ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

ライフデザインの視点『これからの子ども政策に求められる視点』

的場 康子

目次

こども家庭庁の創設

2022年5月17日、「こども家庭庁」設置関連法が衆議院本会議で可決された。参議院で可決成立すれば、子どもの最善の利益を実現するため、子どもと家庭の福祉の増進・保健の向上等の支援、子どもの権利利益の擁護等、政府の子ども政策を推進するための司令塔として、2023年4月、こども家庭庁が発足する。

過去にもこのような動きはあったが、実現に至らなかった。今回ようやく、分散していた子ども政策をこども家庭庁にまとめ、強い司令塔権限を持って関連省庁と連携しながら、子どもが誕生してから成人するまで途切れることなく支援する体制が整えられる見通しだ。これまでの少子化対策から、子どもの視点に立った子ども政策へ大きく転換しようとしている。

コロナを経験し、子どもをめぐる環境も大きく変化した。こうした社会変化に対応し、子どもの成長と子育てを支援するために、特に注目すべき視点を取り上げる。

保育所の機能強化

1つは、保育所の機能強化である。地域における親子の多様なニーズに対応するために、保育所を多機能化して、地域の育児支援の拠点とすることが求められる。

その背景には、待機児童数の減少がある(資料1)。今後の保育政策は、保育所の量的拡大から質的な充実への転換が必要である。

待機児童が減った理由の1つには、これまで子育て安心プランなどで、自治体が計画的に保育の受け皿づくりに力を入れていたこともあり、保育所の整備が進んだということがある。

また、就学前の子ども人口の減少もある。長期的な人口予測においても、子ども数の減少傾向は変わることがないと見込まれている。

さらに、コロナの感染拡大によって働けなくなった人が利用しなくなったり、あるいは、働くことができても、感染拡大が続く中で、子どもを預けることが不安になって、育児休業を延長したり、仕事を断念したりした人たちが多かったということもある。

このような状況を踏まえ、保育所の利用児童数が将来的に頭打ちになることも見据えて、これからの保育政策については、働いていない人も含めた、すべての人の子育てを支援するという役割を強化する必要がある。

待機児童数の推移
待機児童数の推移

育児の孤立化対策

コロナの感染拡大は、地域の人々とのつながりを分断した。コロナ禍で実施された調査によると、子どもを通じた地域のつながりについて、「子どもを通じて関わっている人はいない」と回答した人が、共働き家庭で25.1%、片働きで30.7%となっている(資料2)。共働き家庭よりも、片働き家庭、つまり専業主婦家庭の人の方が「つながりがない」と答えた人の割合が高い。この中には、子どもがまだ幼稚園に通っていない家庭も多いことも推測される。専業主婦家庭の育児の孤立化はコロナの感染拡大前から問題視されていたが、コロナによって地域活動等の中止が相次いだことで、さらに深刻化した可能性がある。そこで、親が働いている、働いていないにかかわらず、すべての子育て家庭が利用できる保育施設が地域に必要であり、保育所を、地域の子育て支援の中心的な機関として機能強化を図るべきということが打ち出されている。

また、専業主婦の中には、時にリフレッシュしたいというニーズもある。そのようなニーズに対応するため、一時預かり保育の充実も検討されている。

さらに、医療的ケア児や障害児の増加に伴い、保育所等で受け入れる体制を整えることが求められている。発達支援保育の知識のある保育士をはじめ、作業療法士や言語聴覚士などの専門職員と連携し、多様なニーズを抱えた子どもや保護者への支援も重要な課題である。

これからの保育政策においては、待機児童対策だけでなく、保育所を地域のすべての子どものための子育て拠点として機能強化していくことが期待されている。

子どものwell-beingの向上

これからの子ども政策に重要な視点の2つ目は、子どものwell-beingの向上である。これまでの少子化対策はどちらかというと、出生率向上が主な目的であった。今回打ち出された子ども政策の基本理念には、子どもの視点を重視し、すべての子どもが「安全で安心して過ごせる多くの居場所を持ちながら、様々な学びや体験ができ、幸せな状態(well-being)で成長できるよう、家庭、学校、職域、地域等が一体的に取り組む」として、子どものwell-beingの向上を掲げている。

具体的には、保育所や学童保育の整備に加えて、子ども食堂などの地域の居場所づくりを図ろうとしている。子ども食堂とは、「地域のボランティアが子どもたちに対し、無料又は安価で栄養のある食事や温かな団らんを提供する取組」(厚生労働省資料より)である。地域で子育て支援をしているNPO団体などと共に、地域のつながりを重視して子どものwell-beingを支えることを目指している。

また、子どもの安全対策にも注力すべく、今回新たに性的被害防止の取組が追加された。例えば、子どもの安全確保のために、子どもに関わる仕事に就く人に性犯罪歴がないかを確認する「日本版DBS」制度を検討するとされている。すべての子どもが健やかで安全・安心に成長できる環境を整え、彼らの幸せな成長を支えようというものだ。

これまでの子育て政策は、主に厚生労働省、内閣府、文部科学省の3つの府省庁が関与してきた。こども家庭庁が発足しても、文部科学省は幼稚園に関する行政を移管せず、連携にとどまっている。そのため、一元化といっても完全に実現されるわけではない。

コロナ禍によって、子育てにおける地域のつながりの重要性が浮き彫りになった。こども家庭庁の創設を契機に、地域のつながりを再生しながら、すべての大人がそれぞれの立場で子どものwell-being向上のために何が必要かを考え、健やかな成長のための取組を活性化させることを期待したい。

子どもを通じた地域とのつながり<複数回答>
子どもを通じた地域とのつながり<複数回答>

的場 康子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

的場 康子

まとば やすこ

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: 子育て支援策、労働政策

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