注目キーワード『医薬品の費用対効果』/編集後記(2022年2月号)

重原 正明

今年4月に2年に1回の「保険診療の価格」診療報酬および薬価の改定が行われます。今回はそのうちの薬価に対する費用対効果の評価について説明します。

健康保険が適用される薬の価格については、中央社会保険医療協議会(中医協)の答申に基づき厚生労働大臣が定めることになっています。この決定方式については、類似の薬効を持つ薬品との比較をもとに定める方式や、開発の原価に基づく方式が取られています。

しかし、2014年頃、単価が百万円近い高額の医薬品で保険適用となる事例が登場して、健康保険の財政への影響が懸念されました。このことなどを契機に、医薬品に対し費用対効果を測定し、その結果に基づき薬価を調整する仕組みが、2016年度から試行、2019年から正式に導入されました。

薬品の効果としては、QALY(Quality-adjusted life years)という数値が測定に用いられます。QALYとは、生活の質を加味した生存年数です。まったく健康な状態を1、死に至った状態を0として患者の生活の質を数値化し、これを生きている間の毎年に対し足し合わせたものがQALYとなります。

そして、ある薬を用いることで平均してQALYがどれだけ増加するかを推定し、それで費用(使用する薬価の累積値)を割った値を出した上で、他の薬と比較して薬価を増減するというのが、日本における費用対効果による薬価調整の仕組みです。

日本の制度の特徴として、薬を公的保険の適用対象にするかどうかの判断には費用対効果を考慮していません。ここはイギリス等の制度とは異なるところで、開発された新薬を保険の対象に含めるまでの時間が節約できるとされています。

革新性が高く市場規模が大きいなど一定の条件を満たす薬を対象に費用対効果評価が行われ、結果大幅な薬価の引き下げが行われた例もあります。一方、費用対効果の判定能力の限界もあり、費用対効果調整の対象となった薬は、すでに評価を終えたものを含めても2021年12月1日時点で28に留まっています。新薬の開発を促しつつ、公的健康保険制度の健全性と効率性を高めるため、費用対効果評価が有効に用いられることを期待します。

(総合調査部 研究理事 重原 正明)

編集後記

この年末年始、欧米ではオミクロン株の感染者数が爆発状態。1日当たりの感染者数がこれまでのピークを越える国もある。年始恒例の2022年ビックリ予想では「WHOのパンデミック収束宣言」というものもあったが、何とかこれまでの知見をフル活用して収束に向けて山を越え宣言が実現されることを祈りたい。

このところ岸田政権の「成長と分配の好循環」、「令和の所得倍増計画」という戦略から、日本人の所得についてのデータ等が報道される機会が増えた。ご存じの通り、先進各国と比べるとこの20年ほど日本だけ横ばい。一人当たりの平均所得はほぼほぼ韓国と並び、2~3年後には抜かれる…どれも指摘され続けていたことではあるが、改めてTV等で大々的に報道されたことでそこまで差がついたのか、どうして日本だけ?と思った方々も多いと思う。

ただこうした状況はここ数年で急に起きたことではなく、90年代から起きていたことだ。当時の○○白書には、今多くの新聞、経済雑誌等でその分析結果が公表されているものとほぼ同じ調査分析結果、処方箋が書かれています、という話も聞く。つまり状況は認識していたということだ。ただ分かっていたのに対応できなかったということ、或いは本当は分かっていなかったからピントのずれた対応をしていたということかもしれない。

どちらにしても、当たり前のPDCAサイクルが回っていなかったということだ。最近頻発の統計不正問題もPDCAサイクル、今どきはEBPM(Evidence Based Policy Making)と言った方がいいのかもしれないが、を軽視の風土があるのではないかと心配になる。まさにコロナ禍対応はEBPM、PDCAサイクルをフル回転させないと的確な対応ができないもの。是非とも定着させてほしいものだ。

(H.S)

重原 正明

Recommend

おすすめレポート