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ESGインサイト『「物流の2024年問題」で企業・消費者ができること』

岩井 紳太郎

目次

「物流の2024年問題」とは

「物流の2024年問題」は、2023年「新語・流行語大賞」にもノミネートされ、社会全体で注目を浴びている。「物流の2024年問題」とは、働き方改革関連法によって2024年4月以降トラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用されることで発生する問題の総称である。時間外労働の上限規制は、2019年4月から大企業、2020年4月から中小企業にて既に適用されているが、トラックドライバーを含む自動車運転の業務等については業務の特性上、規制の適用が2024年3月末まで猶予されていた。2024年4月から適用されることでドライバーの労働時間の削減が期待される一方で、様々な問題が懸念されている。

何も対策しないとトラックの輸送能力が3割減も

労働時間が削減されるということは、その分ドライバー1人当たりの走行距離が短くなり、配送量が減少することになる。これは社会に大きな影響を及ぼす。例えば、これまで通りの輸送ができなくなることにより、物流会社の売上・利益に影響し、また消費者には指定した日時にモノが届かなくなる可能性がある。加えて、労働時間の減少によりトラックドライバーの収入にも大きな影響がある。運送業界では既に人手不足が課題となっており、収入減少により離職者数が増加する場合、さらなる配送量の減少へとつながることも考えられる。

政府の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、「物流の2024年問題」に対して何も対策を行わなかった場合、トラックの輸送能力が2024年には14.2%、さらに2030年にはドライバー数の減少の影響も加わり34.1%不足する可能性があると試算している。

現在、宅配便のほとんどはトラックによって運送されている(資料)。今後電子商取引(EC)がより一層発展し宅配便の取扱個数の増加が予想されるなかで、トラックの輸送能力が不足することは社会全体にとって大きな問題となる。

これに対して、政府は2023年10月に「物流革新緊急パッケージ」を発表した。同パッケージでは、①物流DXの推進等による「物流の効率化」、②再配達削減に向けた取組み等の「荷主・消費者の行動変容」や、③荷主・元受事業者の監視体制強化等による「商慣行の見直し」が掲げられている。

資料 宅配便の取扱個数とトラック輸送率の推移
資料 宅配便の取扱個数とトラック輸送率の推移

企業・消費者ができること

前述のパッケージには、荷主・消費者の行動変容の促進に向けた取組み等が盛り込まれた。物流の停滞・途絶を招かないためには物流関係者だけでなく企業や消費者の協力が不可欠だ。

企業は納品回数の減少やドライバーの待機時間削減に向けた取組み等により、物流の負担を減らすことができる。消費者は、再配達の削減が協力できることだろう。国土交通省の2022年10月期調査によると、宅配便の取扱個数のうち約1割が再配達となっている。ドライバーの負担である再配達を削減するための取組みとして、荷物の受取人が1回で受け取れる日時・場所の指定や、宅配ボックス・置き配の活用等が挙げられる。

持続可能な物流の実現のために、社会全体で物流の負担軽減を意識して取り組むことが重要である。

岩井 紳太郎


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