内外経済ウォッチ『アジア・新興国~サウジアラビアは「自腹を切る」自主減産をいつまで続けられるか~』(2023年12月号)

西濵 徹

目次

原油価格の高値安定を目指して自主減産に動く

年明け以降の世界経済を巡っては、昨年末以降のゼロコロナ終了にも拘らず中国経済は勢いを欠く展開が続き、コロナ禍後の回復をけん引してきた主要国も物価高と金利高の共存が長期化して頭打ちが意識されるなど、不透明感が高まっている。昨年来の国際原油価格は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた欧米などの対ロ経済制裁による供給懸念が意識される一方、欧米など主要国を中心とする景気回復による需要拡大を受けて上振れしたが、その後は一転して頭打ちの動きを強めた。

よって、主要産油国の枠組であるOPECプラスは価格維持を目的に協調減産枠の拡大に動くも、その後も原油価格は低迷したため、協調減産の枠組を延長した上で、サウジアラビアは追加での自主減産を決定した。その後もサウジは自主減産を延長して先に自主減産に動いたロシアもこれに追随し、さらに両国は自主減産を年末まで一段と延長させた。これは、サウジは原油価格の財政均衡水準が比較的高く、ロシアも欧米などの制裁で価格上限が設定されるなか、ともに国際原油価格を高止まりさせることの誘因が大きいことがある。なお、世界経済を巡る不透明感が高まる展開は原油価格の重石となると懸念されたものの、両国による供給減少が意識されたことで底入れした。さらに、中東情勢を巡る不透明感の高まりを受けて高止まりするなど、両国の『思惑』に沿った展開をみせた。

図表1
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自主減産の背後で深刻な景気減速に陥る展開

ただし、自主減産の実施、及び延長の動きはサウジ経済に大きな痛手を招いている。7-9月の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比▲4.5%と10四半期ぶりとなるマイナス成長に陥り、同国経済は厳しい状況に直面している。非石油部門や政府部門が堅調な動きをみせているものの、石油部門の生産に大きく下押し圧力が掛かったことで景気全体の足を引っ張る動きが顕著となっている。

他方、足下のインフレ率は昨年の反動も影響して頭打ちしており、インフレが景気の足かせとなる懸念は後退している。当面は原油価格の高止まりが歳入を下支えすることが期待される上、景気動向は政府部門への依存度を強めると見込まれるものの、自主減産が石油部門の重石となる展開が続くほか、非石油部門も勢いを失う可能性が示唆される状況にある。なお、コロナ禍以前には、国際原油価格の低迷が長期化して財政均衡水準を下回る推移が続いたことを受けて、財政を下支えする観点からソブリン・ウェルス・ファンドの縮小を余儀なくされたものの、足下では原油価格の高止まりが減少に歯止めを掛けているとみられる。当面は原油価格の高止まりが見込まれる上、財政を通じて景気の下支え余力に繋がることが期待されるものの、こうした『自腹を切る』形での自主減産をいつまで継続することが出来るか、今後は国際原油価格の動向を睨みながらの展開になるであろう。

図表2
図表2

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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