がったり、社会情緒的な発達を支えたりすることができるという。
実際に試行的事業を利用した保護者へのアンケートの結果をみると、試行的事業を通してこどもに見られたよい変化について、「特にない」と回答する割合は2.3%にとどまり、多くの保護者が自身のこどもにとって一定の意義を感じていることがわかる(図表2)。特に「保護者がいない場所でも保育者や他のこどもと過ごすことができるようになった」70.9%、「お子さんが新しいことに取り組む機会が増えた」51.8%など、自身のこどもについて、家族以外の人や他のこどもと関わる機会の増加や好奇心の広がりを感じている保護者が一定数いる結果となっている。

2)保護者にとっての意義と現時点での評価
前述の手引きによれば、保護者にとっての「こども誰でも通園制度」の意義は、専門的な知識や技術を持つ人と関わることで、安心できたり、育児の孤立感や不安感の解消につながったりする点だという。また、保育者のこどもへの接し方を見ることで、こどもの成長過程と発達の現状を客観的に捉えられるようになり、親として成長することができるとされている。
試行的事業を利用中の保護者に対し、事業利用の前後を比べた様子について尋ねたアンケートの結果をみると、「子育ての中で孤独を感じることが減った」「子育てを楽しいと感じるようになった」「こどもについて新たな気づきを得られた」などのいずれの項目においても「そう思う」と「ややそう思う」の合計が半数以上となっており、全体を通して肯定的な影響を感じている保護者が多い結果となっている(図表3)。

5.本格実施へ向けて ―― 2つの社会的課題
以上のように、試行的事業の利用者からは「こども誰でも通園制度」について、おおむね肯定的に評価されていることがうかがえる。最後に、同制度の本格実施へ向けて社会的な課題を2つ提示したい。
1)乳児期の子育ても周囲に頼れる社会に
「こども誰でも通園制度」は0歳6か月~満3歳未満の未就園のこどもが対象となる制度である。そうした小さなこどもを保育所などに預ける際には(特に乳児期の子どもほど)、保護者が「(保育所に預けるには)早すぎないか」と不安や葛藤を感じたり、周囲から「こんな小さいこどもを保育所に入れるのか」「保育園に預けてかわいそう」など利用を反対されたりすることがあることがこれまでに指摘されている(注8)。
村田・坪井(2021)は、近代的な育児に関する言説では、乳児の子育ては本質的に母親が責任を負うべき問題として語られ、乳児の集団保育が基本的には否定的なものと捉えられてきたと指摘している。そして、そうした見方(生後しばらく常時世話を必要とする、未熟な状態で生まれてくる人間の乳児を、家庭で生みの母親である女性がひとりで担うべきとする見方)が日本では根強く、今日でも変わっていないとの見解を示している(注9)。そのような社会意識は、0歳6か月から満3歳未満の低年齢のこどもを対象とする「こども誰でも通園制度」においても、一部の保護者にとって制度利用を躊躇させる要因となるおそれがある。小さなこどもを育てる保護者が、こどもの豊かな育ちのために安心して制度を利用することのできる雰囲気を、社会全体で醸成していくことが重要である。
2)働いていても、働いていなくても頼って良い社会に
また「こども誰でも通園制度」は、親の就労の有無にかかわらず保育所等を一定時間利用できる制度である。とりわけ専業主婦においては、一時的にでも保育所等にこどもを預けることに対して「罪悪感」や「抵抗感」をもつ傾向が強いことがこれまでに指摘されている(注10)。
実際に「こども誰でも通園制度」の試行的事業に関するアンケート調査の自由記述欄には(注7)、「出産以降、子を預かってもらうことに対し主婦である自分は肩身が狭く、働いていない以上自分 1 人で保育しなければと思い周囲に頼ることができずにいたが、正直疲れてしまうときも多くあった。利用時間は短いが、預かってもらえるだけありがたい。事業を利用中、カフェでコーヒーを飲んだ。妊娠中から控えていたので約 3 年ぶりで、1人で喫茶店に座っていることが信じられず、涙が出るほどありがたかった」という記述や、「子を預けることに対し罪悪感があったが、預けることで子が楽しんでいた様子や、私も親としてではなく1人の人として過ごす時間ができて良かった」といった記述がある。これらの保護者は悩みながらも、おそらく多大な勇気を振り絞って試行的事業を利用することができた人々である。一方、この他には、罪悪感や抵抗感の中で周囲に頼れなかったり制度を利用できなかったりして孤立してしまう保護者もいると考えられる。
制度そのものを充実していくだけでは、このように、制度を利用したくても利用すること自体に罪悪感や抵抗感をもってしまい苦しむ親子に、適切な支援を届けることは難しい。特に近年は、女性の社会進出が進み共働き世帯が増えた一方で、専業主婦(主夫)や育休取得中である母親(父親)が、「働いていない」という言葉のもとに自分や周囲から知らず知らずのうちに追い詰められ孤立しているおそれがある。社会全体で、就労の有無にかかわらず、保護者が様々な支援を利用したり、周囲に頼ったりしてもよいのだという意識を認め合うことが重要である。それがひいては、全てのこどもの良質な成育環境と豊かな育ちを支援することにも繋がるはずである。
6.共同養育の意識を社会の基本に
比較認知発達科学を専門とする明和(2022)によれば、生物としての「ヒト」(わたしたち人間)は、もともと所属集団のメンバーとともに共同養育をしながら生きてきたと考えられるという。明和によれば、チンパンジーは出産間隔が大体6~8年間隔とかなり長い。チンパンジーのこどもが成長し親離れの時期となり、母親よりも仲間と長い時間を過ごし始めると、母親チンパンジーに排卵が起こり、次の子どもを妊娠できるようになるという。このようにチンパンジーの出産はひとりの子どもを丁寧に育て上げてから次子を産むスタイルとなっているという。一方で、生物としてのわたしたち「ヒト」は、母乳育児をしていても排卵が起こり、2~3年間隔で子どもを産むことができる。そのうえヒトの乳児はチンパンジーよりも非常に無力な状態で生まれ、親は自分のために身体を使えない状態がチンパンジーよりも長く続く。明和によれば、そのような「ヒト」が次世代をつないでくることができたのは、「ヒト」が所属集団のメンバーとともにこどもを育てる「共同養育」をしながら生きてきたからだと考えられるという。
