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2024.07.18
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米国経済マンスリー:2024年7月
~9月利下げが既定路線となりつつある~
前田 和馬
- 要旨
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6月の失業率が3か月連続で上昇する一方、ISM製造業・サービス業やミシガン消費者信頼感などのマインド指標は軟調に推移している。米国における景気後退の懸念は限定的に留まるものの、労働市場を中心に減速の動きが鮮明となっている。
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この間6月のコアCPIは市場予想を下回るなど、2%インフレ目標達成には依然距離があるものの、4~6月期の良好なCPIはインフレ収束への確度を高めている。9月利下げを示唆するFRB高官の発言がみられるなか、市場は9・11・12月の年内3回の利下げを織り込み始めている。
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11月大統領選を巡って、共和党が全国大会にてトランプ支持で団結を強める一方、民主党内ではバイデン撤退を求める動きに収束がみられない。仮にバイデン撤退となる場合でも新たな候補者選定等で混乱する可能性があり、当面はトランプ氏の優勢が続くことが見込まれる。
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経済指標
- 6月全米供給管理協会(ISM)景況感指数
6月ISM製造業PMIは48.5(5月:48.7)と3か月連続で低下した。3月に17か月振りに好不況の節目となる50を一時的に上回ったものの、4~6月は再びこれを下回る推移となるなど、製造業活動は高金利政策による需要抑制を背景に本格的な回復の兆しがみられない。6月の内訳をみると、生産は48.5(50.2)、受注残が41.7(42.4)と共に3か月連続で低下した一方、生産活動に先行する新規受注は49.3(45.4)と前月からの反発を示した。他方、6月ISM非製造業PMIは48.8(53.8)と前月から低下した。サービス業活動は2か月振りに節目となる50を下回るなど、一進一退の推移を示している。内訳をみると、事業活動が49.6(61.2)と大幅に低下したほか、新規受注が47.3(54.1)、雇用が46.1(47.1)と幅広い項目で前月水準を下回るなど、総じて低調に推移した(詳細は「米国 製造業の緩やかな調整を示す(6月ISM製造業)」及び「米国景気減速で9月利下げ期待強まる(ISM非製造業)」)。
- 6月雇用統計
6月雇用統計における非農業部門雇用者数は前月差+20.6万人(5月:+21.8万人)と、前月から小幅に減速した。同時に公表された4月実績は-5.7万人、5月実績は-5.4万人と共に大幅に下方修正された結果、3か月移動平均では+17.7万人(5月:+21.2万人)と7か月振りに節目となる+20万人を下回るなど、雇用増加ペースに減速の兆しがみられる。なお、足下の雇用者数の増加は不法入国を含む移民の大幅な流入に押上げられていると考えられ、潜在的な雇用者数の伸びは2024年で+16~20万人/月と、想定以上の移民流入が雇用の伸びを+10万人/月押し上げていると試算される(注1)。
6月の雇用者数を業種別にみると、医療・社会福祉が+8.24万人(+8.29万人)と人手不足を背景に29か月連続で増加し全体を押し上げたほか、建設業が+2.7万人(+1.6万人)、卸売業が+1.42万人(+0.15万人)と前月水準を上回った。また、政府部門は+7.0万人(+2.5万人)と州・地方政府の雇用拡大が続いている(産業別の雇用動向に関しては6/19付け「米国の雇用増は持続可能か?(需要編)」を参照)。
一方、6月の労働参加率は62.6%(62.5%)と小幅に上昇した一方、失業率は4.1%(4.0%)と3か月連続で上昇した。失業率は黒人やアジア人を中心に緩やかな上昇が持続している。この間、週平均労働時間は前年比-0.3%(-0.3%)と下落した一方、平均時給が+3.9%(+4.1%)と2か月振りに減速した。この結果、労働所得(=民間雇用者数×平均労働時間×平均時給)は+5.1%(+5.4%)と、緩やかに減速しつつも雇用拡大を背景に増加基調で推移している。他方、CPI上昇率を控除した実質賃金は時間当たりで+0.8%(+0.7%)と14か月連続、週当たりでは+0.6%(+0.5%)と13か月連続でそれぞれ増加するなど、インフレ鈍化を背景に堅調な雇用所得環境が持続している(詳細は「米国 6月雇用統計は9月FOMCでの利下げをサポート」)。
