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コロナ禍の長期化がもたらした不安の多様化

~2回目の緊急事態宣言を受けて~

宮木 由貴子

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、当研究所は3回にわたって「新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査」*1を実施し、その実態と推移をとらえてきた。本稿ではこのデータをもとに、人々の「コロナ不安」の内容の変化について考える。

特に高い女性の経済不安

「新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査」は、2020年4月初 旬、5月中旬、9月中旬の3回にわたって実施した。このいずれの調査においても、 「現在、あなたの『健康面』『お金の面(家計や経済)』『つながりの面(人との交流や コミュニケーション)』の不安は、10点満点でいうとどの程度ですか」という質問 で、コロナ禍における人々の不安感をたずねている。3時点の変化をそれぞれみる と、健康・お金・つながりのいずれにおいても、3回目の調査時点で不安感は低下傾 向にあり、全体的に男性より女性で不安感が高い(図表1)。

新規感染者数が今より少なかった第1回調査時点で不安感が全体的に最も高かっ たのは、新型コロナウイルスの知見が少なく、先行きが不透明だったことによるもの と考えられる。その後、コロナの知見蓄積や生活様式の改変・対応などによるコロナ との共生等により、第3回調査までに人々の不安感は徐々に下がってきた。

しかし「お金」(以下、「経済面」)の不安については、健康面やつながり面に比べ て高いことに加え、女性においては第2回調査から第3回調査で微増している。経済 面への影響、すなわち収入や家計への影響は、健康やつながりにおける影響に比べて 発生にタイムラグがあること、新型コロナウイルスを押さえ込めても直ちに課題が解 消するものではなく、問題が長期化する可能性を示唆しているともとらえられる。実 際、今回のコロナによる不況は特に女性の就労に大きな影響を及ぼしているとされて おり、こうした経済面での不安の高さはそれらを反映しているともいえる。女性のみ を就労形態別にみると、特に女性の占める割合の高い派遣社員で最も健康面・お金面 での不安が高いなど、困っている人と困っていない人の格差が拡大していると推察さ れる(図表2)。

なお、昨年の月別の自殺者数の推移によると、新型コロナウイルスへの不安が非常 に高かった春から初夏にかけては例年より少なかったが、コロナ禍が長期化してきた夏以降急増している。特に女性においては、例年に比べてその数が多い。こうした点 からも経済面や精神面で苦境にある人が多いことが危惧される(図表省略)。

感染拡大防止か、経済活動維持か

こうした中で、今回のコロナ禍では、様々な局面で感染拡大防止と経済活動維持 の線引きをどこで行うかという選択を迫られている。GoTo キャンペーンの中止につ いてもそうした議論の一環として行われたといってよい。こうした中、第3回調査時 点では「新型コロナウイルス感染拡大を防止しながら、経済活動も回していかなけれ ばならないと思う」との設問に対しては、「あてはまる」とした人が24.5%、「どちら かといえばあてはまる」とした人が48.3%で、72.8%の人が肯定している(図表3)。

健康・お金・つながりの不安感の高低別にそれぞれ回答を比較すると、健康とお 金について不安感が高い人では「新型コロナウイルス感染拡大を防止しながら、経済 活動も回していかなければならないと思う」とする人がより多い(図表4)。経済面 の不安感が高い人では、経済が停滞することで雇用や収入面に影響が出ることから、 経済を回すことにより積極的であると考えられる。

一方、健康不安が強い場合、感染不安の強さから経済活動の再開には後ろ向きか と思いきや、健康不安が高い人でも経済活動維持への意識は高い。調査結果からは、 健康面への不安感と経済面への不安感に正の相関があることが確認されているが、実 際に健康への不安は、就労継続等の収入の不安や治療等にかかわる出費の不安など、 経済的な不安とのかかわりも深いといえる。こうした点が、健康不安の高い人におけ る経済活動維持への意識の高さに結び付いていると考えられる。