そうであるならば、現代社会のなかで「孤立した子育て」をしている保護者は、本来共同養育によってやっと成り立つはずの子育てを、家庭の中だけで(場合によっては主にひとりで)なんとか行っている状況だということになる。
そのような観点で考えるならば、必要な制度や支援といったハード面をより充実させていくと同時に、育児に孤軍奮闘する保護者が、乳児期か否かや就労の有無にかかわらず「周囲に頼っていいのだ」と思えるように、共同養育つまり「子育ては社会全体で共同で支え合いながら行っていく」ことが当たり前になるような意識やつながりを、社会全体で共有し形作っていくことが重要なのではないだろうか。
2026年4月からの本格実施を契機に「こども誰でも通園制度」という新制度設立の背景にある社会の在り方や意識に目を向けることで、一人ひとりがゆるやかに互いを気にかけ、関わり合い、支え合える社会を構想する機会になることが望ましいと考える。
【注釈】
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本制度においては制度創設当初から保育関係者を中心に、保育的な観点から、制度の趣旨である「こどもまんなか」の実現性への疑問、保育人材不足や保育現場の負担増加への懸念などが挙げられてきた。制度の基盤となる保育者の観点からも、本制度の意義や課題を整理・検討することが重要である。
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こども家庭庁「令和7年3月31日【実施要綱】乳児等通園支援事業(こども誰でも通園制度)の実施について」2025年
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こども家庭庁「家族支援の充実、地域のこども・子育て支援の取り組みの推進②(「はじめの100か月の育ちビジョン」に基づく施策の推進)」
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こども家庭庁「保育政策の新たな方向性(参考資料)」2025年
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こども家庭庁「こども誰でも通園制度(仮称)の本格実施を見据えた試行的事業 実施自治体一覧」2024年
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こども家庭庁「こども誰でも通園制度(仮称)の試行的事業実施要綱案 概要」/大阪市「大阪市こども誰でも通園制度の試行的事業実施要綱」2024年
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こども家庭庁「こども誰でも通園制度の本格実施を見据えた試行的事業の実施に関する調査研究報告書」2025年
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村田泰子・坪井優子「母性の支配的言説を反復し、語り直す」『関西学院大学社会学部紀要』137,p.75‐p.96,2021年。村田らは認可保育所の乳児保育を利用する女性6名にインタビューを行い、乳児保育を利用する女性たちの不安や葛藤の中身について丁寧に検討している。
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村田・坪井(2021)と同様に、家父長制や専業主婦概念、3歳児神話などの価値観はほぼ消失したにもかかわらず、経験や習慣や環境の中に「育児は女性(母親)が担う」という見方や考え方が依然として根強く残っている、という指摘が他の研究者からもなされている(加藤望・中坪史典「なぜ日本の乳幼児子育て期の保護者はリフレッシュ目的で一時預かり事業を利用しにくいのか?」『広島大学大学院教育学研究科紀要第三部(教育人間科学関連領域)』67,p.57‐p.64,2018年)。
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工藤遥「『子育ての社会化』施策としての一時保育の利用にみる母親規範意識の複層性」『福祉社会学研究』15,p.115‐p.138,2018年/河田あかり「一時保育・一時預かり施設利用に対して乳幼児の母親が抱く感情に関する研究の動向と課題」『お茶の水女子大学心理臨床相談センター紀要』26,p.71‐p.80,2025年。
【参考文献】
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こども家庭庁「『こども誰でも通園制度』について~基礎資料集~」2025年
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こども家庭庁「こども誰でも通園制度の実施に関する手引き」2025年
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こども家庭庁「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」2023年
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明和政子『人類の育児スタイルは共同養育』NPOブックスタート,2022年
小林 菜
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 小林 菜
こばやし なの
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政策調査部 研究員
専⾨分野: 金融経済教育・金融リテラシー
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