- 6月消費者物価指数(CPI)
6月消費者物価指数(CPI)は前月比-0.1%(5月:+0.0%)と23か月振りに低下した。足下のトレンドを示す3か月前比年率は総合指数が+1.1%(+2.8%)、コア指数は+2.1%(+3.3%)と大幅に減速するなど、インフレ収束の兆しを示している。6月の内訳を見ると、食品が前月比+0.2%(+0.1%)と外食を中心に上昇した一方、エネルギーは-2.0%(-2.0%)とガソリン価格を中心に2か月連続で低下した。この間、食品・エネルギーを除くコアベース指数は+0.1%(+0.2%)と3か月連続で前月から減速した。コアCPIの内訳を見ると、住居費は+0.2%(+0.4%)と2021年1月以来となる低い伸びを示した一方、住居費を除くコアCPIは-0.0%(-0.0%)と横ばい圏で推移した。財コアは-0.1%(-0.0%)と低下するなどデフレ基調にある一方、サービス品目では航空運賃や娯楽サービスが低下した。この間前年比でみても、CPI総合は前年比+3.0%(+3.3%)、食品・エネルギーを除くコアCPIが+3.3%(+3.4%)と共に前月から伸びを鈍化した。先行きのCPIは家賃減速を主因に騰勢の鈍化が続く可能性が高いものの、賃金上昇等を背景にサービス価格や家賃が再加速するリスクに警戒が必要だろう(詳細は「米国 6月CPIの一段の低下で9月利下げに前進」)。
- 6月小売売上高
6月小売売上高は前月比0.0%(5月:-0.2%)と前月から横ばい圏で推移したものの、マイナスを見込んでいた市場予想(-0.3%)を上回った。内訳をみると、自動車が-2.0%(5月:+1.0%)と自動車販売店のシステム障害(サイバー攻撃)を背景に大幅に減少したほか、ガソリンが-3.0%(-2.1%)と価格下落を背景に2か月連続で減少し全体を押し下げた。一方、オンラインを中心とした無店舗小売は+1.9%(+1.1%)と2か月連続で高い伸びを示したほか、家電が+0.4%(+0.3%)、飲食は+0.3%(+0.4%)と共に3か月連続で前月水準を上回った。この結果、変動の激しい項目を除いたコア小売売上高(自動車・ガソリン・建設材・飲食サービスを除くベース)は+0.9%(+0.4%)と2か月連続で増加、4-6月期で通してみると前期比+0.8%(1-3月期:+0.3%)と加速するなど、消費は緩やかな減速の兆しをみせながらも堅調に推移している(詳細は「米国 良好な6月小売売上統計で景気悪化懸念後退」)。
- 6月鉱工業生産
6月鉱工業生産は前月比+0.6%(5月:+0.9%)と前月から2か月連続で上昇した。内訳を見ると、鉱業が+0.3%(-0.7%)と2か月振りに前月水準を上回った一方、公益は+2.8%(+1.9%)と過去130年間で2番目の気温の高さであったことを背景に3か月連続で上昇した。他方、製造業は+0.4%(+1.0%)と2か月連続で上昇、4-6月期で通してみても前期比年率+3.4%(1-3月期:-1.3%)と前期から反発するなど、製造業活動は持ち直しの動きを示している。6月の内訳を見ると、自動車・同部品が+1.6%(5月:+0.0%)、電気機器が+1.5%(+1.1%)と共に上昇し全体を押し上げた。また、素材業種に関しても、化学が+1.2%(+2.0%)、食料品・タバコが+0.4%(+0.8%)、石油・石炭製品は+0.5%(+3.6%)と幅広い業種で堅調に推移した(詳細は「米国 生産活動が活発化(6月鉱工業生産)」。
- 6月住宅着工件数
6月住宅着工件数は年率135.3万戸(5月:131.4万戸)と前期から小幅に増加した(前月比+3.0%;5月:同-4.6%)。とはいえ、中古住宅の在庫が低水準に留まる状況においても、住宅着工が住宅ローン金利上昇による需要抑制を主因に総じて低調に推移している状況に変化はない。内訳を見ると、戸建住宅が前月比-2.2%(5月:-3.4%)と4か月連続で減少した一方、集合住宅は+19.6%(-8.2%)と北東部や中西部を中心に増加した。この間、住宅着工に先行する住宅建設許可件数は年率144.6万戸(139.9万戸)と4か月振りに増加したものの、その水準は依然停滞の域を脱していない(詳細は「米国 住宅着工は予想上振れも調整持続(24年6月)」)。
経済見通し