多様化する「コロナ不安」の内容

新型コロナウイルスが国内で確認された当初は「感染(健康)」が人々の不安の大き な要素を占めていたと考えられるが、コロナ禍が長期化するにつれて、消費や収入な どの「生活(経済)」の不安や、移動や交流を制限されたことによる孤独・孤立感など 「交流・娯楽(つながり)」への不安なども課題となり、必ずしも「コロナ不安」が感 染への不安のみを意味しなくなってきた。そのような中、2020年12月から2021年1月 にかけて感染者が従来にない勢いと数で増加したことから、社会的には再度健康への 不安が増大していると推察される。しかしその一方で、個人レベルで見ると、コロナ 禍での生活に対する慣れからか、昨年に比べて感染自体にあまり危機感が感じられな い側面も垣間見える。

例えば、「コロナ不安」としての健康面での不安にフォーカスすると、「自分や家族 が感染する不安」に加えて、「医療崩壊により別件(持病や事故など)での診療や搬送 をしてもらえないかもしれない不安」をより強く訴える人もいる。また健康面以外で は、「就労継続・収入確保」「教育・進学」「友人関係」「孤立・孤独」「メンタルヘルス・ 心の健康」など、コロナ禍が長期化するにつれて「コロナ不安」の内容が人によって 異なってきているように思われる。そのため、人によってコロナに立ち向かうメッセ ージの響き方や対策の効果も非常に多様となっており、政策的な合意を取りにくい状 況にある。世界各国における対応が千差万別なのも、それぞれの文化や社会的背景を 反映しているためなので、うまくいっていそうな政策をそのまま模倣することもでき ない。

2020年4月の緊急事態宣言時に、多くの人が移動を控えて当面の感染者増加の抑え 込みに成功したのは、「とにかく感染拡大を防止する」という比較的限定的な目標を多 くの人が共有できたことによるといえる。しかし、コロナによる課題とリスクが長期 化により多様となった2021年1月の緊急事態宣言時においては、それぞれがそれぞれ の事情を抱えて行動せざるを得なくなっている。エッセンシャルワーカーをはじめと する、コロナで寝る暇がなくなるほど忙しくなった人がいる一方で、この数か月でや ることがなくなってしまった人もいる。

各人の立場での解は山ほどあるが、社会としての唯一の最適解はない。事情や環境 による人と人との分断を拡大しないようバランスをとりつつ、効果を最大限にするような対策を講じるのは極めて難しい。人々の分断の溝を少しでも埋めながらコロナの 感染拡大を抑えていくためには、国民の厚生と多様性のバランスを考えた政府の政策 に期待するとともに、国民一人ひとりが寛容さをもって各人の事情や多様な考え方に 思いを馳せつつ、コロナ終息を目指した行動を意識していくことが求められる。

【注釈】
*1 第1回目の緊急事態宣言発令直前に実施した第1回調査(2020年4月3日~4日)、緊急 事態宣言解除直後に実施した第2回調査(5月15日~16日)を経て、第3回調査は、都道 府県をまたぐ移動の解禁(6月19日)以降、第二波の到来ともいえる感染拡大、その最中 での Go To トラベルキャンペーンの開始(7月22日)、さらには新内閣の発足(9月16日) など、わが国における社会と経済の転換期を迎えた9月半ば(9月16日~18日)に実施し た。 それぞれの調査の方法や結果の概要は、以下の URL より特集ページにお入りいただきご 参照されたい。
弊社ホームページの「新型コロナウイルス意識調査特集ページ」にて、これまでに実施した調査のリリースやレポートを公開しています。
https://www.dlri.co.jp/theme-detail/5102.html

宮木 由貴子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

宮木 由貴子

みやき ゆきこ

常務取締役・ライフデザイン研究部長・首席研究員
専⾨分野: ウェルビーイング、消費スタイル、消費者意識、コミュニケーション、モビリティ

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