内外経済ウォッチ『米国~労働市場の正常化には時間~』(2021年5月号)

桂畑 誠治

米労働市場の改善ペース加速

米国の労働市場は、新型コロナウイルス感染者の増加ペース鈍化などに伴う行動制限の緩和を背景に、足元で改善ペースを速めている。21年3月の非農業部門雇用者数は、前月差+91.6万人(2月:同+46.8万人)と加速した。学校再開の動きによって政府部門が同+13.6万人(2月:同▲9.0万人)と増加に転じたほか、民間部門が同+78.0万人(2月:同+55.8万人)と加速した。民間部門では、行動制限の影響を受けてきた飲食店、芸術・エンターテイメント・余暇、教育サービス、宿泊が増加したほか、天候の改善で建設業、製造業が増加した。

また、3月の失業率は、6.0%(2月:6.2%)と改善したほか、現在職探しをしていないが過去1年間に求職活動を行った人や正規雇用を探しているが非正規で働いている人も失業者に含む“広義の失業率”は10.7%(2月:11.1%)と低下した。

労働市場はコロナ危機前よりかなり悪いまま

上述のように、米労働市場の回復ペースは3月に加速したものの、水準、質はともにコロナ危機前と比較し大幅に悪化した状況が続いている。非農業部門雇用者数はコロナ危機前の水準を大幅に下回っているほか、失業率や“広義の失業率”の水準は労働参加率の大幅な低下にもかかわらず依然として高い。また、就業率もコロナ危機による急低下の後、回復は鈍い。さらに、27週間以上失業している長期失業者は3月に421.8万人(前月比+7.0万人)と増加、失業者に占める割合は43.4%(2月:41.5%)と上昇を続け、労働市場の質の悪化を示している。

資料1
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自然失業率の到達や就業率のトレンド回復まで遠い

3月の失業率は、労働参加率がコロナ危機前と同率であれば8.8%となる。ただし、労働参加率は景気拡大と労働環境の改善持続によってコロナ危機前の上昇トレンドに回帰することを考慮すると現在の失業率の実態は9.7%と試算される。FRBが想定する自然失業率の4%程度からは遠く、自然失業率に到達するまでかなりの時間が必要になると想定される。

また、就業率の正常化を示すコロナ危機前の上昇トレンドへの回帰は、経済支援策の効果が弱まる21年10-12月期以降、19年と同率の改善ペースとなれば28年までかかる。新型コロナウイルスワクチンによる重症化抑制効果の持続期間が不透明なほか、変異種による感染拡大の可能性もあるため、22年以降も大規模な経済支援を継続しなければ、労働市場の正常化にはかなりの時間が必要となる恐れがある。

資料2
資料2

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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