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2025.09.30
アジア経済
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トランプ政権
トランプ関税
中国・9月企業マインドは収益圧迫と雇用圧縮が一段と鮮明に
~内巻の影響は深刻化、「内巻の勝者」によるデフレの輸出は日本にとって対岸の火事ではない~
西濵 徹
- 要旨
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- 中国共産党は来月に4中全会を開催し、不動産不況や米中摩擦で景気に不透明感が高まるなか、第15次5ヵ年計画や新質生産力の強化を軸に事態打開に向けた方策を議論する予定である。しかし、反腐敗運動や雇用不安、不動産不況による内需低迷に加え、内巻(過当競争)による収益圧迫、ディスインフレというジレンマに直面している。こうしたなかで大幅な政策転換に動く可能性は低いと見込まれる。
- 米中関係は、TikTokの米国事業売却の合意や来月にも首脳会談を行う予定で合意するなど、最悪の状況は回避されている。しかし、関税や輸出規制に関する協議は停滞しているほか、中国当局は米中協議の裏側で米国企業への圧力を強めるなど譲歩に動く気配はない。米中双方が一歩も引かない姿勢をみせていることを勘案すれば、先行きの協議も一進一退の展開が続く可能性は高いと見込まれる。
- 9月の企業マインド統計(PMI)をみると、民間企業を中心に製造業(51.2)やサービス業(52.9)で比較的堅調な動きが続く。しかし、政府統計では製造業(49.8)が依然好不況の分かれ目となる50を下回るほか、非製造業(50.0)もギリギリの状況にある。企業は原材料高を製品価格に転換できず収益が圧迫されている。さらに、生産活動が活発化しても雇用創出力は低下しており、内需低迷の根本的な解決には至っていない。こうした状況が続けば、「内巻の勝者」によるデフレの輸出が広がることが予想され、4中全会での政策動向が注視される。距離的に近い日本にとっても中国の状況は決して対岸の火事ではないと捉えられる。
中国共産党は、29日に開催した中央政治局会議において、重要会議である4中全会(第20期中央委員会第4回全体会議)を来月20~23日の日程で開催することを決定した。4中全会では、来年から始まる中期経済計画である第15次5ヵ年計画を中心に議論が行われる予定である。中国景気を巡っては、米国との貿易摩擦に加え、中国国内の不動産不況も重なり、景気に対する不透明感が高まっている。こうしたなか、事態打開に向けて有効な経済政策を打ち出せるかが注目される。中央政治局会議では、第15次5ヵ年計画の基本方針について「わが国の発展環境が直面する深刻、かつ複雑な変化を分析し、戦略的な構想を示した」と評価している。その上で、経済運営を巡っては、習近平指導部が産業の高度化を重視する『新質生産力』の強化に加え、高水準の開放維持、資源配分における市場の役割を十分に発揮させる必要があるとの考えを示している。その一方、習近平指導部は引き続き『反腐敗・反汚職運動』を推進しており、足元ではその一環として実施されている倹約令が個人消費など内需の足を引っ張るなど負の側面も顕在化している。さらに、若年層を中心とする雇用不安が家計部門の財布の紐を固くするなか、企業の過当競争(『内巻』)が企業収益の悪化やディスインフレを招くなど社会問題化している。中国当局は過剰生産能力の是正や価格競争の抑制に向けた取り締まり強化(反内巻)に動く方針を示しているが、その行方については不透明なところが少なくない。このように、政策運営は真逆の方向に綱引きをし合う状況が続いているものの、習近平指導部が大幅な政策転換に動く可能性は低いと見込まれる。
