内外経済ウォッチ『欧州~ワクチン接種で明暗を分けた英国とEU~』(2021年4月号)

田中 理

英国に比べてワクチン接種が遅れるEU

欧州では昨年末に新型コロナウイルスのワクチン接種が開始された。人口当たりのワクチン接種数は、3月初めの時点で英国が3割超と先行し、欧州連合(EU)は加盟国平均で8%未満と遅れが目立つ。昨年春の第一波では、自国の感染対応に追われたEU各国が医療資源を抱え込み、医療崩壊の危機に瀕していたイタリアなどに十分な医療支援を提供することが出来なかった。EUはワクチンを共同調達することで、一部の加盟国にワクチンが行き渡らない事態を回避するとともに、調達コストを引き下げることを目指した。

EUのワクチン接種が遅れている背景には、供給能力が追い付いていないことがある。EU離脱前に欧州医薬品庁(EMA)が置かれ、製薬会社と深いパイプを持つ英国は、契約・承認でEUに先行し、国内に複数の生産拠点を持つ。EUは契約や承認が遅れたうえ、域内でのボトルネック解消に時間が掛かっている。また、供給が先行していた英国製ワクチンについて、複数のEU加盟国が65歳以上への有効性の根拠が乏しいとし、高齢者への接種を奨励してこなかった。1月にEMAが全ての年齢層への利用を承認し、ドイツやフランスなども最近になってこうした方針を改めたが、国民の不信感が払拭されず、接種の伸び悩みにつながっている。

人口100人あたりの新型コロナ、ワクチン接種数
人口100人あたりの新型コロナ、ワクチン接種数

英国は秋にも集団免疫獲得が視野に

接種の遅れを批判されているEUは、供給能力の増強や別のワクチンの承認を急ぐとともに、1月末には域内で製造されたワクチンを輸出する際に届出と承認を課す輸出管理を導入した。さらに、国境管理が行われていない南北アイルランド経由でEU製ワクチンが英国に流入することを防ぐため、北アイルランドへのワクチン輸出を停止する方針を発表した。北アイルランド和平を脅かす一方的な決定に、英国やアイルランドが一斉に猛反発し、EUは結局この決定を取り下げた。

接種が進む英国では、病床や集中治療室の利用患者が1月中旬のピーク時から半分未満に減少している。7月末までに全成人が1回目の接種を終えることを目指し、秋には集団免疫の獲得が視野に入る。今後はEUのワクチン供給体制も徐々に整い、とりわけ4月以降は大幅に接種能力が拡充される見込みだ。EUは今夏の終わりまでに成人70%のワクチン接種を目指している。ただ、フランスなど一部の加盟国では、ワクチン接種に懐疑的な国民も多い。また、感染力の高い変異種がEU内でも広がっており、感染の再拡大や高止まりの兆しも散見される。感染封じ込めが遅れれば、行動制限の長期化による景気回復の後ずれや政治的な波紋が広がる恐れもあり、今後の動向に注意が必要となる。

ワクチンを接種した/接種を希望する割合
ワクチンを接種した/接種を希望する割合

田中 理

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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