- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- トランプ暗殺未遂後の共和党全国大会
- US Trends
-
2024.07.17
米国経済
米国経済全般
米国大統領選
トランプ暗殺未遂後の共和党全国大会
~政策綱領及びバンス副大統領候補の政策スタンスを点検~
前田 和馬
- 要旨
-
- 7月15日に開催された共和党全国大会では政策アジェンダである政策綱領が採択された。化石燃料への生産拡大支援、拡張的な財政政策、仮想通貨やAI開発に対する規制緩和が景気刺激要因と期待される一方、関税引き上げや移民抑制を通じたインフレ再加速や景気下押しが懸念される。
- トランプ氏は副大統領候補としてオハイオ州選出のJ.D.バンス上院議員(39歳)を選出した。ラストベルトの激戦州において白人労働者の支持を固める狙いがあるとみられる。
- バンス氏は関税引き上げやドル切り下げなどの保護主義政策を支持する一方、ビックテック解体といった反大企業的な政策を主張するなど、大多数の共和党員と異なる政策スタンスを示す側面もある。同氏がトランプ政権誕生時の意思決定にどれほど影響力を持つのか注視が必要だろう。
7月15日、共和党全国大会(7月15~18日開催)が開幕し、選挙公約である政策綱領を採択したほか、大統領候補としてトランプ氏、副大統領候補としてJ.D.バンス上院議員が正式に指名された。13日、トランプ氏はペンシルベニア州の演説中に受けた銃撃で右耳を負傷したものの、初日から党大会に参加しており、18日の指名受託演説では11月の大統領選勝利に向けて米国の団結を訴えるとみられる。
政策綱領
経済政策に関してはトランプ氏が繰り返し主張している内容であり、特段の新規性はない(原案は8日に公表済み)。化石燃料への生産拡大支援、拡張的な財政政策、仮想通貨やAI開発に対する規制緩和が景気刺激要因と期待される一方、関税引き上げや移民抑制を通じたインフレ再加速や景気下押しが懸念される。
まず、有権者の関心が強い「インフレ鎮静化」を巡っては、化石燃料生産に対する規制撤廃、及びグリーンニューディールの廃止など、バイデン政権が取り組む気候変動対策の巻き戻しを通じて、エネルギー価格を中心とした物価抑制を主張している。また、トランプ氏は自身が大統領になった際にロシア・ウクライナ戦争を終結させると述べており、政策綱領においても「世界平和が地政学リスクを抑制し、商品価格を低下させる」旨の記載がある。
次に、財政政策に関しては2026年より失効するトランプ減税の恒久化に加えて、「チップ収入の非課税化」が強調されている。後者に関しては、飲食・宿泊などの接客業に従事するマイノリティへの支持拡大を狙った政策とみられる。他方、法人税減税に関しては「関税の引き上げによって、労働者・家計・企業への減税が可能」と記載されるに留まり、具体的な税率の記載はない(トランプ氏自身は法人税率を従来の21%から15%か20%に引き下げることを主張)。
個別の産業政策を巡っては、自動車産業(主にビックスリーを想定)の保護のため、バイデン政権による電気自動車推進策の停止を主張している。また、民間企業のイノベーションを喚起するために、中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)発行への反対、バイデン政権が導入したAI開発規制(2023年10月の大統領令で安全性基準などを導入)の撤廃、及び商業部門との連携を含む宇宙産業の強化を主張している。
一方、景気抑制やインフレ加速の懸念がある政策としては、通商政策と移民政策が挙げられる。前者の通商政策を巡っては「公正かつ互恵的な貿易取引による米国へのサプライチェーン回帰」を主張し、具体的な政策として一律関税の導入(綱領には明記されていないものの、トランプ氏は10%の一律関税を主張)、中国に対する貿易上の最恵国待遇の廃止、中国による不動産や米系企業の買収停止などを挙げている。また、移民政策では「移民の侵入を阻止する(stop the migrant invasion)」を掲げ、国境の壁の完成、在外米軍を帰国させメキシコ国境へと配備、不法移民の大規模送還などを指摘している。なお、トランプ氏は2016年大統領選挙の当選後にも不法移民300万人を強制送還する方針に言及したものの、実際の在任中にはこれがほとんど実現しなかったことに留意が必要である。