4-6月期実質GDP成長率(7/25公表)を巡っては、7/17時点のアトランタ連銀によるGDPナウキャストが前期比年率+2.7%(1-3月期:+1.4%)と3四半期振りの加速を見込んでいる。同四半期の個人消費を巡っては、4-6月期のコア小売売上高が前期比+0.8%(同、+0.3%)と再加速を示した。足下ではコロナ収束後に見られたレジャー消費へのリベンジ需要に一服感が示されているものの、消費が急減速する兆しは限定的に留まっている。他方、同四半期の設備投資に関しては、機械設備や無形資産投資を中心に堅調さを維持した可能性が高い。
とはいえ、足下のマインド指標は総じて弱い動きを示しており、これが景気急減速の兆しである可能性に警戒が必要だろう。6月ISM製造業は好不況の節目である50を3か月連続で下回った一方、7月のミシガン消費者信頼感指数は66.0(6月:68.2)と4か月連続で低下するなど軟調に推移した。
先行きの景気を巡る懸念要因としては、過剰貯蓄の取り崩しの進行、長引くインフレによる家計購買力の侵食、及び高金利政策による需要抑制効果の発現などが挙げられる。特に高金利の影響を巡っては、2024年1-3月期におけるクレジットカードローンの90日以上延滞率が10.7%(2023年10-12月期:9.7%)と3四半期連続で上昇し2012年4-6月期以来の水準へと達するなど、低所得家計を中心とした債務膨張が個人消費を押下げるリスクがある。また、企業の利払い負担上昇による設備投資の下押し(米国経済マンスリー:2023 年11月)、及び商業用不動産の市況悪化を巡る地銀等の経営環境悪化、これに伴う金融環境の急速な悪化に対する懸念も依然払拭されるに至っていない。
ちなみにコロナ以前の過去3回の景気後退において、利上げ打ち止めから景気後退に陥るまでの期間は11-19か月であり、景気悪化時には失業率が急速に悪化する傾向にある(詳細は「米国経済マンスリー:2023 年12月」)。今次利上げ局面の終了が2023年7月と仮定すると、2024年後半以降に累積的な利上げによる設備投資や新規雇用への影響が急速に発現し、景気後退へと陥る可能性は否定できない。足下では賃金の減速と共に求人倍率(=求人数/失業者数)の低下が続くなど、雇用市場の過熱感が解消しつつあり、失業率が急上昇するリスクに警戒が必要だろう。

金融政策
- パウエル議長の半期議会証言(7/9-10開催)
パウエル議長は半期議会証言において、労働市場の正常化を指摘したうえで、インフレと雇用の2つのリスクを注視する姿勢を強調した。まず、足下の失業率は依然低い水準にあるものの、「労働市場はかなり冷え込んできており、バランスを取り戻した」と述べた。この間インフレ率は「明確に減速」しており、(過去数か月に見られたような)良いインフレ指標が一段と確認されれば年内に利下げに踏み切ることを示唆した。また、こうした労働市場の冷却とインフレの進展を踏まえると、「インフレ高止まりが唯一のリスクではない」と述べたほか、「失業率が上昇する懸念は(前回の議会証言があった)3月よりも強まっている」と指摘するなど、雇用情勢を注視する姿勢を明確にしている。一方、「この場で今後の政策に関するシグナルを送るつもりはない」と利下げ開始のタイミングに関しては明言を避けた。
- ベージュブック(7/17公表)
7月8日までの情報に基づく地区連銀経済報告(ベージュブック)では、経済活動が「僅か、或いは緩やかな拡大を維持」とまとめられたものの、家計の慎重な消費姿勢を指摘するなど、景気の更なる減速に対する警戒が示された。内訳を見ると、経済活動は7つの地区で幾分の増加、5つの地区で横ばいから減少であった。労働市場を巡っては、熟練労働者の確保に依然として課題がある一方、離職率の低下が新規の労働需要を押下げていることが指摘された。この間、物価は総じて緩やかなペースで上昇する一方、ほぼ全ての地区で小売業者の値下げや消費者による購入品目の削減が生じていると報告された。先行きを巡っては今後6か月の成長減速が見込まれており、この背景として11月の大統領選・議会選、国内政策、地政学的紛争、及びインフレの不確実性が挙げられた。
- 市場の政策金利見通し(7/17時点)
4-6月期の良好なCPIを踏まえても、パウエル議長を中心としたFRB高官は7月の利下げを示唆しておらず、金融市場は9月の利下げ開始をほぼ既定路線とみている。FF金利先物に基づくFedWatchによると(7/17時点)、7月FOMC(開催日:7/30-31)では政策金利の据え置き予想(5.25-5.50%)が95.3%となる一方、9月FOMC(9/17-18)で25bpの利下げ(5.00-5.25%)が開始されるとの見方が91.7%に達している。その後は11月FOMC(11/6-7)で再度の利下げ予想(4.75-5.00%)が56.9%、12月FOMC(12/17-18)で3会合連続での利下げ(4.50-4.75%)が51.8%にそれぞれ達するなど、市場は9・11・12月の年内3回の利下げを織り込み始めている。

