ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

時評『日本のモビリティ課題に「3つの視点」から向き合う』

宮木 由貴子

バスの減便や鉄道の廃路線など、全国各地で公共交通手段が縮小している。この数十年で自家用車への依存傾向が高まり、特に地方部では日々の移動手段を自家用車に頼らざるを得ない。公共交通の縮小は、単に人口の減少やドライバー不足によるだけではなく、自家用車依存ゆえに公共交通の利用者が少なく、採算性も低下するという悪循環で加速してきた。現在、運転が年齢的に難しくなった高齢者や公共交通に頼ってきた人たちの移動手段の存続が危ぶまれている。

ドライバー自身の高齢化も著しい。たとえば、タクシードライバーは70~74歳が最多である。これらの層が数年のうちにリタイアした場合、ドライバーのさらなる減少は避けられない。

また、物流ドライバーの不足も深刻な問題である。今年4月、トラックドライバーの時間外労働が月間で45時間、年間で960時間に制限された。これにより、ドライバー人数の不足だけでなく、稼働時間の制約も受けることになる。

こうした中、ヒトとモノのモビリティ課題への対策として、①テクノロジーの活用、②柔軟でアジャイルな環境整備、③生活者のライフデザインの3視点からのアプローチが想定される。

まず「テクノロジーの活用」について。現在、デジタル田園都市国家構想総合戦略として、自動運転による地域交通が推進されており、地域限定型の無人自動運転移動サービスを2025年度目途に50か所程度、2027年度までに100か所以上で実現することになっている。実際、コロナ禍後は急速な勢いで全国展開が進んでいる。

一言で自動運転といっても、多種多様な自動運転バスに加えてロボタクシーなどもあり、技術レベルや仕様も異なる。導入にあたっては地域の特性や用途、ニーズに応じた実装が求められる。また、自家用車に自動運転技術が搭載されることで、安全性が高まり、ドライバーの運転寿命が延伸されるとの期待もある。物流における自動運転も、高速道路を走行する長距離輸送型と、歩道を走る小型輸送型がある。このように、テクノロジーの進化と実装を促進することが、ドライバー不足の課題解決に寄与すると期待される。

次に「柔軟でアジャイルな環境整備」について。日本では自動運転の走行を見越して道路交通法の改正を進めており、既に「自動運転」と定義される車両(自動運転レベル4)が公道を走行できる。モビリティは生命・身体の安全にかかわるものであることから、慎重にチャレンジする必要があるが、実証実験等の機会を通じて地域の状況に則した柔軟な対応を試み、事例や知見の蓄積を全国に横展開することが期待される。

また、2023年12月のデジタル行財政改革会議において、日本におけるライドシェアの動きに弾みがついた。一般ドライバーが有償で乗客を運送することは道路運送法78条により「白タク」行為として原則禁止されているが、過疎地域その他の交通が著しく不便な地域において、国交大臣の登録を受けた自治体やNPOなどで例外的に実施できる「自家用有償旅客運送制度」や、公共の福祉を確保するためやむを得ない場合に国交大臣の許可を受けて地域又は期間を限定した運送が存在する。今回の動きは、これらをより利用しやすい制度にし、現行法の枠内で実施するものである。

こうした社会の変化に合わせた制度改革や環境整備の促進に加え、それらのアクションの効果を測定すべく、モビリティを生かす視点(存続)と活かす視点(波及効果)の両面から、インパクトを可視化することも重要であると考える。

最後に「生活者のライフデザイン」について。大きな社会変化を好まない人もいるが、人口減と高齢化が避けられないなか、合理的な変化を受け入れつつ、ライフスタイルの維持と行動変容のバランスをとる姿勢が求められる。そのためには、社会背景、テクノロジーの意義や価値、生活者として必要な行動やリテラシーについて、中立かつわかりやすい情報が共有されることが不可欠だ。

当研究所としても、そうした点に資するべく、多様で創造的な思考とわかりやすい情報発信に取り組んでいきたい。

宮木 由貴子


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