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コーポレートガバナンス・コードの再改訂

~主として新市場創設の視点からの改訂のポイント~

河谷 善夫

要旨

  • 本年6月11日、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)の再改訂が施行された。再改訂案は、金融庁・東証の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」での検討を経て、本年4月6日に公表され、1ケ月間パブリックコメント手続きに付された上で、確定版となり、再改訂コードの運用が始まった。
  • 我が国企業の持続的成長に向けたコーポレートガバナンスの高度化の推進には、CGコードとスチュワードシップ・コード(以下「SSコード」)が両輪となり機能することが期待されている。SSコードは、3年に一度改訂されることになっているが、CGコードもSSコード改訂の1年遅れのタイミングで改訂されており、今後もSSコードの改訂時期から1年ほど遅れたタイミングでの改訂が想定される。
  • CGコード改訂についてのパブリックコメントへの対応は東証が行った。東証は、CGコード確定版の公表とともに、パブリックコメントに寄せられた個々の意見に対する考え方を公表したが、これは今後改訂コードの運営の参考となる。
  • フォローアップ会議が再改訂コード案と同時に公表した「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」という文書では、今回の再改訂の背景として、コロナ禍を契機とした急速な環境変化への対応と市場区分の見直しへの対応の2つが挙げられている。
  • 市場区分の見直しの検討の経緯を辿ると、市場区分の見直しとCGコード再改訂の連動は新型コロナの発生以前から予定されていたことが確認できる。すなわち今回のCGコード再改訂は、新型コロナの発生よりは、市場区分の見直しと、より連動して行われたものとみなされる。コロナ禍を契機とした企業経営環境の変化への対応が背景とされているのは、新型コロナが生じたことにより、CGコード再改訂の重要性が非常に大きくなったことを表しているものと捉えるべきであろう。
  • 市場区分の見直しにより、東証の現在の市場第一部、第二部、JASDAQ、マザーズという区分は、プライム、スタンダード、グロースという区分に再編される。市場区分の見直しの施行は、2022年4月4日となる。プライム市場は、高い時価総額・流動性、より高いガバナンスを備え、投資家との建設的な対話を企業価値向上の中心に据える企業が上場するものとされ、より高い水準のガバナンス構築の観点から、CGコードの再改訂を検討する方向性が2019年中に示されていた。
  • CGコード再改訂において、プライム、スタンダード、グロースの市場毎に求められるコードへの対応レベルは異なり、プライム市場上場企業には一番高い水準での原則、補充原則への対応が必要となる。改訂された箇所は18箇所で、プライム市場向けに改訂された原則、補充原則は6個である。プライム市場向けの原則、補充原則の改訂は今回の再改訂で大きな柱ではあるが、太宗を占める訳ではない。
  • 金融庁は改訂された原則、補充原則を4分野としている。この区分を俯瞰すると、従来から我が国のコーポレートガバナンス上の課題であるものか、或いは近年頓に企業経営上重要となってきた分野に係るコーポレートガバナンス上の課題であるかという軸があることが理解できる。今回のCGコードの再改訂は、この軸とプライム市場向けの課題であるかどうかという2つの軸があると整理できる。
  • 上場企業は、再改訂されたコード対応を進めることになる。プライム市場向けの原則以外への対応は、今年の12月末までに準備を終え次第速やかに、コーポレートガバナンス報告書の更新対応を行うこととされている。プライム市場向けの原則は、新市場区分の施行日である2022年4月4日を過ぎて最初に行う定時株主総会後、速やかにコーポレートガバナンス報告書への更新対応を行うこととされる。
  • 今回のCGコード再改訂のポイントの1つとして、プライム市場上場企業に求められるより高い水準での原則、補充原則への対応の在り方ということが挙げられると考える。コンプライ・オア・エクスプレイン原則に基づくCGコードにおいて、新たにプライム市場向けに設定された原則、補充原則へコンプライが強制されているわけではない。形式的にコンプライすることが、より高度な対応という訳ではなく、投資家に説得的なエクスプレインを行う方がより高い水準になるということもあり得る。しかし、現状でもエクスプレインの質について疑問視されるものも少なくなく、質の高いエクスプレインは難しい面がある。エクスプレインする場合には、株主等のステークホルダーの理解が十分に得られるものになっているかについて、その内容を詰めていくことが必要になる。そして、このような作業を行うことは、自社がコードの原則が求める状態についてどのような立ち位置にいるかを再確認することが前提となり、自らのガバナンスの状態を深く見つめなおすことが前提となるものとも言える。決して容易な作業ではないかもしれないが、その意味は大きなものになるはずだ。
  • 今後もCGコードの見直し、特にプライム市場向けの原則についての検討は続くとされる。プライム市場に上場する企業は、この改訂に対して、受け身のスタンスではなく、常に社会・経済等経営環境の変化の方向を的確に捉え、あるべきガバナンス体制について不断の議論を自社の取締役会等で行っていき、必要なガバナンス面での取組みを先取りしていくといったスタンスで臨んでいくことが、一段高い水準でのコーポレートガバナンスの実現に繋がるものと言えるだろう。

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河谷 善夫


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