他方、米中関係を巡っては、今月開催されたマドリード協議において、中国系動画投稿アプリ(TikTok)の米国事業の売却に関する基本的な枠組み合意に至るとともに、その後にトランプ米大統領は買収計画に関する大統領令に署名するなど大枠が固まりつつある様子がうかがえる。ただし、関税や輸出規制などに関する協議は依然として大きな進展がみられないなど、今後の追加協議に持ち越される動きがみられる。さらに、米中協議が行われている裏側では、中国当局が米半導体メーカー(エヌビディア)に対する独占禁止法違反を理由とする予備調査を開始するとともに、中国のテック企業に対して同社製半導体の購入停止を指示した旨が報道されるなど、米国に対して一歩も引かない姿勢をみせる。11月には、8月のストックホルム協議において追加延長することで合意した関税の上乗せ分や輸出規制の停止期限が迫るなか、来月末に韓国で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議に合わせて米中首脳が直接会談を行うことで合意している。さらに、来年にはトランプ氏が訪中するほか、習氏も適切な時期に訪米することで合意するなど、米中関係は最悪の状況を回避している様子がうかがえる。しかし、中国は米国に対してまったく譲歩する意向を持っておらず、今後の協議は一進一退の展開が続く可能性に留意する必要がある。
このように、足元の中国経済は内・外に不透明要因が山積する状況が続くなか、9月の製造業PMI(購買担当者景況感)は49.8と前月(49.4)から2ヶ月連続で上昇しており、持ち直しの動きがうかがえるものの、6ヶ月連続で好不況の分かれ目となる50を下回る水準で推移している。足元の生産動向を示す「生産(51.9)」は前月比+1.1pt上昇して6ヶ月ぶりの水準となるなど、生産が活発化する動きがみられる一方、先行きの生産に影響を与える「新規受注(49.7)」は同+0.2pt、「輸出向け新規受注(47.8)」は同+0.6pt上昇するも、ともに50を下回る水準に留まるなど受注動向が完全に回復しないにもかかわらず生産を拡大させている様子がうかがえる。なお、生産拡大の動きを反映して「購買量(51.6)」は前月比+1.2pt上昇するなど原材料の調達を活発化させる一方、「輸入(48.1)」は同+0.1ptとわずかな上昇に留まるなど、中国経済への依存度が高い国々にとって中国国内における生産拡大の動きが中国向け輸出に繋がりにくい状況にある。さらに、国際商品市況の高止まりを反映して「投入価格(53.2)」は前月比▲0.1pt低下するも高水準で推移する一方、「出荷価格(48.2)」は同▲0.9ptと大幅に低下しており、中国当局による反内巻の取り組みにもかかわらず、企業は原材料価格の上昇分を製品価格に転嫁できない展開が続いている。また、需要の見通しが立たないなかでの生産拡大を受けて、「完成品在庫(48.2)」は引き続き50を下回る水準に留まるも、前月比+1.4pt上昇するなど在庫が積み上がる動きが確認されている。そして、生産拡大を受けて「雇用(48.5)」は前月比+0.6pt上昇するも引き続き50を大きく下回るなど、家計部門にとっては消費意欲が高まりにくい状況が続いている。

一方、民間企業の動向をより反映しているとされる9月のS&P製造業PMIは51.2となり、前月(50.5)から+0.7pt上昇して6ヶ月ぶりの水準となるなど持ち直しの動きを強めている様子がうかがえる。足元の生産動向を示す「生産(52.0)」は前月比+1.5ptと大幅に上昇して3ヶ月ぶりの水準となるなど、政府統計同様に生産活動が活発化しているほか、先行きの生産動向を示す「新規受注(52.3)」は同+1.6pt上昇して7ヶ月ぶりの水準に、「輸出向け新規受注(51.0)」も同+1.6pt上昇して6ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復しており、国内・外双方で受注動向が改善している。これは、上述したストックホルム協議において関税の上乗せ分や輸出規制の停止期限が延長されたことで当面の外需への不透明感が後退していること、7月末の中央政治局会議において社会保障の拡充や就業支援など内需下支えに向けた取り組み強化の方針が示されたことを好感しているとみられる。また、生産活動が活発化していることを反映して「購買量(53.2)」は前月比+3.1ptと大幅に上昇して10ヶ月ぶりの高水準となるなど、素材や部材など原材料に対する需要を活発化させる動きがみられる。ただし、商品市況の高止まりを受けて「投入価格(51.8)」は前月比+0.3pt上昇しているにもかかわらず、「出荷価格(49.7)」は同▲0.3pt低下している上、2ヶ月ぶりに50を下回る水準となるなど、価格転嫁が難しいのみならず企業収益を圧迫する可能性が高まっている。さらに、生産活動が活発化していることを受けて「完成品在庫(51.3)」は前月比+0.6pt上昇して10ヶ月ぶりの水準となるなど、在庫が積み上がる動きも確認されている。そして、生産活動が活発化しているにもかかわらず「雇用(49.7)」は前月比+0.4pt上昇するも、引き続き50を下回る水準に留まっており、製造業における雇用創出力が低下していると捉えられる。