経済政策以外に関して、妊娠中絶を禁止する州の権利を尊重するとし、全米レベルでの中絶禁止を目指すとのスタンスは示されなかった。2022年の中間選挙では保守派による中絶への強硬なスタンスが共和党の苦戦を招いたとの見方が強く、今回の政策綱領では無党派層を意識した内容となった。一方、ペンス前副大統領などの一部の保守派(福音派)はこれに失望を表明しており、バイブルベルトといわれる南部州を中心にトランプ支持が幾分弱まる懸念がある。
副大統領候補にJ.D.バンス上院議員を指名
トランプ前大統領が選出する副大統領候補を巡っては、キューバ系アメリカ人のマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)、ノースダコタ州のバーガム知事など複数の候補が挙げられており、トランプ氏への忠誠心や支持層拡大の原動力となるかが選考材料とみられていた。最終的に副大統領候補に選ばれたJ.D.バンス氏は39歳の上院議員であり、2022年に地元オハイオ州で初選出されるなど、政治活動歴は長くない(上院議員となる前はアメリカ海兵隊員やベンチャーキャピタリストとして従事)。一方、同氏の回想録である「ヒルビリー・エレジー」はラストベルトにおける白人労働者階級の悲哀を描いたベストセラーであり、中西部の有権者へのアピールに繋がることが予想される。トランプ氏は既に西部や南部の激戦州(アリゾナやジョージアなど)で優勢を保っているため、ラストベルトの激戦州であるウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州のいずれかで勝利の確度が高まる場合、11月の大統領選において過半数の選挙人を獲得する可能性が高い。
バンス氏の政策スタンスはトランプ氏と概ね一致しているとみられている。米政治メディアのPoliticoはバンス氏を「熱烈な保護主義者(ardently protectionist)」と称しており、地元オハイオ州を含むラストベルトの製造業再興を目指すスタンスを明確にしている。より積極的な関税政策を志向するほか、日系企業による米国の大手鉄鋼企業の買収にも率先して反対を表明した。また、ドル安政策にも前向きとみられており、「(通貨の)切り下げというのは怖い言葉だが、それは輸出品が割安になることを意味する」と言及している。また、7月のパウエルFRB議長の議会証言における質疑では、移民流入が家賃を中心としたインフレ高騰、及び米国人の賃金低下を招いていると指摘したうえで、労働力不足は移民ではなく米国人の労働参加を促すことで解決すべきと主張している(パウエル議長は移民流入がインフレを全米レベルで押し上げるとの考えを否定)。
一方、バンス氏は共和党の多数派とは異なる政策スタンスを一部の分野で抱いている。例えば、バイデン政権が提案する大銀行への資本規制強化に他の共和党員と同様に反対する一方、2023年6月にはクレジットカードの決済手数料引き下げに向けた超党派法案を提出している。また、「反大企業的」ともみられる政策を支持する傾向にあり、産業の新陳代謝を阻害する(或いはリベラルな価値観を重視する)ビックテック企業の解体、及び企業合併に関する税制優遇措置の撤廃などを提案している。税制措置を巡っては、低所得家計に対する通信費補助(Affordable Connectivity Program)の継続を巡り民主党の考えを支持した一方、大学基金における投資運用収益への増税法案(税率1.4%→35%)を2023年11月に提出するなど、減税や財政拡張への考えは多くの共和党関係者よりも緩やかとみられている。
バンス氏は2016年の大統領選に際してはトランプ氏を「文化的ヘロイン」と強く批判した一方、その後は方針を大きく転換し、2022年にはトランプ氏の支援を受ける形で上院議員として初当選を果たした。このため、政治家歴の浅いバンス氏の政策スタンスは依然流動的な可能性がある。2025年にトランプ政権誕生となる場合、バンス氏が自身の主張を維持しトランプ氏の政策判断に一定の影響力を持つのか、或いは影響力が限られるなか政策スタンスを共和党の中心的な考え方に寄せていくのかが注目される。
【参考文献】
Politico, “What's J.D. Vance's agenda? Trump's VP pick wants to break up Google, rein in banks and (maybe) raise taxes”(2024-7-15参照)
前田 和馬
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