大統領選
- 選挙情勢
11月大統領選に関する各種世論調査に基づくと、トランプ前大統領が全米支持率のみならず、多くの激戦州においてもバイデン大統領をリードしている。バイデン大統領は第1回テレビ討論会で高齢批判が強まっており、その後の記者会見やテレビインタビューにおいてもこうした懸念を払しょくできていない。7月17日時点において、バイデン氏は選挙戦を継続する意向を維持しているものの、民主党の上院トップであるシューマー院内総務、下院トップのジェフリーズ院内総務が撤退を進言したと報道されるなど(注2)、8月の民主党全国大会(8/19-22開催)が迫る中でバイデン撤退論が収束する兆しはみられない(7月3日付け「バイデン撤退はありえるか?」)。
バイデン政権の政策運営を巡っては、インフレ鎮静化や堅調な経済環境が続く状況においても、経済政策に対する評価が芳しくない。バイデン氏が選挙戦を継続する場合、今後、雇用拡大等の実績を上手くアピールできるかが重要となる。また、不法移民流入に対する国民の不満が根強いなか(4月15日付け「バイデン政権下で流入する730万人の不法移民」)、6月4日に発表した大統領令(一定の不法越境者が確認された場合、亡命申請を受け入れずにメキシコ等へと即時送還)の政策効果が今後顕在化するのか、これを通じて移民政策に失敗したイメージを11月の投票日までに払しょくできるのかが注目される。
一方、トランプ氏の選挙キャンペーンには足下で幾つかの追い風がみられている。まず、13日にペンシルベニア州の演説中に銃撃を受けたものの、その直後に右耳を負傷しながらも拳を振り上げ、大統領候補としての強さを示した。次に、候補者指名を最後まで争ったヘイリー氏が共和党全国大会でトランプ氏への支持を明確にしたため(当初ヘイリー氏は大会に招待されていなかった)、トランプ支持に消極的な一部穏健派の意見が党内で弱まる可能性がある。最後に、機密文書保管に関する裁判を巡って、第一次トランプ政権時に任命されたキャノン・フロリダ州判事が検察側の起訴を棄却し(検察側は判断を不服としてその後上訴)、トランプ氏が選挙期間中に出廷等で負担を強いられる可能性が低下している。
- 共和党全国大会(7/15-18開催)
7月15日、共和党全国大会(7月15~18日開催)が開幕し、選挙公約である政策綱領を採択したほか、大統領候補としてトランプ氏、副大統領候補としてJ.D.バンス上院議員が正式に指名された。副大統領候補としてのバンス氏の選出は、ラストベルトの激戦州において白人労働者の支持を固める狙いがあるとみられる。また、トランプ氏が11月の大統領選で勝利する場合、化石燃料への生産拡大支援、拡張的な財政政策、仮想通貨やAI開発に対する規制緩和が景気刺激要因と期待される一方、関税引き上げや移民抑制を通じたインフレ再加速や景気下押しが懸念される(7月17日付け「トランプ暗殺未遂後の共和党全国大会」)。
また、6月25日に実施されたブルームバーグのインタビューにおいて、トランプ氏は自身の経済政策を「低金利と低課税」と述べ、法人税を現行の21%から15%か20%へ引き下げる意欲を示した。2026年5月に任期を迎えるパウエルFRB議長には「任期を全うしてもらう」と述べる一方、11月の大統領選前の利下げはバイデン氏再選の追い風になるため控えるべきとFRBに警告した。また、強いドルが問題であるとも指摘し、円安や人民元安への懸念を示した。


【注釈】
-
Edelberg, Wendy, and Tara Watson (2024), “New immigration estimates help make sense of the pace of employment,” Brookings Institution: The Hamilton Project.
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ABC News, “Schumer privately urged Biden to step aside in 2024 election: Sources.” (2024-7-18参照)
前田 和馬
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

