暮らしの視点(7):中高年シングルが振り返った幸福感のピーク

北村 安樹子

目次

ミドル期の「幸福感」

自分をどの程度幸福だと感じているか―この「主観的幸福度」を得点化した場合、年齢やライフステージの移行にともなって、中高年期を底にしたU字型を描くといわれている*1

本稿では、企業等で正社員として働く一都三県の40~50代の配偶者のいない中高年単身者(以下中高年シングル)を対象に当研究所が行ったアンケート調査*2から、回答者の幸福度の現状とともに、幸福度を考える場合に重視していることについての回答結果をみる。また、中高年シングルが、自身の幸福感のピークだと考える時期やその理由についての回答結果から、60代以降のライフステージに向けて、どのようなライフスタイルが幸福感につながるのかについて考えてみたい。

中高年シングルが、幸福感の要件として重視すること

企業等で正社員として働く40~50代の男女を対象に行ったこの調査において、「現在、あなたはどの程度幸せですか」という設問に基づく主観的幸福度得点の平均値は、男性が4.82、女性が5.62であった。この主観的幸福度は、所得が一定の水準に達するとあまり上昇しなくなることが知られている。この調査では、年収が高い人のほか、仕事に打ち込んでいるときに充実感を感じる人、現在の仕事や働き方を自己決定した人等では、そうでない人に比べ幸福度得点が高い傾向が確認された。

この調査では、幸福感を考える場合に大切だと思う条件について、「特にない」を含む計13の選択肢のなかから3つまでの複数回答でたずねている。その結果、最も多くあげられたのは男女とも「経済的ゆとり」で、「健康」がこれに続いた(図表1)。女性では「健康」が、「経済的ゆとり」とほぼ同じ水準であげられており、男性を大幅に上回っている。このほか「家族との関係や家族の健康」をあげる割合も女性が男性を大きく上回った。女性の中高年シングルには、自分だけでなく、家族の健康を自身の幸福と結びつけて考える人が男性に比べ多いのかもしれない。他方、男性では「時間的ゆとり」や「趣味や楽しみ」をあげる人の割合が、女性を上回った。

図表1 中高年シングルが幸福感を考える場合に大切だと思う条件(性別)<3つまでの複数回答>
図表1 中高年シングルが幸福感を考える場合に大切だと思う条件(性別)<3つまでの複数回答>

今が幸福感のピークだと感じている人は男性で約1割、女性で約2割

これらの中高年シングルは、これまでの幸福感のピークについてどう感じているのだろうか。この調査では「あなたが、これまでの人生でもっとも幸福だと感じたのは次のうちいつですか」という設問文で、幸福感のピークの時期をたずねている。

その結果、調査時点における自身の年齢と同じ年齢カテゴリーを選択した人(「おおむね現在」)の割合は男性で約1割、女性で約2割となった(図表2)。「40代以降」と答えた人をすべて合わせても、ミドル期以降をピークと答えた人は、男性が約2割、女性が約3割に過ぎないということになる。

今より若い時期が、幸福感のピークだった理由

では、今より若い時期が幸福感のピークだったと答えた人は、どのような理由からそのように答えたのだろうか。ここでは自由記述でたずねた回答結果から、「特にない・なんとなく」を除いて最も多くあげられた「仕事」と「収入・経済的ゆとり」に関する記述とともに、これらには及ばないものの、経済面以外の理由として比較的多くあげられた「健康」に関する記述に注目する*3

まず、「仕事」に関しては、「仕事もプライベートも充実していた」(40代女性、ピーク:30代)、「仕事が楽しかった」(50代女性、ピーク:20代)、「仕事へのやりがいもあり金銭面でも充実していた」(40代男性、ピーク:20代)、「仕事に熱中できたから」(50代男性、ピーク:30代)などの回答があげられている(図表3)。仕事とプライベートの充実やバランスに関すること、仕事の楽しさややりがい等に関する記述がみられる。

また、「仕事」に次いで多くあげられた「収入・経済的ゆとり」に関する理由では、「収入も安定しているときだから」(40代女性、ピーク:30代)、「先のことをあまり考えずに楽しく生活できた。今より経済的なゆとりがあった」(50代女性、ピーク:30代)、「経済的な心配はしていなかった」(50代男性、ピーク:10代)などの回答があげられている。収入の安定性や現在と比べた経済的ゆとりに関する記述とともに、将来のことを考えずにいられたことや、将来への楽観的な意識等に関する記述が確認される。

他方、「健康」に関しては、「体力もあり、いろいろアクティブに動けた」(40代女性、ピーク:30代)、「体力、気力ともに最も充実していたので何でも出来た」(40代男性、ピーク:20代)、「当時は健康で病気知らずであり、仕事も楽しく毎日が充実していた」(50代男性、ピーク:30代)などの回答があげられている。今より体力や気力の面で充実していたことや、健康であったこと等をあげる記述が確認できる。

図表3 幸福感のピークを30代以下とした人があげた理由
図表3 幸福感のピークを30代以下とした人があげた理由

ミドル期以降の「幸福感」を考える

中高年期以降は、加齢とともに多くの人が若さの喪失に向き合い、健康面での課題や問題点を認識する人が増える時期でもある。中高年シングルが現在の幸福度に関し以前より低下した、ないしは低いと感じている理由には、仕事などの社会生活や収入などの経済的側面とともに、体力の低下など加齢にともなう心身の変化も関連している様子がうかがえる。ミドル期以降の幸福感を考えていく上で、キャリアデザインや収入面の人生設計とともに、健康の維持・管理や健康的な生活習慣を考えていくこと、実践していくことが重要といえるのではないだろうか。

【注釈】

*1 年齢と幸福感の関連性については、欧米などの諸外国では、若いときと高齢期で高く中年期には低いU字型を描くとされてきたが、日本では多様な議論がある。

*2 「中高年単身者の生活実態に関するアンケート調査」。調査方法はインターネット調査、調査時期は2018年10月。調査対象者は、調査委託会社の登録モニターから一都三県の企業等で正社員、パート・アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託社員として働く40~50代の男女2,000名を性・年齢階級別に均等になるよう抽出。本稿ではこのうち正社員1,000名(男性500名、女性500名)の回答結果を紹介。分析対象者の主な属性は下記のとおりである。

*3 「仕事」や「収入・経済的ゆとり」「健康」にかかわる理由のほか、「家族・親族」や「恋愛・パートナー」「友人・職場などの人間関係」にかかわる理由がみられた。このうち「家族・親族」については、「結婚していて、家族がいる安心感があった」(50代女性、ピーク:30代)、「結婚し子どもを授かったから」(40代男性、ピーク:20代)、「両親がいたから」(40代女性、ピーク:20代)など、家族・親族との関係にかかわる記述のほか、「家族全員が健康」(40代女性、ピーク:20代)、「家族皆が健康で、それぞれがいきがいを感じていたように思うから」(50代女性、ピーク:20代)など、家族の健康に関する記述がみられた。

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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