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マイオピニオン~若手研究員の意見~『企業にとって賃上げはどのような効果があるのか』

岩井 紳太郎

目次

高まる賃上げ機運、背景に人手不足への危機感

2023年の賃上げ率は3.58%と、約30年ぶりの高水準となりました(資料1)。2024年はデフレからの完全脱却に向けて、政労使がさらなる賃上げを呼びかけており、昨年を上回る賃上げ率になる見込みです。このような賃上げ機運の高まりの背景として昨今の物価上昇のほかに、企業の人手不足に対する強い危機感があります。日本商工会議所によると、2024年度に賃上げを予定する中小企業のうち、約6割が防衛的な賃上げ(業績の改善がみられないが賃上げを予定)であり、その理由として「人材の確保・採用」が76.7%と最も高い割合を占めています(資料2)。

資料1 賃上げ率の推移
資料1 賃上げ率の推移

資料2 業績の改善がみられない中で賃上げを実施する理由
資料2 業績の改善がみられない中で賃上げを実施する理由

賃上げで企業が実感する効果

上記の通り賃上げ機運が高まっているなかで、企業にとって本当に賃上げを実施する効果はあるのでしょうか。厚生労働省「令和5年版労働経済の分析」によると、賃上げで企業が実感する効果として、従業員のやる気(モチベーション)向上、離職率の低下や求人の確保が挙げられました(資料3)。また、年収の増加幅が大きいほど、労働者の仕事への満足度向上や、労働者が生き生きと働けるようになったという効果も指摘されており、賃上げには人材の確保・採用だけでなく、従業員のエンゲージメント・労働生産性の向上にもつながる可能性があります。

資料3 賃上げで企業が実感する効果
資料3 賃上げで企業が実感する効果

人手不足への対応は賃上げだけではない

但し、今年度賃上げを実施しても、来年度以降同様の対応を行う余力がない企業もあると予想されます。人手不足への対応には、賃上げだけでなく様々な方法があります。例えば、福利厚生制度や働きやすい環境の整備等の従業員エンゲージメント向上に向けた取組み、AIやロボット導入等の労働生産性向上への取組みが挙げられます。女性や高齢者の労働参加率も既に相当程度高まっており、かつ人口減少が加速し働き手の数の拡大が見込めないなかで、企業は深刻な人手不足に対して自社の状況に適した取組みが求められます。

岩井 紳太郎


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。