ライフデザインの視点『アフターコロナに向けた「オンライン観光」の可能性』

~生活者調査にみる需要側・供給側のメリット~

水野 映子

目次

コロナ禍により広がった「オンライン観光」

昨年来の新型コロナウイルスの感染拡大により、国境を超えた移動は厳しく制限され、日本と外国を観光目的で行き来する人は皆無に近くなった。また、日本の中での移動にも自粛が求められ、国内旅行者も激減した。
 そのような状況下で急速に広がり始めたのが「オンライン観光」「オンラインツアー」「オンライン旅行」などと呼ばれる取り組み(以下、「オンライン観光」に統一)である。これらの言葉の定義はないが、一般には、オンライン会議のシステムを使って国内外の観光地と在宅の参加者とを結び、ライブ映像や動画で現地の様子を見せながら実際の旅行のようにガイドすることなどを指す。企画・主催は旅行会社のほか、交通事業者、宿泊施設、行政、観光協会などがおこなっている(宿泊施設が実施するものは「オンライン宿泊」と呼ばれることもある)。
 その内容や付随するサービスは多岐にわたっており、例えば現地の特産品の宅配や買い物体験が組み込まれたもの、歴史や芸術文化・建築など特定の分野を詳しく解説するもの、料理・ものづくりや体を動かす体験をおこなうもの、語学学習を兼ねたもの、見学・視察的なものなどがある。コミュニケーションの方法もさまざまで、ガイドの話がメインの場合もあれば、ガイドや現地の人、参加者が双方向で直接会話する場合もある。
 このように多様に展開したオンライン観光は、コロナ禍により苦境に立たされた旅行業界、旅行したくてもできない生活者双方の一筋の光となっている。本稿では、当研究所が生活者を対象に実施した調査の結果から、オンライン観光の今後の可能性を探る。

*この調査において「『オンライン観光』とは、旅行会社、交通事業者、宿泊・観光施設、自治体などの企画により、Zoom・Skypeなどのオンライン会議システムを使って、観光地などの様子を見聞きしたり、何かを体験したりすることを指します。『オンラインツアー』『オンライン旅行』などの呼び方もあります。有料か無料かは問いません」とした。

経験者はまだ少ないが…

この調査ではまず、オンライン観光の参加経験をたずねたが、参加したことがあると答えた人の割合(以下、経験率)は6.1%のみであった(資料1)。少なくとも調査時点(2021年初め)では、オンライン観光はまだ一般には普及したとはいえない状況にある。
 性・年代別に経験率をみると、どの年代においても女性より男性で高い。また、男女とも若い人の経験率が比較的高い傾向にある。男性や若い人のほうが、仕事や学業などを通じてオンライン会議のシステムに慣れているとすれば、そのことがオンライン観光への参加にも影響しているのかもしれない。

資料1
資料1

次に、オンライン観光に参加したことがない人に対して関心の程度をたずねたところ、「関心がある」と答えた人は2割弱にとどまった(資料2)。性・年代別にみると、やはり若い世代の関心のほうが高い傾向がみられる。
 ただし、実際のオンライン観光では、高齢者などが自宅で子どもや孫と一緒に、あるいは介護施設で参加しているケースも見受けられる。オンライン観光への申込や機器の設定をサポートしてくれる人が身近にいれば、あるいは自身でそれらを容易にできるようになれば、関心がない層も関心を持ち、参加に至ることも考えられる。

資料2
資料2

アフターコロナでの活用可能性も大

では、オンライン観光に参加したことがある人は、どのような感想を持っているのだろうか(資料3)。
 まず注目したいのは、約7割もの人が「『オンライン観光』で見聞きした場所に、以前より関心を持った」と答えたことである。観光関連の事業者や観光地域などの供給側にとっては顧客の関心を喚起できるメリット、需要側(顧客)にとっては旅行場所の選定や旅行プランの検討に役立つ情報を得られるメリットが、オンライン観光にあると思われる。
 また、「『オンライン観光』を楽しめた」「『オンライン観光』で旅行したような気分を味わえた」と答えた人も6割を超えた。これらは、オンライン観光そのものが旅行の疑似体験という娯楽のツールになり得ることを示している。今後、映像・音声を伝える技術の向上などによってオンライン観光の臨場感が増せば、疑似体験効果もより高まるだろう。
 さらに需要側は、既に行ったことのある場所のオンライン観光への参加を通じて、旅行の思い出を振り返ることや、現地の人と再会・交流することもできる。そうした「旅行後」のオンライン観光は、供給側にとってみれば、顧客との関係を維持し、その場所の旅行のリピーターやファンを獲得するチャンスにもなる。
 ウィズコロナの時代の苦肉の策として生まれたともいえるオンライン観光だが、アフターコロナの時代にも活かせるさまざまな可能性を秘めている。今後のさらなる展開が注目される。

資料3
資料3

水野 映子


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