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内外経済ウォッチ『欧州~英国の過激な移民抑止政策~』(2024年6月号)

田中 理

目次

不法移民のルワンダ移送計画とは?

英国議会は4月下旬、ドーバー海峡を小型ボートで渡って英国に不法に入国した難民希望者を、アフリカのルワンダに移送する計画の実行に必要な法案を可決した。この計画は2022年に当時のジョンソン首相が発表したもので、ルワンダは資金援助と引き換えに英国からの不法移民を受け入れる。ルワンダへの送還が抑止力として働き、英国を目指す不法移民が減少するのが狙いだ。

計画を巡っては、昨年6月に欧州人権裁判所が人権侵害の恐れがあるとして差し止め命令を出し、移送の第一便が出発直前にキャンセルされた。英国の最高裁判所も同年11月、出身国に強制送還される恐れがあるとして、計画が違法であるとの司法判断を下した。移民の流入制限を重要公約の1つに掲げるスナク首相は、難民希望者にとってルワンダが安全な第三国であると英国の法律に明記する法案を議会に提出。上院が5回にわたって法案を差し戻したが、5ヶ月に及ぶ討議の末、最後は下院の議決優先権を用いて成立に持ち込んだ。数ヶ月以内に最初の移送便が出発する。

内務省の試算によれば、不法移民をルワンダに移送する場合、移民を英国内に滞在させるよりも多くの財政負担が必要になる。英国では年内に総選挙が予定され、各種の世論調査で与党・保守党が野党・労働党に大幅なリードを許している。野党や人権団体などが反発し、財政負担も嵩むが、政府は計画実現を優先した。

資料1 ドーバー海峡を小型ボートで英国に渡る不法移民数
資料1 ドーバー海峡を小型ボートで英国に渡る不法移民数

隣国アイルランドにも余波が広がる

移送計画の発表後、英国から隣国アイルランドに流入する不法移民が増加している。首都ダブリンの一角では、アイルランド政府が最近になって強制排除に乗り出すまで、多くの不法移民がテント生活を続けていた。英国とアイルランドは相互に国境を開放しており、一部の例外を除き、入国審査なしに自由に行き来ができる。英国の一部である北アイルランドと欧州連合(EU)の加盟国であるアイルランドは陸続きで国境を接している。この地域では、北アイルランド紛争の経緯もあり、和平合意の趣旨に則り、いかなる物理的な国境も設置することができない。そこから多くの不法移民がアイルランド内に流入しているとされる。

古くは移民の輩出国であったアイルランドは近年、多くの移民を受け入れている。1960年代に300万人に満たなかった同国の人口は、数年前には500万人を突破した。急激な人口増加に伴う住宅供給不足が社会問題化していることもあり、政府は今回の移民流入への対応を余儀なくされている。不法移民の英国への送還を可能にする法案を計画しているほか、北アイルランド経由の不法移民の流入を取り締まるため、国境周辺に警察官を派遣する計画を発表した。英国政府は不法移民の流入元であるフランスへの送還をEUが認めない以上、アイルランドからの送還を受け入れる義務がないとして反発している。移民問題はここでも欧州諸国の結束を揺るがしている。

資料2 アイルランドの移民流出入数
資料2 アイルランドの移民流出入数

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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