また、製造業と対照的に堅調な動きをみせてきた非製造業PMIだが、9月は50と好不況の分かれ目となる水準を辛うじて維持しているものの、前月(50.3)から▲0.3pt低下するなど勢いを欠く動きをみせている。業種別では、前月に7ヶ月ぶりに50を下回るなど急ブレーキが掛かる動きがみられた「建設業(49.3)」は前月比+0.2pt上昇するも、2ヶ月連続で50を下回るなど低迷が続いており、「サービス業(50.1)」も同▲0.4pt低下するなど、幅広い分野が厳しい状況に直面している。サービス業のなかでは物流や通信、金融関連などが好調な一方、飲食や不動産、スポーツ・娯楽関連は対照的に厳しい状況が続いており、業種ごとのバラつきが鮮明になっている。先行きの経済活動を左右する「新規受注(46.0)」は前月比▲0.6pt低下している一方、「輸出向け新規受注(49.8)」は同+1.0pt上昇するなど対照的な動きをみせているものの、ともに50を下回る水準に留まるなど受注動向は力強さを欠く。さらに、中間財を中心とする価格下落の動きを反映して「投入価格(49.0)」は前月比▲1.3pt低下しており、こうした動きに加えて価格転嫁の難しさも重なり「出荷価格(47.3)」も同▲1.3pt低下するなど、ディスインフレ圧力が一段と強まる動きがみられる。そして、企業マインドの悪化を受けて「雇用(45.0)」も前月比▲0.6pt低下するなど雇用調整圧力が強まる動きがみられるなど、家計部門の消費マインドの悪化が懸念される。

また、民間企業においてもサービス企業のマインドは相対的に堅調な動きをみせているものの、9月のS&Pサービス業PMIは52.9と引き続き好不況の分かれ目となる50を大きく上回るも、前月(53.0)から▲0.1ptとわずかに低下している。先行きの経済活動を左右する「新規受注(53.0)」は前月比▲0.8pt低下するも引き続き50を大きく上回るとともに、「輸出向け新規受注(52.0)」は同+0.5pt上昇しており、国内・外ともに受注動向は堅調な推移をみせている。また、賃金上昇や原材料価格の上昇を受けて「投入価格(50.4)」は前月比+0.2pt上昇しているほか、「出荷価格(50.1)」も同+0.4pt上昇して2ヶ月ぶりに50を上回る水準となるなど、サービス業においては輸出向けを中心にコスト上昇を製品価格に転嫁する動きがみられる。ただし、コスト上昇圧力に晒されるなかで企業は雇用拡大に及び腰になっており、「雇用(48.4)」は前月比▲0.3pt低下して17ヶ月ぶりの低水準となるなど、雇用を取り巻く環境は厳しさを増している。こうした状況は、サービス企業も利益が圧迫を受けていることを示唆しており、表面的なマインドは堅調な推移をみせているものの、先行きは内巻の影響がマインドの足かせとなる可能性に注意する必要がある。

上述したように、足元の企業マインドについては、民間企業を中心に堅調な動きが確認されるとともに、国有企業についても大企業を中心に持ち直しの動きがみられる。しかし、中国当局による反内巻に向けた取り組みにもかかわらず、依然として価格競争に晒されるなかで収益は圧迫される状況が続いている。さらに、その影響は幅広い分野で企業が雇用拡大に及び腰となる動きに現れており、当局は様々な内需喚起に向けた取り組みをみせているものの、その効果は一過性のものに留まることが懸念される。なお、内巻の勝者となった企業については、価格競争力のみならず、足元では技術面でも競争力を有することを勘案すれば、内・外需双方への取り組みを積極化させることが予想される。ただし、そうした動きは、いわゆる中国による『デフレの輸出』の動きが一段と広がりをみせることを意味しているほか、距離的に近い日本にとっても対岸の火事ではないことに注意する必要がある。よって、来月に予定される4中全会をはじめとする中国当局の動きをこれまで以上に注視した上で、柔軟かつ迅速に対応することが求められる局面が続くであろう。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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